30、なんかお祭りだそうです。
そして来たる祭の当日
道の脇に様々な屋台が立ち並び
ある者は魔界の祭とて人間の祭となんら変わりは無い。
ある者は家族で、またある者は友人と、またある者は恋人と
しかし、様々な人(?)がごった返し祭を楽しむ雰囲気の中
とてつもない負のオーラを放つ少女が一人居た。
……つまり………勇者妹さんは非常にイライラしていた。
魔王にこんな姿にされて丸二日、
不本意ながらも兄のためと必死に堪えていた彼女の堪忍袋の緒も流石にそろそろ限界だった。額にビキビキと青筋を作り、ふとしたことでブチ切れそうだ。
しかも耳をすませば
|殺す殺す殺す|
とブツブツと小さく呪詛の声が聞こえる。どうにか勇者が側に居て、未だ被害は出ていないが、最早それも時間の問題だろう
((気まずい……))
意地を張らずに他の姿にしてくれれば良いものを……
今はこの場に居ない魔王をただ怨んだ
「あ、あの……折角来たんですから焼き菓子買いませんか?」
少しでも状況を良くしようと思ってか、屋台を指差しファーが少し控えめに提案した。
「そ、そうね」
正直、食べ物ぐらいでクレアの機嫌が治るとは到底思えないが、何もしないよりはマシかと、それにラーサが同意し
勇者が宥めている怒れる獅子、クレアを連れて屋台の前へと向かった。
「おや、こりゃ珍しい集まりだ」
第一声はこんな感じ
店の前に来るなり、店主は少し驚いた声を上げた。
まぁ、それは無理もない
揃いも揃って人前に出てくる事の少ない魔族が一同に会しているのだからそりゃあ驚きたくもなる
問題はその後だ、店主は何を思ったのかクレアをじっ見て
「………レッドデーモンねぇ…」
と呟いた。
クレアの眉間がピクリと動く
(ちょ、何で今それを!!って…わ!!)
クレアを見てマンティが冷や汗を滝のように流しめちゃくちゃ焦り始めた。
………なぜならクレアの手に強力に魔力が収束していたのだから
それに気づいたその他三人も続けざまに慌て始めたのは言うまでもない
このまま言葉を続けさせたら店主の命が危ない!
「うーん、…………あ」
しかし店主は無謀にも尚も言葉を続けようとしている!!いますぐに口を黙らせたいがそれは叶わない。
(こ、これ以上下手な事言ってくれないでぇ!!)
ラーサがそう祈っていると
「白狼と相性が良いって聞いたけど、隣の兄ちゃんはもしかして恋人かい?」
ピタ、とクレアの動きが止まった
そして次の瞬間に現れたのは………
「そうなんですよ〜」
デレデレと顔を赤らめ頬を緩め素晴らしい笑顔を浮かべるクレアの姿だった。
「……ちが
「やっぱり!そうだと思ったよ!こういう祭はデートにはもってこいだからね」
「……だから違
「はい!前から話を聞いて来たいと思っていていたんです」
「……ちょ
「へぇ!!そりゃあ良い、じゃあ白狼の兄ちゃんは彼女をキッチリ楽しませないとな」
「………
「いえ、寧ろ私が兄様を楽しませてあげるんです!!ね、兄様」
「…………いや、別に……」
「なんだい、ハッキリしないなぁ!!」
「…ふふふ……恥ずかしがってるんですよ」
来る前はあれほど乗り気じゃなかったのに。今はそんなことを全く感じさせないぐらいにハキハキと目を輝かせている、この変わりようはいったい何なのだろうか……
勇者の言葉と意志をを完全に無視して話を進めているクレアと屋台の店主
この、彼女の兄好きには
(魔王様が言っていたのはこの事だったのか……)
恐らく魔王は事前情報でその事を知っていたのだろう、だからクレアが怒っても敢えて無視していたのか
「……そんじゃ、三個おまけしといたから祭を楽しんで来いよ!!」
「はい!!」
そう言って兄を抱きしめるクレア
その顔には歓喜で満ち溢れている
一方まだ子供と言える年齢であるとははいえ、自分と齢の近い実の妹に恋人呼ばわりされ抱きしめられ、なんだか物凄く複雑な心境の勇者。
困惑した顔で三人に助けを求める視線を送るが………反応は無い。
クレアの異常な兄好きには同情するが、何はともあれクレアの機嫌は直ったのだ
わざわざ直ったクレアの機嫌を損ねるような危険を冒すつもりは毛頭無いらしい。
楽しく祭を過ごすために……
勇者には悪いがここでイケニエになって戴く事が三人の中で決定した。
___
祭を楽しむ事数刻……
それぞれが祭を楽しみ
クレアのテンションは上げ上げで、それに反比例するかの如く勇者が疲弊し始めた頃
天幕の辺りが騒がしくなりはじめた。
「…あ、魔王様が出ますよ」
ファーが告げると……
国民の声援を一身に受けて、天幕の下から威厳を放ちながら魔王が現れた。
魔王の謁見である。
普段は魔王城に篭りきりの魔王はこの祭に限っては国民の前に姿を現し国民を祝福する、ある意味祭の主役、要だ。
この場に魔王が居ないのはそのため。
しかし……あんな所に一日中座らされ、ある種の見世物にされ、その様子を只見るだけというのはさぞ退屈だろうなと勇者は思い……少し申し訳無い気持ちになった。
自分達だけで楽しんでよかったのか?
