犬に追われて(改)
その日、俺は大きな木下の木陰で、ウトウトしていた。
おばちゃんの家族と、数人の人間が、ワイワイ喋ってる。
おいしそうなニオイもする。これは、焼き肉会ってものかな。
この界隈では、夏になると、人間達は、よくこういう集会をするようだ。
「あのネコ、よく助かったね。
敦子さんの言う通りだって、じいさんに説教されたよ
確かに私も不用意にしてしまったわ」
「確かに殺鼠剤で、ありがたい事に、ネズミはすっかりいなくなりました。
でもやっぱり、怖い薬です。これからは、忌避剤を使いましょう。
チャトラちゃんもいるし、ネズミは戻ってこないでしょう。秋までは。
おばちゃんとばあさんの 話は和やかな口調だ。
”チャトラちゃんもいるし”って処だけ、わかった。
話してる意味が、なんとなく分かるのは、おばちゃんとばあちゃんの話だけだ。
ここの”ばあさん”の話は、何もわからないけどな
寝てたわけじゃないけど、俺もノンビリしすぎて油断してたらしい。
突然、犬に追いかけられた。
「おい、なんだ!」って俺は、威嚇するヒマもなく、
1m飛び上がり、猛ダッシュで逃げた。
おかしいな、放し飼いの犬なんて、ここらにはいなかったんだけどな。
スピード争いなら負けないが、ウチラ猫は、速く長く走れない。すぐ息切れがする。
俺は、慌てて傍にあった車の荷台に飛び乗った。
ふー。犬は、ここまで登って来れないからな。危なかったぜ。
その犬は、長い耳であまり大きな体じゃない。
バウバウって、さかんに吠え立ててる。訛ってるのか、この犬。
犬は、ワンワンだろうが。
この犬の飼い主は、こっちの方をみて、ニヤニヤしてる。
そういえば、仲間の噂であったな。
ネコがいると、わざと犬をけしかける人間がいるって。
こいつの事だ。猫を苛めてなにが楽しいんだか。頭が腐ってるぜ。
犬の吠え声に、おばさんたちも、やってきた。
「やあ、どうもすみません。お騒がせして。うっかりリード はなれちゃって。
今度から気を付けますから。ホラ、バロン。おいで」
バロンっていうのか、あの犬。
しょうがない。バロンのせいばかりでもないかもな。
わざとリードを離す飼い主が悪い。
でも俺は猫だから避難できたけど、バロンが人間の子供を
追いかけたりしたら、ちょっとまずいんじゃねえか?
犬のハプニングはあってけど、昼飯の後の時間、俺はそのまま
車の荷台の上で、うたた寝した。
ここはいい。周りから見えないし。なにより高い処。
どのくらい、そこにいたのか。そろそろ、肌寒くなってきたので、
俺は納屋に戻る事にした。さて、活動開始だ。まずは、ご飯をもらって。へへへ。
今日は、少し、見回り範囲を広げようか。
荷台で考えてるうちに、ブルルっという音が響いてきた。
まずい、この車、動くつもりだ。
あわてて飛び降りようと思ったが、もう遅かった。
車は、庭から、アスファルトの道に出た。
俺は、動いてる車は怖い。仲間が何猫もあれに殺されてる。
俺らも注意して道を横切ってるんだけど、車のほうがはるかに速いんだ。
音のでてる車には、近寄らないようにもしてる。
ぬかったぜ。
車は、夕暮れの道をスピードを出して、どこかへ向かってる。
俺は あの居心地のいい納屋を 離れる事になるのか。
っていうことは、あのばあちゃんちからも、遠くなるんだ。
俺は自分の不用心さを反省したが、まあしょうがないかって、すぐ諦めた。
ここから飛び降りるなんて、出来っこないし、俺にはどうしようもない。
ついた先で、どこか暖かい寝床を探して、餌の算段をしよう。