女神達のやりたい事?とアストの好奇心
「アストくん、私と一緒に鍛練しませんか?」と突然私の目の前にニマが現れ、その日から月に2〜3回、ニマとは様々な武術の鍛練、ロラには魔法の実践、そしてララには魔法や魔術に関する講義を受け、そして最後には必ずニマとロラとララとの四人で紅茶を飲みながら楽しく雑談して過ごしていた。
そして気が付けば、ニマに天界に招かれた日から月日は流れ、5年もの歳月が経過していた。
「私達は何も変わりませんが、アストくんは随分と成長しましたね。」
「そうそう、あの頃のアストは、こーんなだったもんな〜」
「何がですか?」と、真理神ララーナが親指と人差し指で何かの大きさを表現しようとするのを、アストが真顔で止める。
「まあまあ、アストの体もそれなりに育ったって事だよな♪」
「はあ〜 相変わらずララは・・・ 」
「何だニマ、これは大切な事だろ?」
「ええ大切な事ですが、少々あからさまでは?」
「お前・・・ アストのプライベートを覗いていた事がバレて『ニマ達なんて嫌いだ〜!』って言われた事を未だ根に持っているのか?」
「だって〜 」
「まあ最近ではアストくんは余り私達には『ギュー♪』って、抱きしめさせてはくれませんものね〜」と、時空神であるロラまでもララに冷たい視線を送る。
「いや〜 それに関しては、私も少しは悪いとは思っている。
だからそれなりに『詫び』はしたつもりだぞ?」
「まあ貴女からの詫びは受け取りましたが、やはり気持ち的にはアストくんが遠慮しがちにしか抱き着いて来てくれないのが・・・ やはり私的にはちょっと不満です。」
「私も〜 」
「二人はこう言っているが、やはりアストは二人に抱き着かれるのは嫌なのかい?」
「う〜ん・・・ 何て言えば良いのかな〜? 正直、女神様達に抱き着かれるのは嫌いでは無いです。
逆に好きです。
ただ、最近はちょっとムズムズすると言うか?・・・
気恥ずかしいと言うか?・・・ 」
「アスト、それは君の精神年齢が身体に馴染んで来たと言う事だ、何も気にする事は無い。
それに私達は女神だ、君の気持ちにはどんな事でも真摯に向き合うよ♪」と、ララがその豊満な胸にアストの頭を抱き寄せる。
そう最近のアストは、精神年齢はともかく、肉体年齢が成長期に差し掛かり、女性の体に対して何かと反応してしまう様になって来ていて、しかも、いまだに風呂に入る際にはジェラに全身を荒つって貰っている事をララに揶揄われた事から、ニマとロラとララの三柱の女神がアストの入浴を覗いていた事がバレてしまったのだった。
その事でアストに『ニマ達なんか大嫌いだ〜!』と、顔を真っ赤にしながら拗ねられたのが、つい先日の話だったりする。
アスト自身、前の世界では孫まで居たのだから色々と知識と経験は有るが、どうも頭と身体の反応が違い過ぎて、少々戸惑ってしまっていた。
今回の会話も、それを察した真理神ララーナのチョットしたお節介ではあった。
「でもジェラちゃんには、遠慮なく抱き着いて甘えてますわよね?」
「そうそうロラも、ジェラちゃんみたいに遠慮なく抱き着いて甘えて欲しいな〜♪」
「ああ、ジェラは私から観ても時々羨ましくなるから、今夜は大人しく私に抱かれてろ♪」と言ってララはその胸に抱きしめていたアストを更に抱きしめる。
「ジェ・・・ ジェラは幼い頃から一緒にいる家族だから、そんな気は起きないよ〜」
「あらら、ジェラちゃん可哀想〜!」
「ね〜! でも私達は逆に、本来は肉体が無い思念体の様な存在だから、アストくんとは・・・ 」
「いや、ちょっと待て! ならばこんな案はどうだ?」
「えっ! それって大丈夫なの?」
「いや、大丈夫だと思うぞ? 第一、過去にお母様が・・・ 」
「それに、生命神であるレム姉さんも・・・ 」
