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第3話・移籍

こちらの都合により話が大きく変わります。すみません。最近忙しいもんで・・・・・・

話は飛んでシーズンオフ、11月10日。

何故だろう。

今俺は、凄く驚いている。

皆さんは、新球団の件をご存知だろうか。

知らないだろう。まあこの作品の中だけだから。

新球団と言うのは、この前奈良に出来た

「奈良ドルフィンス」の事である。

この前、

「ライフ」と言う大阪を中心に活動するスーパーマーケットチェーンが立ち上げた新球団だ。オーナーは中務(なかつかさ)と言う人である(無論偽名です)。実はその新球団の全貌が書かれた紙を今日、貰ったのだ。

「何故俺が居る!?」

この球団のコーチ及び選手は全て監督・田栄真一郎氏の選出である。愛甲氏や福本氏らも選ばれているのだが、コーチ陣は主にカープ出の人物である。朝山氏や野村氏、達川氏を招き、田栄真体制を整えたのだが、何故か投手コーチの欄に俺の名が書かれている。

「俺がコーチ!?」

セ・リーグに新規参入するこのチームのコーチをいきなり任される覚えはない。嵐さんが居るだろうに。

ちなみに他にもう1球団新規参入する。球団名は

「バルバルベルリンズ」。もう少しでバリバリと裂けてなくなりそうなチーム名だ。

それはともかく俺がコーチとは腹に据えかねる。

この奈良ドルフィンスには嵐と言う投手が来る。

前山嵐はミスタープロ野球とまで呼ばれる名投手で、全盛期にはシーズン防御率0点台をマークした事もある怪物なのだ。

150km後半の快速球と多彩な変化球、更には文句の付けようが無い、針の穴どころか服の繊維に球を通すコントロールを武器に沢村賞5回、ノーヒットノーラン1回、完全試合2回、最多勝15回、最優秀防御率15回、シーズンMVP7回、最多奪三振2回などなど数々のタイトルを獲得。万年Bクラスの近鉄を優勝に導き、2003年阪神優勝の立役者、その後の阪神の快進撃を支えた球界のエース。色々なチームを渡り歩き、カープに来たことも有った。高卒。17年目の今季、自分の花道を飾るにふさわしい球団として移籍して来たらしい。

俺が言いたいのはこのミスタープロ野球に兼任コーチをやらせれば良いと言いたいのだ。後輩からの信頼は厚く、誰からも慕われ、イチロー並にファンが多く、実際指導力もある嵐さんがやれば俺の数倍頼りにされるだろう。

しかし田栄真さんは俺を推薦した。何故か分からない。ってか、俺移籍!?

「移籍確定者は23日までに荷物を整え奈良に集合する事」

紙の1番下にそう書かれてあった。奈良まで行くのかよ・・・・・・。



奈良は意外と遠かった。大野寮の汚い自分の部屋に別れを告げ、車で高速道路に入った後、結構遠いなあと思いつつもダラダラと奈良まで走ってきた訳だが、俺の奈良のイメージとこの奈良は程遠い。俺は道路に平気で鹿が歩いていて、もっと空気が新鮮で、古都っていう感じがするのかと思っていたが、実際は鹿の為に網が張られ、空気は広島や大阪と大して変わらず、古都どころか車だらけの町。観光地とは得てしてこんなものなのか。

まあ奈良市ってのは県庁所在地だけにやっぱりこんなもんか、と車を進めると、やはり山が見え、寺が見え、神社が見え、五重塔も見える。やっと俺の奈良のイメージと合う所があった。

そしてその山の山腹に違和感有りまくりの建造物がどかっと建っていた。

球場と寮だった。文化財・春日大社を尻目に普通と言わんばかりにどかっと座った球場には、大きく「奈良私営球場」と書かれていた。寮には更にでかい字で

「奈良ドルフィンス選手寮」と書かれていた。

「ここ?」

俺は目を疑った。貧乏球団・広島東洋カープ所有の大野寮を遥かに凌ぐ程ボロかったのだから。新球団の待遇の悪さに呆然としている俺の側に、もう1台車が止まった。

「ここ?」

阪神のファームで4番を打つ、裏山加佐司だった。

「ここみたいっすね」

「・・・・・・ああ」

「あーあ、まさか新球団の寮が大野よりボロいとは思わなんだ」

「俺もだよ」

「入ります?」

「入るか」

2人は苦笑いを浮かべながら怪しさ満天の寮へと入って行った。

「こんちわー」

外がボロけりゃ中身もボロいドルフィンス寮。とりあえず割れた窓ガラスは張り替えた方が良いのでは?わざわざガムテープで押さえずに。ま、ガムテープあんまり意味無くなってるけど。隙間だらけだよ、寮長さん。

