過保護な人達
第二話 〜 過保護な人達 〜
深夜の屋敷を警護しているラスターテ家の私兵達以外の全員が深い眠りについた頃、
私の意識だけが『いつもの場所』に来ていた。
「アストくん、そろそろ砂時計の砂か全て落ちてしまう頃だ、名残惜しいが今夜の逢瀬はココ迄としよう。
先ほどから既にテーブルに着いて私達が訓練する姿を眺めている二人の視線が痛くなって来たよ!」と間合いを外した闘神ニマエルが、大きな木の下に出来た木陰に視線を送る。
そこには時空神ロラダーナと真理神ララーナが、テーブルに頬杖を着いてコチラを見ている様子が見て取れた。
「ニマ、今夜もありがとうございました。」
「アストくん、今夜もよく頑張りましたね♪」と言いながら、あれから随分と背が伸びた私を、ニマが抱擁して頭を優しく撫でてくる。
そんな様子を見てたララとロラの両名から、ニマに対して嫉妬の視線が刺さるが、当のニマにはどこ吹く風のごとく、涼しい顔で私を抱きしめている。
「はあ〜 アストくんを抱きしめていると、本当癒されるわ〜♪」
「ニマ、砂時計の砂が全て落ちてしまう迄、3・2・1 終了〜! さあアストから離れて離れて! アストお疲れ様、冷たく冷やしたお茶で喉を潤わせながら、帰る時間まで私達とお話しをしましょうよ♪」
「ありがとうララ。」
「ロラも待ってくれててありがとう。」
「アストくん、今夜も頑張りました。」と二人の女神様が受け入れてくれる。
ニマは少し名残惜しい様子だったけど、
実は、私が『5歳の誕生の儀』を受けてから半年が過ぎた頃、私の身にちょっとした事件が起こったのだ、教会の下働きをしていた男が、偶然にも私の父が私と母を担ぎ上げて足速に馬車に乗り込む姿を見てしまい。
ビスク枢機卿の補佐役としてその場に居た修道女に事情を聞き出そうとしていたらしく、その直後、ラスターテ家の私兵を引き連れた筆頭執事であるマーカスに、半ば強引に拘束される形でビスク枢機卿と修道女達が連れ出される姿を見て、その下働きの男は『きっとこの話は金になる!』と思い。
ラスターテ家を疎ましく思っていた貴族に話しを持ち込んで、アストを誘拐しようと企んだ事件があったのだが、結果として誘拐計画は失敗に終わり、元下働きの男は捕まった牢獄で原因不明の病いに倒れ、犯行を指示したとされる貴族とその手下達は、何故か?アジトとして使っていた家の壁に飲み込まれて、一切の身動きが出来ない状態でラスタに駐在する兵士達に捕り、そのまま牢獄に留置されたが、下働きの男と同様に原因不明の病いに倒れたらしい。
そんな事件があ有ったからなのだろうか?私が体を鍛える事に関しては父や母達は何も言って来る事は無かったが、女神達はちょっと違った。
「アストくん、私と一緒に鍛練しませんか?」と私の目の前にニマが現れ、気が付けば天界に招かれていたのだ、
無論、教会の大聖堂にある礼拝所で天界に召喚された訳では無い。
私は自分の部屋のベッドで気持ち良く寝ていた筈である。
「えっ、どうしてニマが僕の目の前に? それに『一緒に鍛練』ってなんで?」
「先日の件ですが、アストくんを誘拐しようと企てていた物達は、捕まえたアストくんの指を切断して、その指をアストくんのお父様に送り付けて、多額の身代金を脅し取ろうとしていました。
確かに、指を失った程度なら教会で聖女にメガヒールを掛けて貰うか?メガポーションを購入して飲用すればまた指も生えて来ます。
それにラスターテ家の財力なら、問題無く教会に支払う治療費も、メガポーションの薬代も払えるでしょう。
しかし、一度でも心に刻み込まれた『他人の悪意』や『理不尽な痛み』は簡単には拭い去る事は出来ません。
それに、私達女神は直接下界に干渉する事を許されていません。
アストくんが下界で遭遇する『悪意』は、自分自身の力で克服するしか無いのです。」と、ニマが真剣に語り掛けて来る。
