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眠る私とお人形な王女様  作者: フォグブル
第四章 『眠り姫』達はまわりはじめる
25/26

 キオク/ユメ

 白い壁、白いシーツ。そして白いカーテン。

 目に写るものは、清潔そうな白色に統一されている。

 そんな白い空間をベッドに横たわりながら、ぼんやりと見渡す。


 どこだろう、とは思わない。

 なぜなら"オレ"は知っているから。


 ベッドを囲むように引かれたカーテン。柔らかく敷かれた薄い布団。それに消毒液の匂い。

 卒業して何年もたつのに、すぐにそうだと分かってしまう。

 あの頃、毎日通っていた場所。

 教室のざわめき。校庭の喧騒。鳴り響くチャイムの音に、窓から射しこむ赤い夕日。

 ありふれていた日常。その片隅に、当たり前のようにあったもの。

 今はもう、思い出の中にしかない日々。遠く離れた"オレの"日常。


 保健室だ、ここは。


 どうしてそんな場所で寝てるのか?

 分からない。

 分からないけど、鋭く胸を突く慟哭のような懐かしさの奔流に、浮かんできた疑問が流されていく。


 あの頃の風。

 あの頃の光。

 あの頃の香り。

 あの頃の景色。


 そのすべてが、涙が出るほどに懐かしくって――



『そのすべてが憎らしい』



○  ○  ○




【警告/封鎖/再構築】




○  ○  ○


 目を開く。

 白いカーテンに囲まれた小さなベッド。

 "初めて"見るのに、どうしようもなく胸が締め付けられる。


 悲しい。涙が溢れるほどに。


 薄い幕が張ったように思考はぼんやりとしている。

 まるで全部夢だったみたいに、何もかもがふわふわとして実感がない。


 この涙は、誰を思ってのものなのかな?


 そんな、一番大切なものが分からなくって。

 その事が何故か、どうしようもなく悲しいんだ。



○  ○  ○




【統合/接続/再始動】




○  ○  ○



 音がする。誰かが近づいてくる音。

 匂いがする。この部屋を満たしていた、消毒液の独特な匂いを超えて。

 新しい匂いが、あの香りが漂ってくる。


 ――瞼に浮かぶ景色。手のひらに乗せてもらったのは、透明な小さなガラス瓶。


 カップを満たすのは、太陽をそのまま閉じ込めたみたいな黄金色の一杯の紅茶。

 香り豊かなその飲み物に、ちょっとだけ溶かした琥珀色の結晶。

 とろけるように甘くって、だけど少しだけ苦くもある不思議なお砂糖。

 私の為にって、姉さんが異国から取り寄せてくれた、私だけの特別なプレゼント。

 ザラメという名の思い出の品。


 私の、私たち家族の香りがする。


 首を動かす。視界はまだ、涙で霞んだまま。

 でも、それでも。姉さんの髪の色を見間違えることはない。


 紅茶を乗せたお盆を置いたらしい、カチりと鳴る音。

 顔をのぞき込むように身をかがめて、涙にぬれた瞼をハンカチで優しく拭ってくれる仕草。

「大丈夫?」と聞いてくれる、懐かしいイリス姉さんの声。

 家族の香りと、大好きな人の温もりに包まれながら――




 "オレ"の意識は沈んで行って



  『そしてわたしは夢を見る』





お久しぶりです。随分と時間が経ってしまいましたが、また始めようと思います。

なお、連載再開に際して前話までの部分に所々手が入っています。

ストーリーに変更はありませんがご注意ください。

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