「ああ、確か『あの男』の為に・・・ 」「「「試して」みよう」みましょうよ♪」」
うん、今、私の目の前で三柱の女神達のとんでもない相談事をと言うか? 悪巧みを聞いた気がするので、とりあえず白いテーブルの上に乗った皿からクッキーを摘みながら、女神達の悪巧み?の話しは聴かない事にする・・・ いや、正直聴くのが怖い・・・
女神達の悪巧みに関しては横に置いておいて、少年の春期にありがちな『異性への恥じらい』に関しては、真理神ララーナがアストに対して特別な『おまじない』を施してくれたお陰で、異性に抱き着かれても少々の事では精神的に動揺しなくて済む様にはなったが、後々その事が原因で大変苦労する事になる少女達に、陰で『唐変木』だの『鈍感』だのと散々な言われ方をする事になるが、それはまた別のお話し。
「そう言えはアスト、アストも兄貴達同様に今年から王都の学園に通うのか?」
「うん、今はハンザ父さんもそうだけれど、父さんの手伝いと言うよりも貴族達との付き合いの為に、三人の母さん達も王都に行っているから、父さんと母さん達に、
『今から貴族達との付き合い方にも慣れておく為にも、お前も兄貴達と同様に、早々と王都での生活にも慣れておいた方が良いだろう。』って言われてて、この秋から王都の学園に通う事に成っているよ。」
「まあ知ってた。」
「・・・・・」
「いや、知ってはいたがアストが王都に行く気が有るのか?無いのか?が知りたくてな。」
「今度は一体どんな悪巧みをしているの?」
「人聞きが悪いな〜 何も悪巧みなんてしてないぞ? ただ今後のアストの予定が知りたかっただけ、ただそれだけだ、アストが心配する事は何も無いぞ〜・・・ 」
そんな事を言う真理神ララーナ、うんララだったが、その目がかなり泳いでいる。
闘神ニマエル、時空神ロラダーナ・・・ ニマとロラの二人の女神も私には視線を合わせようとはしない・・・
何故か? 悪い予感と迄は言わないが、物凄く面倒な事に巻き込まれそうな気がするんだよな〜
結局、その夜はそのまま私の意識は下界の自分のベッドで寝ている体に戻されたが、いつもなら意識が体に戻ってもそのまま朝が来るまで眠り続けているが、その夜だけは何故か意識が体に戻ると同時に目が覚めてしまい。
気分的には『悪夢』を観て目覚めた時と一緒で、思わず身震いが起きた程だった。
そのままトイレへと立ったが、隣の部屋で寝起きしているジェラまでもが私が起きた気配に気付き、部屋から出て来て、
「アスト様が夜中に起きられるのは珍しいですね?何か悪い夢でも観て怖くなりましたか?アスト様が寝付くまでジェラが一緒に添い寝しましょうか?」と言うので、ジェラに添い寝を頼んでその夜は寝る事にした。
夏の暑さも落ち着き、涼しい日も数日続く様になった頃。
アストは、防壁魔法がコレでもかと何重にも掛けられたラスターテ家特製の馬車に乗って、住み慣れたラスタを離れて学園が在る王都へと向かっていた。
因みに、例の『アスト誘拐未遂事件』以来、アストが馬車で外出する際には、馬車を曳く馬は8本足の『俊足スレイプニル』の二頭曳きだし、空には必ず一頭の『飛龍』が護衛として就く様になった。
このスレイプニルも飛龍も、物凄く私に懐いており、陸だけでは無く水面をも滑る様に走るスレイプニル二頭も、物凄いスピードで空を駆け抜ける飛龍も、この三頭が産まれた直後から私に慣れさせる為に、時間が有ればジェラと一緒に飼育舎に行って世話をしてきたのだ、今では私の顔を見れば物凄く甘えに来てくれる様になっていた。
そして今回、馬車の中に一緒に座って居るのはジェラでは無く、2歳年下の双子の妹のマリンとムーンである。
因みに、ジェラは飛龍の『バンバン』に跨って空の旅を楽しんでいるハズである?