「なあアスト、分かりやすく言えば、ニマは『悪党達をぶん殴って黙らせる事が出来る力を付けよう!』って言っているのさ!」
「アストくん、悪い奴らには遠慮しなくて良いとロラは思うの!」
ふと声がした方を見ると、その場にはララもロラも揃っていた。
ロラなんて胸の前で両手の拳を握り『フンス!』と気合を入れてたりする。
実際、あの時は私の専属メイドのジェラが居なかったら、私はまんまと誘拐されていただろう。
その日は、私の専属メイドのジェラをお供に、屋敷から出て別宅で隠居生活を送っている祖父と祖母に会う為に、馬車に乗って出掛けていた。
祖父母達が住む別宅は、ラスタの中心地から少し離れてて、馬車で片道三時間は掛かる距離だが、私は馬車の窓から『時間がゆっくりと流れている様な景色』を眺めるのが好きだった。
そして専属メイドのジェラは、私がこの世界に生まれてから今日まで、私の身の回りの世話をしてきてくれた第二の母・・・ いやジェラはまだ二十歳そこそこの筈なので、姉の様な存在だと訂正しておこう。
猫獣人族であるジェラは、文字通り私を『猫可愛がり』して何かと私の世話を焼きたがるのが玉に瑕なのだが、私もジェラに甘えて一緒に添い寝して貰ってお昼寝するのが好きだったりするけど、それ以上にジェラに抱きしめられると幸せな気分になるのだった。
この日もジェラと一緒にルンルンな気分で馬車に揺られていたのだけど、そんな気分を台無しする連中が派手な爆音と共に現れた。
そう、私を誘拐しようと企てた連中の手下達だ、
直ぐにジェラが馬車の室内に有る紐を引くと、馬車の屋根から大きな火球が打ち出された。
ラスターテ家の私兵団や、ラスタに駐屯している兵士達に窮地を知らせる為だ、
馬車の窓から外を覗くと、悪い事に馬車の御者と、馬車を引いていた馬達は、最初の爆音が聞こえた時に爆裂魔法攻撃の直撃を受けたのであろうか?既に動かなくなっていた。
そして更に悪い事に、襲撃者側には魔物使いが居たのであろう。
三体のレッドオークの姿も認められた。
このレッドオーク、ノーマルのオークはダンジョン産ならば高級豚肉をドロップするし、ダンジョン外の森で出現しても食料として重宝する魔物なのだが、このレッドオークだけは違う。
食肉に向いていないだけでは無く、肉は不味いし、皮膚が硬すぎて剣の刃は通りにくく、火炎系の攻撃魔法しか有効打が無いのだ、襲撃者が魔法攻撃主体の攻撃を掛けて来るのならば、魔法障壁を何重にも掛けてあるこの馬車に籠っていれば、救援が駆け付けて来るまでは持ち堪える事も可能だが、この馬車は打撃系の攻撃にはちょっと弱かった。
この馬車に掛かっている障壁魔法は、数十人の外敵から斧で破壊しようと攻撃されても、小一時間程度なら持ち堪える事は出来る性能を持っているが、レッドオークが三体、しかも力自慢のレッドオークが力任せでこの馬車を殴打すれば、流石に小一時間とは言わず30分程度で馬車は破壊されてしまうだろう。
今のアスト達には物凄く分の悪い状況だ、
ジェラは覚悟を決めた表情でアストの顔を覗き込むと、
「良いですかアスト様、今からジェラの言う事を良く聞いて下さい。
襲撃者達は、この馬車の性能を熟知していて、攻撃魔法がそう簡単には通用しない事を知っています。
奴らはその事を踏まえてレッドオークを従えて襲撃して来ている様です。
アレは何処ぞの貴族の私兵集団が飼っている魔物でしょう。
私があのレッドオークの注意を引いて、救援部隊が到着するまで時間を稼いで来ます。
ですから、アスト様はジェラがお迎えに来るまで、この馬車の中で大人しくして待っていてください。
・・・良いですね?」と言い、ジェラは携帯していた二本のレイピアを手に持つと、三体のレットオークに向かって行った。
今ではアストの専属メイドに収まっているジェラではあったが、元からメイドだった訳では無く、元々はアストの母であるリステナの護衛の一人であった。
