28、お祭りの話が来ました
「………ふぅ……」
生かしてやった恩を忘れてこっちに牙を向ける等と無礼な奴だ……
こっちも大人気なく安い挑発に乗ってしまったものだ。
「魔王様、入って宜しいでしょうか」
いつもの三馬鹿でも勇者兄妹でも無い声が執務室の前から聞こえてきた。
「…?…誰だ」
この城の住人以外この部屋を訪れる奴は居ないはずたが……
「宰相です」
………ああ、そういえばこんな奴居たな
登場回数が少な過ぎてすっかり忘れていた。書類の受け渡しはだいたいが郵送だからあまり会う必要も無いし……
何の用だろうかと
入室を促そうと自分の姿を見下ろして。
「……いや、少し待て」
思わず声を張り上げてしまう所だった。
今、俺女じゃん
急いで詠唱して術式を展開し身体を魔王モードに切り替える
「……良いぞ」
「?失礼します」
不審に思いながら入ってきた宰相は手元の書類を魔王に渡し
差し出された書類に目を通して
ああ、もうそんな時期かと感慨深く思う
四年に一度の聖誕祭、
魔界の王であり異界の門番たる魔王が参加出来る数少ない行事だ
「それで、城を守る影武者ですが……今回もご自身で?」
「ああ」
通常、魔王は一秒たりとも城を離れる事があってはならないのだが
聖誕祭等の国をあげての重要なイベントの時に限っては、自分の魔力を載せたパペット(人形)に守護を任せて
祭に参加できる事になっている
しかし、このパペットとは、生きた人から魂を抜いて作られる魂の抜けた残骸でありそれを苗代に自分の分身を作るモノなのだが、あまりその作り方が外道であり、尚且つ見た目がエグイので
魔王は自身の影から擬似生命を作り出す事が出来るので祭時の時はそれを苗代にして分身を作っている
「準備が出来ましたら私めに声を」
「解った」
音もなく消えた宰相を確認して魔王はフッとため息をついた。
恐らく来るときも扉の前まで転移を使ったのだろう。
何にせよとっとと帰ってくれて良かったとシミジミと思った。
グズグズと城に留まられてその間に、
勇者がこの部屋にやって来たりしたならば………最悪、勇者妹と出会っていたのなら衝突は避けられなかったはず、下手すれば宰相を一瞬で消し炭にしていたかもしれない
(ややこしい事にならなくて良かった…)
変身を解除して書類に目を通す。
この変身呪文はどんな姿にも変える事が出来るのが利点だが自身の魔力が大きすぎるためか、術がキャパシティオーバー気味で変身している間使える魔力が制限される上に時間をかけて固定化をしないと直ぐに解けてしまう。
おまけに術を解いた後異様に肩が凝る。
肩をコキコキさせながら書類に目を通し終えた魔王は
「さて……準備をするか」
椅子から立ち上がると、まるで見計らったかのように扉が開き、勇者が入ってきた。
「魔王…………飯」
そういえば、まだ昼飯を作っていなかったと相変わらず食い意地の張っている勇者の姿を見て、呆れるやら気が抜けるやら
「……まずは飯か」
そういって調理室へと向かった。
勇者の呼び方を実名にするか否か……