10、魔王様は疑問に思ったようです
闇霧漂う暗黒の城のその深層部に存在する薄ら暗い魔神の祭壇
そこで魔王は踏ん反り返り彼の人物が来るのを待っていた。
(はぁっ……来たか)
白く輝く剣を両手に龍の革で作られた鎧に身を包んだ騎士が部屋の大扉を開け放ち、中へと入って来た
「……勇者よ、よくぞきた歓迎するぞ」
歴史の中で幾度と無く繰り返されてきた宿命の対決
今ここに、魔王と勇者が対峙した。
「…………」
「今までお前のような勇者は今まで何人もやって来た、しかし、この俺に剣の届いた奴は………一人しか居ない……」
何となく、自信も迫力も感じない台詞だが、どうにか威圧感だけは保っている
「……果してお前に俺が倒せるか…?」
魔王は玉座から勇者を見下ろして問う
「……なら、俺はその二人目の男になり、お前を倒す!!」
そんな魔王のテンションにも気づかず
勇ましい言葉を吐き剣を構え、聖なる呪文を唱える
「魔王!!覚悟!!」
聖剣が輝きを増し部屋に光が充満する
そして、全身の力を込めて光り輝くそれを魔王に叩きつける
「………ふ」
しかし、魔王はその勇者の必殺とも言える一撃を……指一本で受け止めた
「な」
驚愕に顔を歪ませる勇者
だが驚愕はそれに止まらない
魔王の魔力により砂塵と化する聖剣
「そん………な」
魔王は片手で勇者を掃う
間を置かず繰り出される魔王の攻撃
最大の攻撃も効かず、武器を失った勇者は反撃する術も防御する隙も与えられず魔王の技に蹂躙され力尽き、床にはいつくばる
あまりに一方的な戦い
そこには歴然とした圧倒的力の差が存在した。
最早、反撃する気力も意識も無くなった勇者にトドメの一撃を刺さんと魔王は手に魔力を込める
……死ね!
パコン
「イッ、…~~~!!!」
マヌケた音と共に突如として頭を襲う激痛に声を上げる事もできず目を見開いて頭を抱える
痛みに涙を堪えながら振り返れば勇者が金の剣を片手にコチラを見ていた。
「………殺すのはダメな」
実は前日に新たな勇者が来ると聞いて
勇者は魔王、その他三人に殺さないように頼んでいた。
確かに勇者にとって、他の人間が殺されるのは嫌だろうし、断る理由が無いと三人は快く二つ返事で了承し
魔王は……と言うと脅されながらも、しぶしぶ了承……する振りをした
………別に魔王にとって勇者を生かすのも殺すのもどっちでも良いのだが
この勇者に命令されているようで何となく納得のいかない魔王は忘れたふりをして殺ってしまおうとなどと考えていたのだ
……結局、様子を見ていた勇者に止められ未遂に終了
しかし………
御丁寧にロープでがんじがらめにし、さるぐつわを噛ませた(何か恨みでもあるのかってぐらいに)先程の勇者を、転送術で近くの人間の村に送り返したこの勇者に思う
「同じ勇者がやられるのを黙って見ているのもどうかと思うぞ」
コテンパンにした本人が言うのもなんだが
「………そうか?」
あまりの使命感の無さに本当にコイツは勇者なのかと魔王は疑問に思ってしまう
この勇者がこんな性格だからこそ、今のところ自分が殺されることなく生きているのだが
だからこそ物凄く複雑な気分になる
ってか何で自分を国に引き渡さないのか?
自分を引き渡せばどの国でも一生遊んで暮らしていける程の金額が手に入るハズ……
しかし、目の前の勇者はそれをしない
「何で俺を引き渡さないんだ?」
思い切って勇者に質問した。
すると、勇者は面倒臭そうに振り返り
こう聞き返してきた。
「………そうして欲しいの…か?」
「そんな訳無いが……」
「………ならしない」
それっきりその話は打ち切られた、
相手が嫌がるからやらない、
単純明確な理由、
それが例え魔族だとしても
「…………腹減った」
軽食を所望する勇者に……
……何でコイツが勇者なんだろう
魔王は思った。