「誰かいませんかー?」

「あ?」

何か奥から出てきたのは、下中流紺であった。

「なんだ右田か」

「なんだとはなんだ」

「まあ良い、入って良いみたいだから入れ」

「うぃっす」

中のロビーに入ると、ほとんどの選手が居た。

「お、右田さんやないか。久し振りやなぁ」

「同じ球団だろが」

「滅多にあうことないやん」

「お前が1軍に上がってくれば良い事だ」

「なかなか出来んなあ」

「まあ良い。それより嵐麻、寮長は?」

「知らん」

こいつは前田嵐麻である。球界随一の剛球左腕なのだが、なにぶんコントロールがボロクソに悪い為あまり活躍出来ていない。ど真ん中に投げても詰まるという重量感溢れる快速球の持ち主だけに、勿体ない事この上ない。

「おーい、轆轤ー」

「ん?」

「寮長は?」

「知らん」

こいつは轆轤建一である。楽天で正捕手として年間125試合スタメンマスクを被った男である。

「えー注目ー」

いきなり部屋の隅から聞き慣れない声がした。見ると、中年のおっさんが1人立っていた。

「えー、私がこの「奈良寮」を管理する掛川腎臓かけがわじんぞうと申します。まず、この寮でのマナーというものを知ってもらいたいと思います。まず、喧嘩はなるべくしない。これは常識ですね。2つ目、練習を怠らない。これも常識。最後に、部屋の鍵は必ず掛けておく。この3つの常識を守って下さい。以上」

選手は呆然となる。特にこれと言った規制もなく、ただ常識を3つ述べて勝手に始めたスピーチに勝手にピリオドを打った。

「あ、後向こうの案内板と部屋の戸に選手名が書かれていますので、それを参考にして各自移動して下さい。以上です」

案内板を見たら五十音順に部屋が割り当てられていた。

「う、う、う・・・・・・あ、2階か。げ、隆夫の隣かよ」

隆夫とは俺の弟で横浜の6番を打っていた右田隆夫の事である。

「2階か・・・・・・」

「よおコメ」

「ん?あ、昌樹。どした?」

「お前、何階?」

「2」

「良いな〜俺5階だぞ」

「しかしボロいなこの寮」

「仕方ねえんじゃねえの、金無いし」

「まあな。皆年俸激減だもんな」

「監督ですらギリ1億」

「虚しいな」

「しっかし、こんなチームで優勝とか出来んのか?」

「初年度は無理だろ。でも5年目以降は分からん」

「ま、そんなもんか」

「比較的戦力は揃ってるから。ただ轆轤や福神らパ・リーグ勢がセ・リーグ相手にどう戦うかが問題だな」

「成程」

「ま、なるようになれだ」

「そだな」

「じゃ、俺荷物運ぶから」

「俺もだ。じゃあな、コメ」

ちなみにコメとは俺のあだ名である。由来は1年目の春季キャンプの時心配した親がキャンプ地にコシヒカリを送って来たから。先程の選手は林昌樹である。先輩なのだがやけに親しみが有るのでので敬語は一切使っていない。向こうも余り気にしていない。

荷物を運び終り、部屋を見回す。まさしくボロアパート。風呂は共同(3階にある)、辛うじてトイレが付いている。

「あーあ、ひでえな」

床は歩く度に軋む、壁は大きなヒビが1つ、窓にはセロテープが貼られてある。

「カープの大野寮がどんだけ綺麗かよく分かったよ・・・・・・」

言いながらドアに貼られてある寮の見取り図を見る。まず1階にロビーと田栄真監督の部屋。2階は選手部屋。3階は食堂・浴場。4階・5階・6階は選手部屋。7階はトレーニングルーム。8階は倉庫。9・10・11・12階は選手部屋。13階はミーティングルーム、後は選手部屋である。

「和山さんとか大変だな」

このチームには和山と言う先輩ピッチャーが居る。ちなみに1番高い20階に居るのは助っ人外国人のンコシ(セルヲ・ンコシ)である。可哀想に。ちなみにここはエレベーターが無い。

ここが、右田知夫伝説始まりの地で有った。

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