ジェラの両親はラスターテ家の私兵団の幹部兵であり、元はBランク冒険者であったが、アストの父であるハンザが仕入の為に他の都市に赴く際、荷馬車の護衛役として雇ったのが縁で、ラスターテ家の私兵団に入隊したのだった。
そろそろ結婚を考えていたジェラの両親にとっても、今後の安定した生活の事を考えると悪くない誘いだったので、二つ返事でハンザの誘いを受ける事となった。
その後、程なくしてジェラの母親の妊娠が発覚、そしてシェラが生まれたのだが、元々猫獣人族の子供達は、幼い頃は活発な子供達が多いのだが、ジェラは他の猫獣人族の子供達と比べてもかなり活発であり、アストと同じ年頃の頃には父親の真似をしてロングソードを振り回そうとする様なヤンチャな子であった。
そしてセンスも有ったのだろう。
メキメキとその才覚を伸ばし、15歳になる頃にはアストの母親の護衛の一人に選ばれる程に成長していた。
その頃のアストの母リステナは既にアストを妊娠しており、リステナを護衛するのは同じ女性が良いだろうとシェラが追加でリステナの護衛役に就いたのだが、アストが産まれる時のちょっとしたトラブルから、リステナは予定日よりも大分早く破水してしまったのだ、で!その時にアストの出産に立ち会い、アストを取り上げたのがジェラだった。
そしてジェラの中ではこの時に『この子は私が守る!』と勝手に決まってしまっていたのだった。
その後はちょっとした騒ぎにはなったが、どうしてもジェラがアストと離れようとはしないので、とうとうハンザが折れてジェラがアストの『専属メイド』となったのであった。
勿論、最初からジェラにアストの子守は無理だったが、正規のメイド達や、ジェラの母親、そして私兵団で働く旦那さん達の奥さん達もが、何だかんだとジェラを手助けしてくれたおかげで、私はスクスクと元気に育つ事が出来たのである。
ジェラは、正式に冒険者として活動をした事は無かったが、冒険者ギルドに冒険者としては登録済みで有り、ラスターテ家の私兵団達でローテーションを組んでの『魔物狩り』にも参加していた。
ジェラの冒険者ギルドでの公式ランクは、Bランク寄りのCランクだと認識されているが、襲撃者側が用意したレッドオークは、個体ならDランク指定の魔物、Cランク冒険者が何とか一人で討伐出来る魔物だが、三体も現れると話が変わって来る。
過去に三人組のCランク冒険者パーティーが、三体のレッドオークを相手に全滅した事も有るらしい。
レッドオークは無駄に知恵が回る事から、自分達よりも強い獲物を集団で狩るのが得意なのだ、王都の騎士団などは、そのレッドオークの習性を上手く利用して戦術に組み込んでいる程だった。
ジェラはレッドオークに肉迫すると、先頭に居たレッドオークの腹部に両手で二本のレイピアの斬撃を力一杯叩き込んだが、レッドオークの身体の表面にはベッタリと油が塗り込まれており、渾身の一撃を加えた筈のレッドオークには、二本の赤い切り傷の痕が走ったのみだったが、ジェラはその結果に落胆する事無く、更に斬撃を叩き付け続ける。
三体のレッドオークを相手に、動きを止めると言う事は、死を意味する事だとジェラは理解していたのだ、
『私の動きが止まってしまうと、レッドオークがアスト様が乗っている馬車に向かってしまう。
せめて救援が到着する迄は・・・
例え一瞬たりとも、立ち止まる事は許されないのよジェラ!』と、自分に言い聞かせながら、ジェラは真上から振り下ろされて来るレッドオークの腕を横に躱し、背後からジェラを鷲掴みしようとしていた別のレッドオークに、振り向きざまに両手のレイピアを振り上げて、その腕に赤い線を刻むと、もう一体のレッドオークがジェラ目掛けて両腕を振り下ろして来ている所だった。
このレッドオーク達は良く訓練されていて、連携の取り方も上手い。
そして、このレッドオーク達に指示を出している魔物使いもかなり戦闘慣れしていたのだろう。
