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禍祓日霊  作者: 舞端有人
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第玖之幕

 次の日の昼。私はいつも通り学校に行って睡魔と闘いながら授業を受けて、今は葵ちゃんと一緒にゆっくりお昼ご飯を食べているところ。


「凛ちゃん今日も眠そうだねー」

「うーん……昨日も家の手伝いがねー……」


 正直な話、私は今何を食べているのかすらあまり分かっていない程に眠たい。お昼ご飯を食べていると言うよりは、お昼ご飯を摂っている……ただ動くためのエネルギーを摂取する作業を行っている。っていう方がしっくりくるかも知れない。


「勉強に支障が出てちゃダメじゃないの~?」

「それがそんなことも言えないんだよねぇ」


 まぁ、先祖代々受け継がれてきた事だしね。それに、私たちが禍祓いをやめてしまうとこの街にとても大きな被害が出てしまう。昨日でさえもあんなことになったわけだしね。

 窓から空を見ると、いつもと変わりなく雲が流れていた。


「今日もいつも通り平和だね~」

「ん~そうだねぇ」

 

 昨日のことは、この街の人は基本的に知らないことになっている。

って言うのも、私達の力を使ってこの平坂町の人達の記憶を書き換えているのだ。悪い言い洗脳しているって言えるけど……まぁ兎も角、私たちの力を使って禍に関する記憶だけ消さして貰っている。


 壊れた道や家とかに関しても問題は無くて、いや問題だらけなんだけど、一応その工事費用は国から必要経費として落ちるらしい。しかも壊れた物に関しては次の日の朝には直っている。

 このことについて前にお祖母ちゃんに聞いてみたんだけど、にっこり微笑まれて話をはぐらかされた。……何か悪いことをしたってことはないよね?


 兎に角、私たちが禍祓いをしている最中に起こったことは、どういう訳なのか基本的にその責任を問われない。

 ご都合主義的だと思われるかもしれないけれど、これが意外とそうでもない。


 確かに修繕費とかは考えなくても良いけど、問題なのは最初に言った記憶の方。記憶の書き換えは、漫画やアニメみたいにサクサクっと終わるわけじゃなくて、結構時間と労力を必要としてる。

 私たちの使っているこの力は、代を重ねるごとに段々と弱くなっている。ご先祖様は自分たちの力だけで禍に関する記憶だけを操作したり出来ていたらしいけれど、お祖母ちゃんにもお母さんにも勿論私にもそんな芸当は出来ないから、平坂町の電波塔を使って私たちの力を街全体に行き渡らせて記憶の操作をしている。しかもこれが凄く力を必要とするから一番疲れるって言っても良いかも知れないぐらい。

 小さい被害ぐらいなら記憶を書き換えなくても特に問題はないし、被害に遭っている人が少ないときはその人の記憶だけ書き換えれば良いんだけど、昨日みたいな事になってしまうと規模が大きいせいで後が凄く手間になるし、怪我人が出てしまうと更に面倒になる。


「ふぁぁあ~……だめ、ねむ……」

「どうせ次の授業この教室だし、ちょっとだけ寝たらどう~?」

「う~ん……そうする~。授業前に……おこして……」

「は~い。おやすみ~」


 目を閉じて、机に伏す。

 瞼の裏の暗さの、更にその先の暗さで目の前が埋まる。

 周りで話している五月蝿いクラスメイトの金切り声が段々と遠くなっていって、体の感覚が薄れてゆく……。

 深く、深く沈んでいく。

 ―――トプン。


「ん……」


 身体が少し軽く、だがいつも通りだと言われればそんな重さなのかもしれない。息苦しくは無くて、窮屈な感じもしない。目の前は暗く、何も聞こえない。

 トン……と、足が床に着いた。

 自分の周りは仄明るく、ただひたすらに先の見えない道を黙々と歩く。

 暫くすると、遠く離れた場所に小さな灯りが目始めた。

 それを目指して、駆ける。一心不乱に。

 そして、穴に落ちた。

 穴は深く、延々と落ちて行く。落ちて行くにつれて、私の周りの感触が変わって来た。


「私、何で落ちているんだろう?」


 私が口から放った言葉はふんわりと、どこかに飽和するように消え去った。身体に伝わる感触は次第に空気のものから水気を含んでいるかのようなものへ変わっていた。落ちているという実感は無く、だが浮いている実感も無く、言葉にしがたい不思議な感覚に変わっていた。


「―――」


 近くも無く遠くも無い場所から、優しくて暖かい声が聞こえてくる。


「この声……」

「――――よ。」

「この声……この声! 前にも来た事がある!」


 そこで私は今居る場所が夢の世界だと気付く。所謂、明晰夢って奴なんだって思った。


「あなたはいったい誰なの?」

「――――よ。―は―――――と――――の」


 前と同じだ……声の正体は何も答えてくれない。

 それでも体はやっぱり動かない。動かし方が分からない訳じゃなくて、頭と体が別の生き物になってしまったような、体の上を滑る何かの感覚だけはあるのに、こっちの言う事を聞かない一方通行の信号。

 何も見えない無限の闇、吸い込まれるようにして消える私の声。

 目と口だけが動くことが、余計に怖い。


「ねぇ! あなたは誰なの! ここは何処なの!」

「――――よ。―は―――――と――――の。――の―――――――さい」

「だから! 何なのよ! ちゃんと言いなさいよ!」


 何度問いかけても、いくら言っても声の主は答えてくれない。

 ヌルりとした何かが私の体温を奪い始めた。あの時の夢と同じだ。もしこのまま私の記憶通りになるなら、私は体温も思考も何もかも奪われてしまう……。

 だから、私は必死に足掻くことにした。体は動かなくても、せめて意識だけは奪われたくない! ずっと頭の中で「この闇なんかに負けない」と強く強く強く思い続ける。

 闇が私の事を強く揺らしても、それでも強く思い続けた。


「負けない……こんな闇なんかに私は負けない!」

「りんちゃん!」


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