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禍祓日霊  作者: 舞端有人
13/20

第拾弐之幕

 次の日の朝。これまではいつも夜遅くまで禍祓いをしていたから朝起きることが億劫で仕方なかったけど、今日は昨日早く寝たこともあって凄くお目覚めスッキリだった。


「おはよー」


 いつもより軽い体で、いつも通りの時間に居間に向かう。そこにはほんの少し眠そうなお母さんと、シャンと背筋を伸ばしてお茶をすすっているお祖母ちゃんとが居た。キッチンの方ではお父さんが朝食の準備をしてくれている。それと、一応ヤタも居た。


「あれ? 大直と日笠は?」

「んー。おおくんは寝坊。ひーちゃんはそろそろ来る頃じゃない?」


 ああ、そういえば今まで話題に一回も上がっていなかったけれど、日笠ってのは私の妹のことで、今小学4年生だ。あと、お母さんは私達の事を愛称で呼ぶ事がある。私はそれが嫌だから飛凛って呼んでって言ってるけれど、未だにりんちゃんって呼ばれるし、葵ちゃんが私の事をりんちゃんって呼ぶのは、お母さんの所為でもあったりする。でも、友達から呼ばれるのとお母さんから呼ばれるのでは訳が違うよ。因みに大直もそれが嫌らしくておおくんって呼ばれると怒ってる。


「んー……おばーちゃん、おとーさん、おかーさん、おねーちゃん、おはよーございまーす」

「おはよっ」

「んーおねーちゃーん」


 まだ少し寝ぼけている日笠がフラフラと私の元にやって来て私に抱き付いて来た。私はその場にしゃがみこんで日笠を抱き締めて頭を撫でてあげる。日笠は年齢の割に幼い、というよりかなり甘えん坊で、お母さんや私に直ぐに甘えに来る。それがもう凄く可愛くて、ついつい世話を焼きたくなっちゃうんだよね。


「ほらほら、もう起きる時間だよ。お父さんがご飯の用意してくれてるから、一緒に歯を磨きに行こ?」

「わかったー」


 立ち上がって日笠の手を握り、洗面所へ向かう。

 顔を洗って、歯を磨いて、寝ぐせのついた髪を梳いて身だしなみを整えていく。流石に顔を洗って目を覚ました日笠も私の真似をしながら身だしなみを整えている。


「むぅー、髪の毛上手く結べないよぉ。おねーちゃんやって!」

「はいはい」


 日笠の髪の毛は腰にかかる程長い髪の毛で、私が毎朝髪の毛を編んであげている。日笠はすぐに私の事をマネしたがって、私が髪を簡単に纏めているだけなのに同じ髪型にしたい! って言っていたから、私が「編み込んでいる方が可愛いよ」って勧めて、それ以来ずっと編み込みにしている。

私自身がそんな髪型にしてみたいからってのと、可愛い妹との和やかな時間を過ごしたいって理由で、朝のこの至福の時間を過ごしている訳で。

 日笠のサラサラで綺麗な黒髪を、後ろで編み込んで長いポニーテールみたいにしてあげる。


「はい、出来たよ。どう?」

「おねーちゃんがやってくれたんだから、可愛いに決まってる!」


 屈託ない笑顔で私の前をくるくる回ってくれる天使の顔を見ると凄く嬉しいし、今日一日頑張ろう! って思える。

 二人で居間に戻ると、丁度お父さんが朝食を机に配膳し終わってくれたところで、今日の朝食はベーコン入りのホットサンドにサラダ、後はミネストローネって献立の朝ごはんだった。


「はい、出来立てだよ。冷めないうちに食べてね。多かったら残してくれても大丈夫だから」


 とお父さんは言うけれど、お父さんのごはんはいつも美味しいし、体調が悪くない限り残したことは一度もない。それに家業の所為なのか血筋なのか、ウチの家族は皆よく食べる方だ。食べる分運動させられるから太ることもまず無いし。そのかわり筋肉がついちゃうけどね……。


「大直はまだ起きてこないのか。仕方ない、起こしてくるかな」


 前掛けを外して大直を起こしに行ったお父さんには悪いけれど、私達は先に朝ごはんをいただく事にした。

 ベーコン入りのホットサンドの外は程よくサクサクで、中にはベーコンとピザソースと少しだけチーズが入っていた。そのチーズも良い感じにとろけていて、噛り付いた所から細くチーズの糸が伸びた。サラダはキャベツの千切りに薄くスライスしたキュウリ、4分の1カットされたトマトが2つ。っていう、割とオーソドックスな感じ。後は熱すぎず、かといって温すぎず、冷めた体の中を優しく温めてくれるミネストローネ。

 美味しい朝ごはんにホッコリしていると、その静寂をぶち壊してくれる騒がしい奴が居間までドタドタやって来た。その後に続いてお父さんも入ってくる。


「寝過ごした!」

「寝過ごしてるのぐらい皆知ってるよ。早く顔洗って寝ぐせ直して来な、おおくん」

「はいはい、どーもご丁寧にありがとうございます、りんちゃん」


 大直は凄く嫌そうな顔をして吐き捨てるように言うとそのまま洗面所に向かった。ほんっと、可愛げのない奴。何処かのカラスはカラスで面倒だけど、このガキンチョも同じぐらい面倒な奴だ。


