【きおく】―だれかのゆめ―
真っ黒な空から、白い雪の欠片が降りている
まっすぐに、まっすぐに、大地へ向かって降りてくる
耳が痛くなるほどの静寂の中、真っ白な雪が、風の無い空から降りていく
深々と降り注ぐ雪によって、石作りのその街は真っ白に染まっていた。
人の気配が絶えた都市の真ん中に、それはあった。
崩れた舞台のような、石柱が円く並んでいる。それはまるで古代人の残した神殿の遺跡のようにも見えた。
誰も居なくなった、雪と氷の白い都。
そこにぽつりと残された遺跡の中に、白いローブを被った人影が無言で佇む姿があった。
そして、彼らに囲まれた舞台の真ん中に『彼』はいた。
白い吐息が漏れる口もとから聞こえる息遣いは、もはや末期の病人のものと変わらぬように思えるほど弱々しい。身に着けているゆったりとした黒の法衣は見るからに最上級の品。だがそこから覗く手足は、病的なほどに青白く染まっている。
全身を襲う鈍い痛み、引き裂かれそうなほどの飢餓感。
『彼』は今まさに死のうとしていた。
そんな『彼』をただ静かに見下ろしている白い人影。
ヒューヒューと漏れる『彼』の苦しげな呼気の音以外無音に包まれた遺跡。
そんな重苦しい静寂の中を一人の若い女性がやってきて――
2016/7/14 改稿