31、路地裏で無双
台を間に挟み向かい合う美少女が二人…
そしてその間を流星の如く行き来する純白の球体
カカカカカッ、
「死ね死ね死ね!!死ねぇぇ!!!」
「ふん、」
魔王とクレアの戦いは………
何故か卓球という新たな舞台で火花を散らせていた。
何故祭で卓球?と思うかもしれないが
魔界では一般的な祭の遊戯らしい
音速を越えるスピードで火の粉を散らし魔王とクレアの間を行き来する球の様子は一般人には視認する事すら出来ない
クレアが魔王にストレートを打ち
かと思えば魔王は開いた間に素早く返す
さらにクレアは魔王に向けて一撃、かと思えばカーブでフェイントを狙う
しかしそれを難無く打ち返せば弧をかいて同じカーブで返って来る
そこを全力の力で打ち返し通常なら反応出来ないほどの剛速球を繰り出す………が
それを難無く台に戻し且つ球に回転を加える
一瞬反応に遅れるモノの辛うじて球を打ち返す
正に一進一退の攻防
球が何百回二人の間を行き来しただろうか………
クレアがここで勝負と台の端ギリギリを狙い力の限り打ち込む
それを素早く反応した魔王が返したか……と思えば再び端っこギリギリの全力スマッシュ
流石の魔王もこれには当てるのがギリギリであり
さらに止めと言わんばかりにクレアが力を込めて返したパワーショットは…………
寸手の所で台から外れ明後日の方向へと
魔王に点が入った。
「クックソがぁぁぁ!!!」
あまりの事に口調がとんでもなく下品になっているクレア
「これでオレの43勝だなぁ?ん?」
これまでの全ての戦いをまとめると魔王とクレアの戦いは魔王の43勝37敗12引き分けとなった。
よくもこの短い時間で百近い対戦が出来たモノである。
このリザルトは
ほぼ互角と言っても良い結果だが……
完全に自分が勝っていないと気が済まないクレアはこの結果に納得いくわけがない
それに加えてあからさまに見下したような魔王の言い方もカンに障り……
「……殺す殺す、コロスコロスゴロズ」
危ない言葉を連呼し
完全にブチ切れ暴走直前クレア
するとクレアの頭にポスッと軽い衝撃の後、頭を撫でる心地の良い感覚がやって来た。
「………クレア」
見上げてみれば怒りに身を任せそうになっていたクレアに見兼ねた勇者が若干の苦笑いを含ませながらも優しくクレアの頭を撫でていた。
「おにぃひゃま〜」
これはクレアには効果抜群であり
5秒もすると般若のように恐ろしいほど強張らせていた顔は緩み切り、子猫のようにスリスリとほお擦りを始め、完全に腑抜けになってしまった。
流石に付き合いの長い兄妹なだけに妹の扱いには慣れているようだ。
妹を優しく制し
優しい眼差しを向ける勇者はやっぱりクレアの兄なんだなと思う
ほのぼのとそんな事を思った一行は
「それじゃあ次はどこいきましょうか?」
と魔王に声をかけようとして
「あれ?」
しかし、視線の先に魔王は居ない
魔王はいつの間にか隣から姿を消していた。
____
「迷った!」
誰、という訳でもなく言い放った魔王は今正に絶賛迷子中の身でである
ふと目に留まった屋台にフラリと立ち寄ろうと思い足を踏み出せば見事に人の波に流されてこの様だ
……魔王の筋力自体は魔力の強化が無ければ普通の女性に毛が生えたの程度
成す統べもなく流され続けて十数分
ようやく少し流れが収まってきた所で
先程までは流れに逆らって元居た場所を目指し、勇者達を探していたのだが、いくら時間をかけて大通りをうろうろしても、全く見つからない上に、絶えず人がぶつかってきて不快な事この上ないため
今現在、人が減るまで、と路地裏近くに避難していた。
「……………」
しかし、祭は始まったばかり人は減るどころかどんどんと増えていく
このままジッとしているのは何か落ち着かない魔王
「ああ!!もうじれったい!!」
耐え兼ねて声を上げると特に考えもなく路地裏へと足を進めてしまった。
……それが明らかに迷子になる子供の思考回路である事には全く気付いていない魔王であった。
「よぉ〜う、こんな所で何やってんだ?ゲヘッ」
暫く進むと妙に柄の悪い目のいっちゃってる獣系の魔族の男に遭遇、魔王に声をかけてきた……なんと期待に漏れずお約束な展開だ
「…………」
「なぁ、俺と遊んでこうぜ?良いだろう?な?」
下品な目でなめ回すように見つめてくる男は気持ち悪い事この上ない
「……何故、オレが名前も知らんヤツと遊ばなければならない?」
不快感に眉をひそめ、何だか少し的を外したこと言うと
「そうツレナイ事を言ってくれるな………ヨ!!!!」
突然懐から取り出された銀色の物体を魔王は素早く避ける
見れば手には、よく切れそうな鋭利なナイフが握られていた。
男は最近この辺りを賑わせている路地裏の通り魔だった…………
彼は美女を切り刻む事に快感、生きがいを持つ即ち変態である
そのやり方は極めて陰湿であり
最初に襲った時点で喉を切り裂き声を出せなくした後、人目の着かない建物に閉じ込め生かさず殺さずいたぶった後に道に放り出すのだ
今のところ死者は出ていないが
何人もの魔族の女性が身体と心に大きな傷を負い多くが泣き寝入りをしていた。
「ひひひ……怖いか?怖いだろ?いいんだぜ悲鳴をあげ……」
通り魔はこれまでと同じように魔王を襲おうとした。
ベキョッ
しかし………うん。
今回は相手が悪かったとしか言いようがない………
魔物の王とも呼べる魔王にとって
路地裏の通り魔などドラ○エのスラ○ムにすら満たない存在であった。
長々と言葉を続けようとした通り魔は
「ぺ………………」
魔王の影に潰されてぐうの音をあげる間もなくペシャンコのサンドウィッチになってしまった。
辛うじて息が残っているのは魔王の慈悲故
「……ったく何なんだ」
魔王からしたら訳の解らない言葉をかけられた上にいきなり襲われて、たいそうご立腹である。
_特に目立つような事をした覚えも無いのに何故、襲われなければならないのか理解に苦むな……と
先程祭で大活躍していた事などすっかり頭の中から消し去っている魔王。
ま、そうでなくても今現在、魔王自身が結構な美女である事実が他人の目を引いている事を本人は全く自覚していなかったし気づくはずもなかった。
その後も……
「けけけ、いい女じゃねーか」
バキッ
「金目の物を置いていけ!!」
バガッ
「おー可愛い娘発見」
「何〜迷子ちゃん?
「お兄さん達が道案内してあげるよ〜」
ズゴッ
バコッ
ドコッ
「キーッキッキ……悪いですが商品にry_
ゲキョ
「は__
バスコッ…………
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略
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「あの〜、道を……」
パコン
「ん?」
罪のない一般人を潰した辺りで
魔王はふと振り返った
魔王が来た道に続くのは魔王に挑んで軽やかに散って逝った猛者達+αの山
驚きのエンカウント率である
顔色変えずに襲撃者をハエのように潰していく魔王にあえて立ち向かう彼等は勇敢なのかただの馬鹿なのか……
少しやり過ぎたか?と思いつつも
「………まあ良いか」
魔王は特に気にすることなくその場を去って行った。
後日、祭会場周辺の治安が異常に良くなったとかならなかったとか。
思ったよりも早く投稿出来た………ぜ
しかし、やはり遅筆な事には変わり無い