この飛龍のバンバン、ジェラの姿が見えると床や壁をその長い尾でバンバンと叩いて喜んでいた事から『バンバン』と名付けられた。
今回の馬車での移動も、ジェラが馬車に乗り込もうとすると、その大きな瞳に涙を溜めてジェラを見つめるので、ジェラが根負けして、
「セバス!バンバンに装着する私の鞍を頼む。」と、私の専属執事として働き始めて四年目になる鬼人族の青年に声を掛けてしまう。
この鬼人族の青年執事、私の専属執事として紹介された初日、
「私は鬼人族のアンセバスバッハと申します。
本日よりアスト・ラスターテ様の専属執事としてお仕えさせて頂く事となりました。
宜しくお願いいたします。」
「父上からアンセバスバッハの事は聞いてます。
大変だとは思うけれど宜しく。」
「はっ!ありがとうございます。
そしてジェラ様、新米執事ではありますが、精一杯アスト様の為に働く所存、何卒ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。」
「相わかった。
しかし、どうも気に入らない事が一つだけ有る。
お前の名前アンセバスバッハは長くて呼び辛い、なので本日からお前を『セバス』と呼ぶ、アスト様のお世話、宜しく頼むぞ!」とその日からアンセバスバッハは、ジェラに『セバス』と呼ばれる様になり、屋敷内でも皆にセバスと呼ばれる様になった。
因みにこのアンセバスバッハ、身長は2m弱の細マッチョで、甘いマスクをしているせいか? 屋敷内の若いメイド達は勿論、ラスタに住む若い娘達にも物凄くモテているらしく、2歳年下の双子達であるマリンとムーンからも気に入られた様子で、
「ねえアストお兄様、ムーンにセバスを下さいな♪」とか、
「小兄様、少兄様、マリンのお願いを聞いて下さい。
マリンの執事はセバスが良いです。」とか言われるが、アンセバスバッハが私の専属執事として取り立てられたのは、決して甘いマスクのせいでは無く、その剣の腕前に父であるハンザが惚れ込んだからであった。
元々アンセバスバッハは戦争孤児であった。
約三年前、隣国から戦争を仕掛けられ、ボロボロに成りながらも辛うじて戦争に勝つ事が出来た友好国の経済を、財務大臣であるハンザが直々に立て直しに行った際、ハンザが乗る馬車の車列を襲った若い山賊達の集団が居たのだが、元ラスターテ家私兵団の団長であったマーカスが率いる私兵達に敵う訳もなく、早々に山賊の頭と称する青年が捕えられたのだが、その時に捉えられた山賊の頭がアンセバスバッハだったのだ、
父ハンザは、国と国の国際条約で取り決められていた条約に従い、即座に山賊達一党の首を刎ねる様に指示を出したが、それを遮る様に突然、
『ハンザ、彼らの首を刎ねるのは少し待ちなさい。
その青年は見所の有る青年です。
鍛え直して更生させて、貴方の戦力にしなさい。
貴方の息子のアスト?の執事として、またはボデーガードとして育てるのも良いかもしれませんね。』と女神様からの啓示を受けた。
