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26、好きな奴がいれば嫌いな奴もいるそうです

「……ん」


気持ちの良い陽が挿す

いつも通りの朝、ベッドから起き上がった勇者は食事を取るために食堂へ向かう。

ホットケーキが甘く焼ける良い匂いを嗅ぎながら中に入った勇者は



「………っ……」



花柄のエプロンが似合う魔王の姿(♀)が居た。

普段の魔王は女の姿を余り見せない、というか見せたがらない雰囲気を出していたのに



「お、起きたか」



今日の魔王は全く気にしていない表情だ。


「…………魔王……その姿……」



「ん…………?ああ、これか何だかイチイチあの姿になるのが面倒なんでな……何か問題あるか?」



問題は無いが………いや、大いにあるか

そうやって料理をする姿は魔王のそれではなく、最早新妻のそれだ。

魔王としてそれは如何なものか


まぁ、城の中には身内しか居ないから良いのだろうが………


日に日に魔王らしく無くなっていく魔王の姿を見て

魔王をそんなにした理由が自分にある等とは知らず、勇者は自分の事は完全に棚に上げて思った。

……もう魔王なんて辞めてしまえよ……と



「魔王様、お早うございます!!」



と、そんな事を考えているとラプラサスが妙に色艶の良い傷一つ無い肌を曝しながら中に入ってきた。何故か元気いっぱいである……


昨日、思いっ切り吹っ飛ばされて満身創痍だったはずなのだが、

そんな様子は一切見られない

水の魔物は回復に秀でているとはいえこの早さは異常だ、昨日の晩に何があったのだろうか?


そんな疑問を頭に茶を含む魔王と勇者

だが、後ろから大人しくついて来る内気な雰囲気の少女の姿を見た途端、勇者と魔王は口に含んだ茶を盛大に吹き出してしまった。


城に乗り込んで散々暴れ回り、城の中をめちゃくちゃにした襲撃者、

勇者の妹クレアさん(?)がそこに居た。


「…ゲホ、な……なんでそいつが居る」



確か個室の中に縄でベッドに縛り付けていたハズなのに………



「偶然抜け出している所を保護してあげたのよ………、ね」


ラプラサスに言われるがままにクレアはコクリと頷いた。顔がどことなく赤い


いったいどうやったら“偶然”あの堅く縛られた縄を抜けてこられるのかとか。

何で今まで報告しなかったんだとか。


イロイロと聞きたい事はあるが……

一番気になるのは………



「………いったい、その猛獣をどうやって仕付けたんだ……」



この城に来た時は魔族の事を思いっ切り見下していたハズなのに、今はそんな様子が全く見られない。知らない間に一体何が起きたのだろうか?


「仕付けるなんて人聞きが悪いわぁ魔王様、この子はこんなに可愛いのに……」



そ、と撫で上げると少し嫌がるそぶりはあるものの、大人しく撫でられている。


えぇえぇ………、


本当に何をやったのだろうか?

……隣では勇者が“そんなばかな”とかぶつぶつ呟いている。

勇者が……今まで自分がどんな事をしても大人しくならなかった妹を…、ラプラサスが会って一日も経っていないにも関わらずきちんと言うことを聞かせてる姿を見て情けないやらなんやらで………

兄としての面目が丸つぶれ

どうやら本気で落ち込んでいるらしい

そんな、勇者を見て魔王はため息一つ



「情けない……お前は自分の身内の事になると、ここまで腑抜けなのか?」


魔王が呆れるように言った瞬間、クレアは魔王を怒りに満ち完全に据わった目でギラギラと睨みつけた。



「お兄様を侮辱するな………」



あー、そこは相変わらずなんだなと変わらないクレアの反応に安心するやら嘆息するやら………



「ふふふ……優しくて自慢のお兄さんだものね……」


ラプラサスはクレアをモフモフと抱き着き頬っぺたを突っつき始めた。

再び大人しくなっていくクレア



「……もう何も言うまい……」




食事を終えた魔王はホットケーキとは別に作った粥を手に、ファフニールとマンティークの居る治療室へと向かった。



魔王の影が黙々と治療をすすめている。



「調子はどうだ?」



部屋に入った魔王は

腹に空いた穴も塞がり顔色も良くなったファフニールと、大した怪我でも無く比較的元気そうなマンティークに声をかけた。



「魔王……さま……」



「あ、おはようございます」





「頭がガンガンしますけど、平気です」



それはなにより……と

二人に皿を渡すと



「食事は食えるか?」



「はい、どうにか……」



ファフニールはそう言って食事に手をつけるものの、スプーンを掴むのすらに苦労している姿に見かねた魔王が手を差し出す



「仕方ない……食わせてやる」



「ああ!!ずるいッス、ファーだけ、えこ贔屓して!!俺にもアーンしてくださいよ!!アーン!!」


いきなり不公平だと叫び声を上げ騒ぎ立てるマンティーク、無視を決め込んでいた魔王だが余りのしつこさに………


バチン


………部屋の中に光が走ったと思った瞬間、先程までベッドの上に横たわっていたマンティークは真っ黒い炭へと変わり果てていた。魔王による雷の魔術だ、生きているかどうかかなり怪しい状態だが、電気属性の彼ならきっと大丈夫なハズだ(希望的観測)


そんなこんなでファフニールに粥を食べさせていると


食事時のように入ってきたのはラプラサスと………後からついて来るクレアだった。


「………ひっ」自分を半死に追いやった相手の突然の登場により恐怖で顔を引き攣らせる

いったい何をするつもりなのだろうか……緊張の中クレアが足を進ませて

ファフニールの前に来ると



「……………ごめんなさい……」



ボソリと小声でそう告げた。



「………へ?」



そう間抜けな声を出したのは誰であろうか……



「みんなに謝りたいんだって」



どんな理由であれ、ここまで酷い事をするべきではなかったと本人も反省したらしい、

なかなか可愛らしい面もあるじゃないかと感心する

黒焦げになってもう聞いちゃいないだろうというマンティークにも一応謝罪の言葉を述べて

最後に残るのは魔王なのだが………


之までで一番嫌そうな顔をしながら、物凄く反抗的な目を向け魔王の前に来たクレアは……

暫し沈黙した後



「しね」



そう言うと目にも止まらぬ速さで魔王の腹を蹴り飛ばしてそのまま何処へともなく去っていった。

避ける間もなくすっころげて間抜けな姿を曝してしまった魔王。

周囲があっけらかんとしている。



「ま……魔王様?」

余りの事に反応の遅れたラプラサス

仰向けの状態から起き上がり魔王は額に青筋を立てて思った………


あいつとは一生仲良くなれそうに無いな……と



「上等だ!!糞ガキ!!」



その日勃発した女同士によるバトル&チェイスは夕方まで終わる事は無かった。



二人とも……よくやるよな……




久しぶりの投稿、一段落着いたら気が抜けました。他に執筆中の小説があるので更新はこれからもっと遅くなりそうです。

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