そんな折………
「はぁ……お前達、騒ぎすぎだ」
そんな言葉と共に背後から現れたのは……魔王(女vr)だった。
突然現れた有り得ない人物の出現にその場の全員が驚きの余り固まったのは言うまでもない。
一番早く状態を脱却したラプラサスが天幕の下の魔王とこの場の魔王を交互に指差し
「あれ、魔王様?…でも向こうにはちゃんと…」
天幕の下にはキチンと魔王の姿をして佇む魔王の姿が見える。
「ああ、あっちに居るのはオレの分身だ、」
どうやら向こうは分身で、ワザワザ分身を作ってまでしてこっちにやって来たらしい。
「でもなんでこっちに?」
「こんな猛獣を放し飼いにしておける訳無いだろうが、変な事してないか心配して来てみれば……案の定というか……ただでさえ目立つんだから自重しろ。」
辺りを見渡せば確かに言われた通り多方面から感じる複数の視線、集団自体が珍しい事も有るが、兄への愛を遺憾無く発揮していたクレアの行動がいつの間にか視線を集めていたのだろう。
「まぁ、まだ問題起こして無いだけマシか……」
頭を押さえて言った。
つまり、祭にやって来た五人の様子が気になってやって来たのだ。
何か問題を起こしてはいないか、心配だったのだろう。
その姿は魔王というより出来の悪い兄弟に頭を悩ませるどこぞのお姉さんである
それに気に食わないのは例の如くクレア
「なによ!それじゃあ私が馬鹿みたいじゃない」
「おお、まさにそれが言いたかったんだ」
「っ!!……んですって!!!」
魔王とクレアの間にバチバチと火花が飛び散った。
やはり、魔王と勇者(妹)は相容れない存在らしい
「魔王様〜ノリが悪いですよ、こんなに周りが盛り上がってるのに一人冷めてると逆にバカっぽく見えますよ?」
「なっ…ばかだと?」
「祭なんですから騒がなかゃ損ですよ」
「踊るも馬鹿、踊らぬも馬鹿なら踊らにゃ損っスよ」
「……そういうものなのか?」
祭という物に慣れない為か
見事に丸め込まれています。
「あ、ちょうどあそこに的屋があるからやってみません?」
移動する的を空気銃で打ち倒し、点数を競うゲームだ
「調度良いわ、どちらが上かわからせてやる……勝負よ!!」
ズビシ!!!
と効果音が流れたかどうかは定かではないが、クレアは流れに乗り魔王を指差し宣戦布告した。
一瞬驚いた顔をした魔王だったが………
「ふん、余興程度には付き合ってやろうか」
魔王はニヤリと笑い勝負を引き受けた。
「…っんの余裕面、ぶちのめしてやる」
クレアはギシリと歯を鳴らした。
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バシュバシュ、
ジャコッ
バシュ
ジャコッ
魔王とクレアの戦いは熾烈を極めていた。
装丁音と銃声が辺りに響き渡り周りの視線を集める。
最高得点をたたき出している二人は未だ手を休める様子は無い
一進一退の勝負に周りは息を飲む。
魔王を追い越す事に躍起になっているクレア………魔王も目立つなという言葉は何処へやら完全に熱中してしまい周りの声が聞こえていない。
魔王とクレアの勝負が白熱し
何だかいつの間にか輪の外に取り残された勇者は原材料名不明の何だか良く解らないジュースをズビビと啜った。
「ねぇ、ちょっと良いかしら」
横から声をかけてきたのはラプラサスだ
「?」
「ありがとうね」
突然礼を言われて余計に混乱する勇者
それに気づいたのか言葉を付け加える。
「貴方が来てから魔王様ったら随分と楽しそうにみえるから」
「……そう……か?」
「貴方が来るまで魔王様は毎日つまらなそうにしていたのよ?」
勇者がやって来る以前の事を振り返って言葉を続ける。
「せっかくコッチが笑わせようと努力したけど全然効果が無かったの、でも貴方が来てから随分表情が豊かになって……だから本当に感謝している」
いつもふざけた感じのラプラサスから
真顔でそんな事を言われて何と返して良いのか一瞬戸惑い。
「………別に……好きにしているだけ」
何も特別な事をした覚えは無いと勇者は言った。
「ふふ、それで良いのよ、これからも魔王様の事を宜しくね」
そういって彼女はクスリと笑った。
更新が久しぶり過ぎて誰も覚えてないよ!!ってなぐらい久しぶりの更新。次の更新は多分三月以降になります。