ハンザは処刑を即座に中止させ、先ずは目の前の青年と話をしてみる事にしたのだったが、事情を聞いて見ると、一族の頭で有った青年の父親もだが、今回の戦争で多くの一族の男達が戦死して亡くなり、路頭に迷った一族の戦争孤児達を食べさせる為に、山賊に成る事を決心したは良いが、今回初めて襲撃した相手であるラスターテ家の私兵団に、赤子の手を捻る様にいとも簡単に捕獲されてしまったとの事だった。
そこでハンザはアンセバスバッハに、
「お前達の事情は分かった。
そこでお前達に聞きたい。
お前達はこの先どんなに辛くて、困難な出来事に出会おうとも、それに立ち向かう勇気が有るか? もし少しでも楽な道を選びたいと思うなら、今此処で、私は大人の男としてお前達全員の首を刎ねて楽にしてやる。
もしお前達が困難な道だと分かっていても尚、負けずに己の道を進みたいなら、俺が大人としてお前達に道を示してやる。
今がお前達の『道』の分岐点だ、男なら己の道を選べ!」と言い、ハンザはアンセバスバッハの目の前に、アンセバスバッハの父の形見だと言う大小の刀と呼ばれる剣を置いた。
この様な場面では鬼人族達の流儀として、死を選ぶなら小さな剣を、生きて尚足掻くなら大きな剣を選ぶと言う事を聞いた事が有ったからだった。
暫し考えたアンセバスバッハは、静かに大きな刀を手にとり、その刀の鐺を地面に突き刺して刀を立てると、刀の鞘から少しだけ刀の刃を抜き『カチン』と小気味良い音を立て刀の刃を納めると、そのまま刀を地面に寝かせ、ハンザに向かって
「何卒、我ら一同に道をお御示し下さい!」と頭を下げて平伏した。
そのアンセバスバッハの様子を見た他の若い鬼人族の青年達も、
「「「 何卒、我らに道を御示し下さい! 」」」と一斉にハンザに向かって平伏して願った。
後に『ラスターテ家の番犬』とも『ラスターテ家の死神』とも呼ばれ、ラスターテ家を目の敵にしている貴族達に恐れられる集団が誕生した瞬間でも有った。
このアンセバスバッハ率いる鬼人族達、エルフ族と同様に美男美女が多く、その容姿を求めた奴隷商人達が『奴隷』として金を持った貴族達に売って一儲けしようとして、未だ幼い鬼人族の少女を誘拐する事件が発生した事が有ったが、その奴隷商人の店が鬼人族達の襲撃を受けて、一夜にして全滅した事がある。
鬼人族は基本的に『男女問わず戦闘民族』なので有る。
特にその集団の頭領であるアンセバスバッハは、普段は甘いマスクで、元は『良い所の坊ちゃん』らしく少しほんわかとした表情をしている事も多いが、その剣の実力はレイピアの双剣遣いであるジェラにも引けを取らない程の腕前で、余りにも業を煮やしたジェラが思わず『雷帝・雷虎』に姿を変えて対応する程だった。
そんなアンセバスバッハ・・・ いやセバスも、アストと双子の妹達が乗る馬車の御者席に座って、のほほんと日向ぼっこを楽しみながら、王都への馬車の旅を楽しんでいた。
因みに、セバスにも二人の妹達が居り、その二人はマリンとムーンのメイド件護衛役として双子の姉妹に仕えている。
ああ、セバスの妹達も美人な上に物凄く強いのは言うまでもないかな?