『元王都騎士団所属の魔物使いだろうか?』とジェラは思ったが、横目でチラリと伺った感じではまだ若い魔物使いなのが確認出来る。
しかしそんな事を頭の片隅で考えていると、レッドオークの横薙ぎに払われた腕がジェラの体を掠めて行く、
『ダメだ! 今は目の前に居るこのレッドオーク達に集中しろ!』と意識を目の前のレッドオークに切り変え、レッドオークの横薙ぎに振るった腕に掠め取られて破れたメイド服のブラウスを『動くのに邪魔だ!』と言わんばかりに自ら剥ぎ取った。
まあこの行動が後々のジェラ、強いてはアスト達の有利に繋がる事になる。
この三体のレッドオークを操っている魔物使い、ジェラは『退役した元王都騎士団所属の魔物使いか?』と踏んでいたが、実はアストの父ハンザを疎ましく思っている財務大臣、バクレ伯爵の息が掛かった『現役の王都騎士団所属の魔物使い』だった。
この魔物使い、ジェラが自らメイド服のブラウスを破り捨てた瞬間、露わになって荒々しく揺れ動く、ジェラの大きな胸に目が釘付けになった。
当初の計画では『邪魔な護衛は早々に排除する』との事だったが、王都騎士団でも女癖が悪いと評判だった魔物使いは、早々に予定を変更してしまう。
彼が王都騎士団で評判が良くなかった理由として、男爵家の跡取りとして甘やかして育てられていたせいなのか?元々その様な性癖が有ったのかは知らないが、若い女性を痛めつけて楽しむ性癖が彼にはあった。
『もう少し時間を掛けて、ゆっくりとこの女を痛めつけて、俺のオモチャにして殺してやろう。』との思いが、三体のレッドオークにも伝わり、結果、レッドオークの動きも『殺す!』から『甚振る!』へと変化したのだ、
レッドオーク達の動きが変化したからと言って、ジェラの方に余裕が出た訳では無い。
ただレッドオーク達の動きが『瞬殺』から『嬲り殺し』に変わっただけで、相変わらず連携した攻撃に隙は無かった。
時間が経つにつれ、徐々にレッドオーク達の攻撃がジェラを捉え始め、ジェラの疲労の色が濃くなる。
そしてとうとうジェラの動きが止まってしまう。
いや、正確にはジェラがレッドオークの攻撃を両手に持ったレイピアで上手く受け流していたが、そのレイピアの耐久性が限界を超え、右手に持ったレイピアは根本から、左手のレテピアは刃の中程から折れてしまった。
それでもジェラは、右手に残ったレイピアのナックルガードを使ってレッドオークを殴打したが、大したダーメージは与えられず、とうとう一体のレッドオーガに後ろから頭を鷲掴みにされてしまう。
「改めて見ると中々の上玉だなお前!
此処で殺してしまうには少々勿体無い気もするが『敗者の義務』だ、俺様を楽しませろ!」と、襲撃者側の魔物使いが街道の側の林から姿を表すと、腰からナイフを抜き、ジェラの下腹部付近にそのナイフを突き刺して、そのままジェラの臍辺りに向かって切り上げると、腰に巻かれていた革ベルトを一気に切断する。
魔物使いにはジェラが苦痛に歪める顔は最高のご馳走であった。
ジェラの腰に巻かれていたメイド服のスカートが、ジェラの足元にバサリと音を立てて落ち、魔物使いがベルトを切断する時に一緒にジェラの下腹部も深く切り付けたのか?レッドオークに頭を掴まれて持ち上げられたジェラの足元には赤黒い血溜まりが出来始める。
「いいね〜その顔! その悔しそうな顔が、苦痛と絶望の混じった顔になる瞬間、その顔! 俺はその顔が好きなんだ、もっと俺を楽しませてくれ! お前が息絶えるまでお前のご主人様が捕まらない事を、俺は祈るよ! お前をそう簡単に殺してしまうのは少々勿体無い気がするからな!」とジェラの大きな乳房を片手で掴むと、魔物使いはゆっくりと手に持ったナイフをジェラの胸に深く突き刺す。
この時、ジェラは自分に与えられる苦痛には恐怖してはいなかった。
逆に安堵の気持ちの方が大きかったとも言っても良いだろう。
