チビ助との二日間(改)
声の方を向くと、灰色の毛玉が、転がってくるように来て
俺の腹にダイブした。
「ママ、おなかすいた」
「ママじゃねえ。俺はオスだ」
・・・子猫は、離乳したかしないかくらいの赤ん坊だ。
”ママじゃねえ”って俺の言葉は通じなかった。
ダイブしてきた灰色毛玉猫は、俺にしがみついて離れない。
困ったと思いながら、つい背中をなめたりした。
やせた子猫だ。青みがかた灰色毛も貧相にみえる。
よく見ると、左の前足が少し短い。生まれつきのものだろう。
普通に歩けないようだった。
可哀想だが、この子は人間の保護がないと生きていけないだろうに。
その夜は、その子を抱いて寝る事になった。
俺が必死にあっためても、子猫、このチビ助にはまだ寒いかもしれない。
チビ助は安心したように寝てるけど、時々、ピィピィ鳴く。
寒いのか、お腹がすいてるのか。それとも寂しいのか・・
当たり前の事だが、俺が母乳なんぞ、金輪際でない。
チビ助は、さかんにお腹のあたりをすうので、痛い。
ここは、大人だ我慢だ、俺。母乳はないけど、
母猫のように舐めるならお安い御用。
チビ助は、俺になついて、どこに行くにも離れなくなった。
ちょっとウザい時もあるけど、子猫の歩く速度に、合わせて、
コンビニの前を徘徊した。。
コンビニの客からもらったエサを少しだけわけたが、すぐ下痢をしてしまった。
子猫が食べるのは、無理なものだったのか。。
俺は、今度は一度、自分の口の中でくだいたものを、チビにやる。
今度は、食べやすそうだった。下痢は、少しですんだ。
食べたといっても、ほんの少しだ。それでも、食べると、目を細めてご機嫌だ。
二日もそうしてチビとすごしただろうか。
チビ助は、元気がみるみるなくなってきた。
やっぱりまだ、母乳が必要なのか。
どうする。このままだと、こいつは死んでしまうぞ。
コンビニの軒下にいるとき、俺は精一杯、助けを求めてるんだが・・
「あら、母子猫ね、ほほえましい。母猫は、お腹空いてるのか必死ね」
「やあ、あれは、母猫じゃないっしょ。第一、毛色が全然違う。
母親は、チャトラだし、子猫はロシアンブルーだよ。ほら、ペットショップで
見た事あるだろう?」
母じゃないし、俺はオスだし。
尻尾を立てて、懸命にアピール。もちろん、勲章をみせるためさ。
「あ、これ、オスだよ。父親かな。子供のためにエサをねだってるのか?」
俺の事をわかってくれたおじさん。エサをくれた。
お、チーズ入りチクワ。ラッキー。でも、一本じゃ、足りねえけど。
それに、チビ助が元気ないの、誰かわかってくれよ。
夜になった頃に、出勤してきた店員さんは、俺の寝床を内緒で作ってくれた人だった。
俺は、寒いのはチビ助によくないと思いながらも、
店先で、チビ助を連れ、その店員さんに訴えた。
「なあに?あらまあ。これは大変。この子、死にそうだわ」
そういうと、店の中に入って何か話すと、外に出て電話。
すぐさま、チビ助を抱いた。人間としては、美人とはいえないだろうけど、そのまるまっこい顔と体は、母猫を連想させた。
「あのね、わからないだろうけど、一応言っておく。
面倒みてくれてたみたいだし。
この子、今夜は知り合いの獣医さんに預かってもらうから。
助かるかどうかわからないけど、助かったら、私が飼う事にする。この子は野良では生きていけない猫なの。わかるでしょ。だから心配しないでね。
あなたも、はやく自分のウチに帰りなさい」
俺はそうして一匹になった。
やれやれ、せいせいしたというか、ちょっと寂しいかな。
お腹のあたりがスースーする。一匹でいるのが物足りない。
俺は、その夜、そのコンビニを出て、ばあちゃんちの方へ行くことに決めた。
”はやく帰りなさい”
この言葉が、俺を動かしたんだ。そう、帰らないと。
俺は、夜中の車の道(車はいない)を、すばやく横断し。川の音をたよりに
歩き出した。