アスト達が住んでいた大都市ラスタから、王都バイト迄は飛龍に乗って行けば約半日で着く距離だが、まだ幼い双子の妹達を飛龍の背中に乗せて王都バイトに行くには、アスト自身もそうだが双子達の体力が到底持たない。
従って馬車での旅となるのだが、本来なら例え高位貴族だったとしても、そう簡単には飛龍に乗れるものでは無い。
ラスターテ家が特別なのであって、他の貴族達も馬車での移動が普通なのである。
ラスタから王都バイト迄は馬車の旅で約四日程、当然、夜になると野宿をするか?宿場町の宿に泊まる事に成るのだが、馬車での旅の初日、アスト達一行は首都バイトへと続く街道沿いに在る宿場町の一つで、貴族やお金を持った商人達が主に利用する宿に泊まる事にした。
アスト達が泊まる事になった宿は、部屋も食事も悪くは無かった。
ただその夜、一緒に泊まっていた他の客、その一部の客のマナーが悪かった。
いや、最悪だった・・・
何でもこの宿場町を活動拠点にしている冒険者パーティーが、最近この先の街道沿いに在る湿地帯に出没する様になったサラマンダーの群れを討伐して帰ったと言う事で、この宿場町の町長とこの宿場町に在る冒険者ギルドのギルドマスターが、王都バイトに在るギルド本部に交渉して、元々はCランクパーティーだった冒険者達が、今回Bランクパーティーに昇格する事となったらしい。
それを祝って、この宿場町の町長がこの宿のレストランに冒険者パーティー招いて、祝いの席を催していたのだった。
まあ普通の冒険者なら、食事をするだけで金貨が必要となるこの様な場所には普段から余り近寄らないのだろうが、今回は町の町長のからの招待であり、普段なら泊まる事の無い良い宿、美味い食事に、美味い酒と言う事でかなり舞い上がってしまったのだろう。
少々、いやかなりお行儀が悪くなっており、ジェラの外見の良さに目をつけた冒険者が、何かと言って絡んで来て、ジェラに酒の相手をさせようとしたのだった。
そしてこの宿場町の町長も、同席していた冒険者ギルドのギルドマスターも、その冒険者の愚行を止めようとする素振りもない。
ただ、その席に同席していたこの宿のオーナーだけが、青い顔してブルブルと何かに怯える様子を見せていた。
「よう、そこの綺麗なメイドの姉ちゃん、ちょっと俺らの所に来て酒の相手をしろよ!」
「・・・・・・」
「なんだなんだ? 俺達みたいな冒険者風情の酒の相手は出来ないってか?」と言葉でジェラに対して煽りを入れる程度だけなら良かったのだが、あろう事かジェラの胸に手を伸ばそうとした冒険者に対して、ジェラは黙って冒険者のその手を払い落とすに留めていたが、
「何だ? 俺達はこの街道の安全を守った功労者様なんだぜ、お前達も街道の道が安全に利用出来ないと困るだろ? その俺達に対して酒の酌の一つも出来ねえってのか? 誰のお陰でこの街道が安全に通れると思ってるんだ? 見た感じだとお前達はこの宿場町の住人じゃないよな? この宿場町で安心して休めるのも、こうしてお前達がふんぞり返って美味い飯が食えるのも、俺達冒険者がこの宿場町の安全を守っているからこそなんだぜ!」
『まあこの街道の交通の安全を守っているのは冒険者さん達だと言うのは、私も同意見であるが・・・
この冒険者、何か日頃の鬱憤が溜まっていたのだろか? 結構な絡み酒の様である。』
「可愛いメイドさんに言ってもダメなら、このメイドさんの・・・ そうだ、この面子だとお前か? じゃあこの坊ちゃんにお願い・・・ いや頼むとするか?」と冒険者の矛先が私に向いたのだが、冒険者の手が私の肩に触れようとした瞬間、何処からとも無くジェラが取り出したレイピアが、冒険者の首元を抑えていた。
「痴れ者、その汚い手でアスト坊っちゃんに触れるんじゃない、もしこれ以上狼藉を働く様であれば、この場でその首を叩き切るぞ?」
「はあ〜? 出来るものならやっ・・・」
絡んで来た冒険者は『出来るものならやってみろ。』と言いたかったのだろうが、その言葉を言い切る前に私の目の前から消えちゃったけどね。
この冒険者自身も自分が『アッ!?』と思う間もなく、次の瞬間にはレストランの床に這いつくばる事に成るとは思いもしなかったであろう。
ジェラは指をパチリと鳴らしただけ、その指先の動作1つで冒険者は全身がしびれて動けなくなり、レストランの床に這い蹲る事となった。
そしてレストラン内がザワザワと騒めき始める。
「おいおい、もしかしてあのメイドって・・・ 」
「ああ、あのラスターテ家の『雷帝・雷虎』じゃないのか?」
「あの金色の瞳・・・ 多分、間違い無いと・・・」
「おいおいこの街ヤバイんじゃないか?」
「あのメイドが『雷帝・雷虎』なら、あの坊っちゃんのお父上様ってこの国の財務大臣で、この前正式に侯爵に敘爵された『ハンザ・フォン・ラスターテ侯爵』って事だろ?」
「おい、ラスターテ侯爵と言えば『娘達には物凄く甘い。』って聞いた事があるぞ!?」
「あの坊ちゃんと同席しているのって・・・ 」
「ああ、間違いなく末の双子の娘達だろな。」
「この事が侯爵様の耳に入ったら・・・ 」
「ああ、早いととっくに侯爵様の密偵か何かがご報告してるかも?・・・」
「俺、今から宿をチェックアウトして、今夜は町の外で野宿するわ! 」
「何でだ?」
「決まっているだろ? 『俺も同罪』にされたくないからだよ!