「もぅ。たまには二人とも仲良くしなさいよー」

「別に仲は悪くないよ? ただ、大直に可愛げがないだけ。日笠みたいに可愛かったらいいのに、ねー?」

「ねー」


 この天使が私の味方をしてくれるだけで、もう向かう所敵無しだ。


「ごちそうさまでした」


 美味しい朝ごはんをしっかりと摂って、自分の部屋に戻り、制服に着替えて学校に行く用意を整え、そして玄関へ向かう。


「それじゃあ行ってきます」

「はい、いってらっしゃい。気を付けて行くのよ」


 お父さんとお母さんのお見送りを背にして玄関を出る。

 チュンチュン、ピピピと雀の鳴き声が聞こえてくる。

優しい朝日がこの街を包んでいる。今日の朝は少し肌寒くて、だからと言ってコートを着るとちょっと暑いと思う。通学路の途中にあるバス停には多くの人が並んでいて、皆憂鬱そうな顔をしている。

 学校に向かうにつれて学生の姿が多くなっていく。私は大抵一人で学校に行っていて、その途中で仲のいい友達と会うと、その子と一緒に学校に向かうって感じだ。


「あ、りんちゃん。おはよー」

「葵ちゃんおはよー」


 まぁ、大体はこんな風に葵ちゃんと一緒に学校に行ってる。


「今日はなんだか元気そうだね?」

「あー、うん。昨日は家のお手伝いがお休みだったからね」

「昨日は大丈夫だった?」

「大丈夫だよ、心配してくれてありがとね」

「ほんとに? りんちゃんは大丈夫じゃなくても大丈夫って言うから心配だよー」


 あながち間違ってもいないかな……うう、葵ちゃんの純粋な目が痛い。


「ほんとに大丈夫だってば。もう、心配性なんだから」


 そんな話をしながら学校に向かい、学校に到着して、靴を履き替える。教室にはチラホラとクラスメイトが居て、楽しく誰かと話をしている子もいれば、必死に宿題をやっている子もいるし、カバンを枕代わりにして寝ている子もいた。

 本当に穏やかな日だと思う。禍がいなければこんな毎日を送れているんだろうし、禍の事を知らない皆は毎日こんな生活なんだろうから、凄く羨ましく思える。だからと言って、私は自分の家の事を嫌っている訳じゃないし、大変なことは多いけれど皆の何の変哲もない毎日をこうして守れているのだと思うと、それは誇り高い事だと感じている。

 キーンコーンカーンコーン……。

 スピーカーから響いてくる無機質な鐘の音が、学校の始まりを告げてくれた。その音と同じタイミングで、教室の前の扉がガラガラと開く。


「うらー、席に着け。朝のホームルーム始めるぞー」


 やる気の無いウチの担任、一昨日私の頭を授業中に叩いて下さったあの先生が教室に入ってきた。やる気が無いとは言いつつも、昨日みたいに体調が優れない時はキチンと気を使ってくれたりする分、悪い先生じゃないし、生徒からの人気もそれなりに得ているんじゃないかな。

 先生はいつも通りのやる気の無さを発揮しながら、伝達事項を如何にも事務的な作業ですよー、あぁめんどくさい。と言わんばかりに淡々と言ってくる。


「ん、伝達事項は以上。はい、じゃあ今日もテキトーに張り切ってくれ」


 先生がポケットに手を入れながら教室を出て行くと、皆それぞれ自分の授業を受ける為に教室を出て行く。私は、葵ちゃんと一緒に美術室へと向かう。

 勉強はあんまり好きじゃないけど、美術の授業は結構好きだ。上手いとか下手とか、そんな事は置いといて、とりあえず楽しいからね。

 教室に着いて暫くすると、奥の準備室から先生がやって来て今日の授業内容を説明していく。


「ねぇ、葵ちゃん。もし自分の失敗で誰かに迷惑かけちゃったら、葵ちゃんならどうする?」


 粘土をこねて柔らかくしながら何となく質問してみる。


「突然の質問だね~。うーん……そうだねぇ……」


 気になったから何気なく質問してみただけなんだけれど、葵ちゃんは真剣に考えてくれている。


「そうだねぇ~。多分、何も出来ないんじゃないかなぁ」


 葵ちゃんの口からは意外な答えが出てきた。


「だって、何も出来なかったから迷惑かけちゃったんでしょ~? じゃあ多分、何も出来ないと思うよ。もし出来ることがあるなら、何もしない事じゃないかなあって思うよ~」

「何もしない事……。でも、それでも何かしたいときはどうする?」

「その時は、何もしないで出来る事を探すだけだよ~」

「葵ちゃんも、中々無茶な事言うねぇ」


 何もしないで出来る事。何もしてないのに、何かをしてるってのは矛盾した話だけれど……。何か出来る事があるのかな。


「にしても、凛ちゃんにしてはなんだか珍しい質問だね。何かあったの?」

「んにゃ。大丈夫だよ」

「いつもいつも大丈夫しか言わないから、本当に大丈夫なのか分からないよ~。ほんとに、何かあったらいつでも頼っていいんだよ?」

「わかったよ、じゃあその時は遠慮なく頼らせてもらうよ」


 葵ちゃんはいつも優しくて、よく気が付く子だな、って思う。まぁ、私達もそれなりに長い付き合いではあるけれど、それでも人の事をよく見てるなーって、話すたびに実感する。

 良い子だとは思うし、私も葵ちゃんの事をある程度理解しているつもりではあるけれど、葵ちゃんの美的感覚は……なんて言うか、その、まぁ、凡人の私では残念ながら理解できない。

 今私の目の前で前衛芸術よろしく、名状できない凄い物を作っているんだけど。ってかこれは何? 確か今日の課題は身近な動物を作るって課題だったと思うんだけれど、どう見ても身近な動物には見えない。

 俵型の身体から棘が出まくっていて四本の足からは鋭い爪、それなのに顔はえらくキュートで……なんて言うか、ファンシーな恐竜みたい。


「ねぇ葵ちゃん、それは何?」

「えー! 凛ちゃん分からないの~? ネコさんだよ~ネコさん~」


 ……えと、どこが?



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