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3通の手紙

作者: ナハ子
掲載日:2026/04/06

まだ幼い末の皇子様は、皇帝夫妻が大切にしまっていた3通の手紙を盗み見ました。

 親愛なるお父様、お母様へ


 歴史あるガンダニア皇家の娘に生まれながら、その役割を最後まで果たせない親不孝をお許しください。今まで育ててくれたお父様、お母様、エイベルお兄様、リリベット、ベル――そして、何よりも我が祖国に生きる民には、本当に申し訳なく思っております。

 ですが、勇者様は諸悪の根源たる魔王を討ち、全ての魔物が浄化され、世界には平和が訪れました。わたくしはただ傍に居ただけで何もしておりませんが、直接魔王を討った勇者様は、見事にその役目を果たしてくださったのです。ご自身とは何の所縁もない、この世界のために――


 わたくしは勇者様と共に生きてゆきます。勇者様の世界に対する多大なる貢献を考えれば、一国の皇女を連れ去る程度は罪に問うまでもない些事でしょう。

 勇者様はこの世界を見て回りたいと言いました。遥か遠方にあるという異種族の住まう地、世界の隅にあるまだ人間が足を踏み入れたこともない地、天蓋のさらにその上にあるという誰も知らない地、そして――まだ行く方法はわかりませんが――異世界にあるという、勇者様の故郷。おそらくは一生を懸けた旅になるのでしょう。わたくしがガンダニアの土を踏むことも――それどころか、この世界に戻ってくることさえ――二度と叶わないのかもしれません。ですが、わたくしは勇者様の伴侶として、常にその隣におりたいと望むのです。


 このような事になってしまい、本当に、本当に申し訳なく思います。

 オーガスタは今でも家族を愛しております。それに偽りはございません。


 もしわたくしをまだ娘だと思ってくださるなら、細やかでもよろしいのです。どうか、わたくしたちを祝福してくださいませ。


 ――いずれかの世界のどこかに生きる二人より




 親愛なるお父様、お母様へ


 お元気でしょうか。

 今は勇者様と二人で旅をしております。ですが、他の同行者様が亡くなったわけではございませんので、心を痛める必要はありません。勇者様が、他の者は必要ないと言って追い返してしまったのです。

 勇者様に比べたらまるで役に立たないエイリークも、勇者様に色目を使う恥知らずで身の程知らずの阿婆擦れ魔法使いも、実は不必要なのではと常々思っておりましたので、わたくしも特に反対はいたしませんでした。

 実際、二人がいなくなった後でも、以前と同じように魔物を倒せております。いえ、寧ろ後ろを気にする必要が無くなった分、勇者様ものびのびと戦えているように見えます。

 不便と言えば、日用品の買い出し等、雑務が増えた事くらいですが、そういった事も二人で分担して行えば楽しいと思えるものなのですね。


 わたくしと勇者様でかなりの数の魔物を退治いたしました。そちらも以前に比べ、少しは平和になっているのだと思います。わたくしに出来る事など治療魔法くらいです。怪我らしい怪我を負うこともない勇者様に対して、わたくしなど殆ど不要なのですが、戦いが終わって勇者様に治療魔法をかけると、助かった、ありがとうと褒めてくださるのです。近頃はそれが心地よくて、つい張り切ってしまいます。

 いつも勇者様にばかり負担はかけられないと、近頃は空いた時間を見つけては魔力を高める修行もしています。勇者様には無理をしないようにと言われましたが、それでも勇者様はわたくしの気持ちも尊重し、修行の手伝いをしてくださるのです。勇者様はとても思いやりにあふれる方です。


 以前、魔物の脅威におびえていた村へ立ち寄ったことがあったのですが、そちらで怪我を負った方や、魔物の毒に侵されていた方々へ治療魔法をかけて回っていましたら、それが思っていた以上に効果があったらしく、ほとんどの方は快復いたしました。勇者様との旅でわたくしも少しは成長しているみたいです。もちろん、魔物の脅威は勇者様のおかげですぐに去りました。平和になった村で、わたしたちはいたく感謝され、まるで女神かのように崇められました。村の子供たちなど、勇者様とわたくしを、『聖女のお姉ちゃんたち』と呼び、真似をするのでくすぐったくなってしまいます。ですが、こうして民に感謝されるというのは思っていた以上に心地が良くて嬉しいものですね。お父様とお母様もこのような気持ちで国を治めているのでしょうか。今回の旅は、決して楽しいことばかりではありませんが、わたくしにとっても実り多きものだと実感できております。


 近頃は勇者様を見ていると胸が締まるような心地になります。指が触れると、それだけで心が跳ねるような心地になります。勇者様が他の女と仲良くしているのを見ると、気持ちに靄がかかったような心地になるのです。

 ――いえ、わかっております。この気持ちの正体がなんなのか。

 思えば簡単な事でした。わたくしはこれまで王宮で過ごし、友人と呼べる方たちにしても、第一王女という肩書があったからこそ仲良くなれた方々なのです。彼、彼女らが仲良くしたいのは、わたくし自身なのか、それともわたくしの持つ権力なのか。わたくしからはそれがわからない状況でした。ですが、異世界から来られた勇者様にはそのような事など関係がなく、ただのわたくしだけを求めてくれました。そのような方は初めてだったのです。

 どれだけ言い繕っても、自分の気持ちにだけは嘘を吐けません。

 わたくしは、勇者様に対し、確かに友情を感じております。

 ですが、このような気持ち許されるはずがありません。


 ――あなたの娘 オーガスタより




 親愛なるお父様、お母様


 ガンダニアの繁栄を願いつつ、筆を執らせていただきます。

 我が国はお変わりないでしょうか。エイベルお兄様は相変わらず剣を振るってばかりおいでですか? リリベットも少しは慎みを身に着けましたか? ベルはまだ幼気を残しておいででしょうか――なんて、まだわたくしが旅立ってから一年(ひととせ)も経っておりませんのに、そう変化があるわけもございませんね。

 こちらは(つつが)なく旅路を進んでおります。勇者様も女神の祝福を受けた者というだけあって、非常に頼りになります。魔物なんかも、殆どお一人で退治していらっしゃいまして、わたくしどもなど必要ないくらいです。

 少しだけ弱音を言わせてもらいますと、いくら我が国に留めておくためとはいえ、勇者様を誘惑するのは少し苦痛です。あくまでも我が国の利の為にやっている事で、こちらにその気はないとはいえ、婚約者のエイリーク様に対しても申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 もちろん、だからと言って役目を放棄するつもりはございません。幸い勇者様もわたくしを気に入ってくださっているようですので、このまま骨抜きにしてしまうつもりです。ですので、お父様もご安心してくださいませ。

 同じ女性を誘惑するなど、とてもできるものかと不安になりますが、わたくしは立派に務めを果たしてみせます。


――あなたの娘 オーガスタより


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― 新着の感想 ―
 面白かったです。  構成がいいですよね。手紙の内容を遡ると気持ちの変化が伝わってきました。 勇者様に比べたらまるで役に立たないエイリーク 勇者様に色目を使う恥知らずで身の程知らずの阿婆擦れ魔法使…
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