「ハハハそんな無茶な・・・ 」
「相手はこの国の最高権力者の一人だぜ? お前は絶対に大丈夫だと言い切れるのか? 明日の朝、ラスターテ侯爵様の私兵達や、国の軍隊に包囲されて目が覚めるのは、俺は勘弁だぜ! 」と一人の宿泊客の男性がその妻と子供達を連れて席を立つと、それに釣られる様にレストランで食事を摂っていた客達が、まるで潮が引くかの様に席を立つ者が続出した。
「ゆっくりと食事が出来る雰囲気じゃ無くなったね。」
「申し訳ございませんアスト様、私が余計な事をしたばかりに・・・ 」
「ジェラは何も悪くないよ、悪いのは酒に酔って絡んで来た者さ、セバス、此処の支配人に言って部屋で食事が出来る様に手配して貰えるかな?」
「かしこまりましたアスト様 」
「マリン、ムーン、部屋に戻ろう。 このまま食事が出来る雰囲気じゃないし、此処でマナーを気にして肩肘張った食事をするより、セバス達と一緒に雑談しながら食事の続きをした方が何倍も美味しいよ 」
アストの提案に双子の姉妹は笑顔でコクンと頷くと、彼女達のお付きである鬼人族のメイド達に椅子を引かれて席を立つ。
双子達もアスト同様に気分が良く無かったのだ。
それはそうだろう。
自分達にとってもジェラは『大切な姉』なのだ、その姉が揶揄われて公衆の面前で辱められたのだ、腹を立てているのも当然と言えば当然である。
その証拠に、双子の姉妹は席を立つ際にマナー違反ではあるが、手に持ったナイフをカタンとテーブルにナイフを叩き付けて席を立った。
この様子を見ていて更に顔色が青くなったのが、この宿場町の町長とこの宿場町の冒険者ギルドのギルドマスター達であった。
町長のテーブルに同席していたこの宿のオーナーなんて、とっくの前に青い顔して倒れてしまっていて、宿の支配人に肩を支えられて退席していった。
無論、この宿場町の町長と冒険者ギルドのギルドマスターの二人が揃って私達が座るテーブルに謝罪には来たが、セバスが、
「アスト様は、少々気分が良く無いご様子ですので」と、町長達がテーブルに辿り着く前に阻止していた。
その後はこれと言って問題らしき問題は起きなかったが、早朝の出発時にはこの宿場町の町長と、冒険者ギルドのギルドマスターの二人が揃って待ち構えていたが、私はわざと二人を無視して馬車に乗り込んだが、双子の姉妹は『チッ!』っとわざと聞こえる様に舌打ちして馬車に乗り込んでいた。
そんな様子を見て、
『コレ、マリンとムーンは絶対に有る事無い事を父さんに吹き込みそうだ、絶対に宿場町の町長の責任問題に発展しそうだな〜』と思ってしまう。
まあ事実として、後日この宿場町の町長は解任、冒険者ギルドのギルドマスターは辺境地への移動が決まったと聞いた。




