いらない贈り物
「痛っ!」
骨折はずいぶん前に完治したものの、まだちょっとしたことで右膝に痛みが走る。もう、思いっきりとんだり跳ねたりはできない。
深夜、しかも寒くなり始めたのも良くないようだ。一年前は、入ったばかりの実業団バレーチームでレギュラー獲り手前までいってたのに。せっかく、頑張ってたのに……。
身を崩して寄り掛かっていたソファで膝の状態を確かめてから、また立ち上がる。いつまでも痛がっていられない。ライブをやって、関係者と打ち上げをやって、そろそろ彼が帰ってくる。紅茶のお湯を沸かしておかないと。
「ただいま」
いつもの通り、花束やらプレゼントやらを抱えて彼が帰って来た。
「ほら、お土産」
そういって小さな箱をいくつかを投げてくる。すべて捕れるはずもなく、ぼろぼろと床にこぼす。
「あ。すまん」
いろんなものを投げ渡してくるのは、彼の一年以上前からの癖だ。昔は文句をいったり笑いあったりしたけど、今はそうもいかない。彼もすぐに謝って私が屈む前に拾ってくれる。
中身はおそらく、指輪。彼が「指輪が好き」と公言しているから。ファンの子たちはそれを信じ、思いを込めて彼に贈ったものだ。
「指輪は、本当は嫌いなんだよ」
見つめる私の視線に気づいて口をとがらす。
「だから、お前にやる」
そういい始めたのは、一年前から。
立ち上がる彼。私も立ち上がる。
身長は、バレーをやってた私より低い。彼はスポーツをやらないせいかとても線が細く、手の大きさも似たようなもの。誰かにインターネットに晒された彼の指輪のサイズは、ぴったり私のサイズでもある。だから、彼はいつも私に「いらない贈り物」として指輪をくれるのだ。
すでに彼が一度開けて中身を確認したらしく、それらの箱は包装紙に包まれない。中をあけると、やはり指輪。事前に抜いておくのか、手紙類が入っていたことは一度もない。
「指輪が嫌いなら、ファンの子にそういえばいいのに」
「彼女たちは、『俺の好きなものをプレゼントした』ということに満足してんだよ。だから、いいんだ」
「でも、私もこれ以上指輪が増えても困る」
もじもじとレシーブのように両手をこねて不平をいってやる。
「毎日毎日取り替えて違うのつければいいじゃない。それより、紅茶。一緒に飲もう」
そういってテーブルに花束を投げ出して上着を脱ぎはじめる。
分かってる。
分かってるのよ。
指輪をつけてれば、たとえやりたくてもレシーブもスパイクもできないものね。キッチンに行きかけて、また右膝が痛んだ。
「最近は、指輪をつけてるお前が好きなんだから」
不意に彼は振り向いて言う。
……分かってる。
いくらファンからもらった不要なプレゼントだからって、薬指の指輪を渡して来たことは一度だってない。
もうすぐ、クリスマス。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトの同タイトル企画で執筆した旧作品です。
いらない贈り物とほしい贈り物の妙をお楽しみください。