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13、魔王様は勇者が大っ嫌いだそうです

少しシリアスなパート。


「………は…」


魔王は調理室で料理をしながら一人ため息をついた。





勇者がこの城に来てからというものの

確実に調子がおかしくなっている……

魔王はそう感じていた


昨日のあの時、自らにかけていた術の力が弱まり、その影響が身体に現れていた。

これまでそんな事は一度も無かったにも関わらず………だ。


今の自分は明らかに普通じゃない


試しに指で火を燈す


指の上で大きく揺らめき伸び縮みする炎


魔術で行使される火は術者の内包する魔力の状態に大きく影響する

火が揺れが大きくなるほど、魔力は不安定であり術の行使が難しくなる


………魔力が安定しない


勇者が来る前は強風の中でも揺れ一つ無い安定した火を燈す事が出来たのに…………今は見えない風が吹き付けて消え去る直前の蝋燭の火のようにゆらゆらと揺れてしまう


何が原因であるか詳しい事は判らないが

その一因が勇者であることは間違いない


そもそも勇者と魔王が仲良くしている事自体おかしい


このままでは

自分が今まで魔王として積み上げてきたものが完全に崩れ去ってしまう気がした

(もう既にだいぶ崩れているが)


何とかしなければ……


一刻も早くこの城から勇者を叩き出す

魔王はそう決心した。


「……あ………」


ヤバ、焼きすぎた。


フライパンの上のベーコンが焦げて煙を上げていた。

別に食べられない事はないがこんな物を人に出すのはプライドが許さない、そのベーコンを自分用にし、新たにちょうど良い焼き加減のベーコンを作りはじめた。

______



「………?」



今日の昼飯、ベーコンのサンドイッチを頬張りながら魔王の顔を見つめて。



「………魔王、どうかしたか?」



勇者がそんな事を呟いた。



「……いや、どうもしないが」



内心ドキリとしながらもなるべく落ち着いて答えた。



「魔王様がどうかしたの?」



「…………眉間のシワが深い」



「?そうスか?」



言われてラプラサスがじっと見るも全然判らないと首を振る



「俺にも判らないッスね」



「気のせいだ」



そう切り捨てて、魔王は失敗して焦げ臭いベーコンのサンドイッチの最後の一欠けらを口に投げ込んだ。



_____


魔王は必死に考えた

勇者を追い出す方法を


勇者をこの城から叩き出すのは容易な事ではない


ただ、城の外に物理的に放り出しても次の瞬間には城の中に戻っているだろう。

転送術を使って未開の地に送り出しても、術の痕跡を頼りに座標を遡る可能性だってある。

異次元空間を作り出して閉じ込めたとしてもあの圧倒的魔力で涼しい顔して出てくるに違いない。


それに、部下の妨害だって考えられる。


あの勇者と親睦を深め過ぎのあの三人の部下が自分の行動を黙って見ている訳ない。


あの三人が見ていない間にこっそりとやる必要がある


………それらの事を考えて魔王は慎重に術を組み立ていった。



そして、術式が完成した。


転移術と認識操作、その他諸々を組み合わせた複合魔術、相手を見知らぬ土地に放り出した上で自信の位置とこちらの位置を認識出来なくさせる事が出来るというものである、かなり強力な術で

幾ら勇者でも之をまともに受けたらちょっとやそっとの事では此処に戻って来る事は絶対に出来ない

上手くいけば永遠におさらば出来る



しかし、術を大掛かりにし過ぎたせいで使える条件が思った以上に限られてしまった。

満月の夜である事

対象が満月を見上げている事

術の基点となる魔法陣の上に対象が乗って満月を見たまま10分以上一歩も動かない事

対象の半径25メートル範囲内に行使者以外の人物が居ない事

対象の意識が行使者を認識していない事


魔法陣は隠蔽で隠せるにしても

どうやって、その上で満月を見させ続ければ良いのだろうか

しかも、こちらの事を全く認識させずに

魔王は出来る訳無いなと自嘲しながら

一応設置するだけ設置するかと魔法陣を描きその上に隠蔽をかけて見えなくした。

使う機会は無いだろうと思いながら。





………だが使う機会は思った以上に早くやって来た。




____



勇者が来て直ぐに、

寝る場所を取られてはたまらんと魔王が勇者に宛がった部屋がある、その部屋の前の窓の下、そこに魔王は魔法陣を設置していた。

そして、勇者は……まさにその真上に立ち、満月をじっと見つめ続けていた。

勿論周りに人は居ないし、勇者は魔王の存在に気づいていない。


作った術を使うのにこの上無いほどの好条件

寧ろこの日この時の為だけに術が作られたかのようだ


もう、あとは起動するだけ………


望んでいた機会がまさに今、やって来たのだが………

魔王はその段階になって急に躊躇する


……理由は判らない……

……けど、満月を見上げる勇者の無表情のその顔が…




…何故か悲しそうに見えたのだ。




そんなことはない、と首を振り

起動しようとするも身体が動かない


そんな事してはいけないと……頭が警告していた。



30分に及ぶ葛藤の後、



結局、魔王は何もせずにその場を去った。


何も、今やらなくてもきっと次がある

だから………今日だけは勘弁してやる



_____


次の日


「…………ん」


いつも通りに食欲旺盛な勇者

昨日感じた悲しげな雰囲気は全く無い



「………魔王、おかわり!」


いつものようにおかわりを要求し、部下達と他愛の無い話をしている

あの葛藤は何だったんだと自分が阿保らしく見える


やっぱりあの時使っていれば良かった……

相変わらず無表情の……しかし、どこか楽しそうな勇者を見て



今度こそは城から追い出してやるよ…………覚悟しておけ



再び決心を固めて




…………自分が今、小さく笑ったことにも気づかずに


自らも食事を進めた。



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