12、部下が秘密を探っているようです
昨日一日、散歩から帰ってきてから妙に落ち着きが無く不審がられた勇者だが、
今朝にはいつもの調子に戻っていた。
いつも無表情でいるのに、下手に表情を出しているとこっちが不安になるもの
事情を知らない魔王他はいつも通りの様子に戻った勇者を見てホッと息を吐く
やはり勇者は勇者らしく(?)寝ぼけた顔で飯を食って自由に振る舞っているのが一番だ
……なんだか、この勇者を見ていると体裁とかそういうものがどうでも良くなってくる
少し……羨ましいな
と魔王はそんな事を思った
「………あれ?」
急に勇者が何かに気づいたように声を上げた
「………魔王縮んだ?」
「!!!???」
「そういえば、いつもより気持ち小さくなってるような……」
今座っている椅子、普段なら背もたれが全部隠れているのに今日に限っては肩から覗いている……ような気がする
「き、気のせいだろ…そんな簡単に体型がも…縮む訳無いだろ」
「………それもそう……か?」
本来ならそれもそうだなと話を打ち切る事も出来たが
魔王の微妙な歯切れの悪い微妙な言い回しに勇者も返事が疑問形になる、
滝のように冷や汗を流す魔王
「………ちょっと、部屋に戻る」
そう言ってイソイソと部屋を出た。
「……ふふふ、それじゃあ魔王様の後をつけましょうか……」
追尾用の使い魔を放ったラプラサスが意地悪げに顔を歪めた。
「?」
「魔王様があそこまで動揺する事なんてきっと乙女も恥じらうような秘密があるに違いないわ!!」
何が何でもこの目で確かめなければ気が済まない
「あー俺はパスッス、人の秘密探るのは趣味じゃないんで」
マンティークは早々に辞退した、
「ノリが悪いですね」
後からやっぱり行けばよかったと後悔しても知りませんよと
ファフニールはどうやら行く気満々だ
勇者も最初の方こそ『いいのかなぁ』と後ろめたい事を言っていたが二人のテンションに乗せられ結局ついていくことになった。
「じゃぁ、魔王様の秘密の部屋に向かって出発!!」
「てらー」
とマンティークに送られ一同は魔王の後を追った。
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鍵の付いた扉にたどり着いた。
「あー、鍵が閉まってますね」
隙間から中を伺うと魔王の姿は見当たらない
すると、前もって準備したピッキング用の針金で迷うことなく鍵を開くラプラサス
あまりの用意の良さに感心するやら呆れるやら微妙な気持ちになる
中を見回すと
奥には更に鍵の付いた扉が……
どうやらこの中に魔王が居るらしい
「中が見えないです」
隙間から中を覗こうと思ったが扉に隙間が見当たらない
再び鍵を開こうとするも、ここだけは厳重に閉錠の呪文か何かの魔術がかけられて、びくともしない
「仕方がないからこの部屋を漁ってましょか」
ラプラサスの提案によりせっせと部屋を荒らしていく三人
その姿は、もはや完全にただの泥棒集団と化していた。
部屋から出てくるのは、料理のレシピやら裁縫の道具やらぬいぐるみやら望遠鏡やら何かよく判らない模型やら
およそ魔王が持つべき物とは思えないような物ばかり
魔王が意外に多趣味である事が判明した
あらかた部屋を荒らし終えた頃
勇者は棚の一番上の引きだしの奥の隅っこに黒い物体を発見
引っ張ってみれば、紐でしっかりと巻かれた古いアルバムのような物が出てきた
無言でそれを上に掲げる勇者
心なしか勇者の顔が興奮しているように見える
「「よくやった!!」」
と、ラプラサスとファフニールの二人が叫ぶと同時に積み上げた山が崩れ落ちてラプラサスの行く手を阻んだ
「あぁ……ちょっと、整理するから先に見てて」
そう言って山に身を埋める
ラプラサスの言葉に甘えてファフニールと勇者は急いで机に座る。
「ふふふ、それじゃあ開きますよ」
ドキドキ、ワクワクが最高に高まり机に向かってそのアルバムを開こうとしたその時、勇者とファフニールの頭をむんずと掴む大きな手があった
「………お前ら……そこで何やってる?」
ドスの利いた声を放ち額に何本も青筋を浮かべた魔王が万力のようにぎちぎちと頭部を締め上げる。
「え……え~と…」
「……あ……」
流石の勇者もここまでしっかりと身動きを封じられてしまったら成す術が無い
まだ気づかれていないラプラサスに助けを求めたが……
助けを求められた当の本人はゴメンとジェスチャーし身を翻して風のように部屋を去っていった
((に……逃げた!!))
「釈明は無いようだな………なら」
バゴン
と回避する事も出来ず抵抗する隙も与えられず、爆音と共に二人の顔が机に減り込んだ
沈黙する二つの影
普通の人間が受けたら確実に死亡するような音がしたが、二人とも普通じゃないので恐らく大丈夫だろう
「暫くそこで反省してろ」
頭から煙を立てて気絶する二人を部屋から引きずり出して、部屋にしっかり鍵をかけたのを確認した魔王はそう言ってその場を後にした。
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「あれ?他の二人は?」
「多分今頃魔王様のお仕置きを受けてるんじゃないかしら?」
「………置いて来たんですか……非道」
「何より我が身が可愛いってね」
額を真っ赤にして帰ってきた二人はその日ラプラサスとは一切口を利かなかった。
その後、部屋を逃げたラプラサスと何故か何も関係の無いハズのマンティークも
どうせお前らが唆したんだろうと
結局、魔王の鉄槌を受ける事になるのだが。
実際に行動した他の三人はともかく……
「何で俺まで……」
何もして無いのに……と歎き哀しむ魔族の青年が一人夕陽に黄昏れていた。