魔物使いが自分に興味を持った時点で、多少なりともレッドオーク達がアスト様が乗っている馬車に襲い掛かるのを遅らせる事が出来たからだ、馬車の方に視線を向けると、アスト様が泣き叫んびながら、私に向かって何かを訴え掛けているのが見える。
『大丈夫ですアスト様、間も無く私兵団の救援部隊が到着する頃だと思います・・・
もう少しの辛抱ですアスト様、
そんなに心配されなくてもアスト様はきっと大丈夫です・・・
あゝ、馬車に施錠の魔法を掛けて良かった・・・
きっと貴方は私を心配して飛び出して来るから・・・ 』と、ジェラはアストの事だけを考えていた。
只、ジェラが怖かったのは、
『二度とアストの顔が見れなくなるかもしれない・・・ 』と言う今のジェラの身に突き付けられている現実だけだった・・・
そしてジェラは、レッドオークに頭を掴まれた状態で宙に持ち上げられ、魔物使いにりょ辱されながらも、
ジェラは願わずにはいられなかった・・・
「闘神であり、獣神でもある我々獣人族の女神・・・
ニマエル様・・・
私の身はどうなろうと構いません・・・
私のアスト様を・・・
お守り下さい・・・ 」と、ジェラのか細くなった声が漏れる。
そして、掠れ行く意識の中でジェラは、声を聞いた気がする。
『良く言った!
その願い!
私が叶えてやろうぞ!! 』と・・・
「うぅん? 何だこの女、泣いているのか? アハハハハ! どうだ悔しいか? 俺が憎くいか? だったら、出来るものなら今からでも俺様に反撃してみろよ!」と魔物使いがジェラを嘲笑った瞬間、突然ジェラの身を物凄い落雷が襲う。
その反動で、魔物使いのみならず、ジェラの頭を鷲掴みしていたレッドオークまでが吹き飛ばされ、そしてその場には、全身に金色の雷を纏った獣人が静かに佇んでいた。
この少し前、天界ではニマ、ロラ、ララの三人が下界のアストの様子を見ていた。
そして、特にニマはこの状況が許せなかった。
無論、アストが襲われている状況も到底許されるものでは無いのだが、アストの身を案じて一人で襲撃者達に挑んだジェラが、襲撃者側の魔物使いが使役するレッドオークに蹂躙されている。
そのジェラもどうにか救ってやりたいと思っていたのだ、まあその横でアスト達の状況を見守っていたララもロラも似たような感じではあったが、やはりジェラが獣人族だと言う事もあり、ニマが一番入れ込んでいた様だ、
そしてジェラの切実な願いが、闘神であり、獣人達の守り神でもある女神ニマエルの耳に届いたのだ、
基本的に、この天界に住む女神達には、大神殿などの祈りの場からでしか、下界に住む人々のからの声は届かない。
唯一の例外として、
一つ、良き願いで有る事。
二つ、真摯な願いである事。
三つ、他者の事を思いやる心がある事。
と、主神であるレアフジィーネが定めた。
この条件の元になったのは『親が子を思う心を大切にしたい。』と言う思いを守りたいと、レアフィジーネ自身が思ったからで有る。
レアフィジーネがこの世界を創生して、この世界がまだ未熟だった頃、新生児達の生存率が異様に低く、産まれてから無事に大人に成長できる者は全体の約8%にも届かなかった時期が有った。
そこでレアフィジーネは高位女神として『生命神レムニール』を産み出し、その高位女神の元に中位女神として『薬神』『回復神』『再生神』の三柱を配し、この条件下で下界からの救いを求める声が天界の女神達に届く様にしたのだった。
まあそのおかげで、『生命神』である女神レムニールは『天界に住まう女神の中で一番多忙な女神』として、この天界でもその姿を見掛ける事は少ない。
因みに、この生命神レムニール、天界では長女的立場の女神で、同じ立場である筈の高位女神達でさえ、その口煩さから恐れられているだけでは無く、主神であり母であるレアフィジーネ自身も少々・・・
いや、かなり苦手な相手でもあった。
話がかなり脱線したので本筋に戻すが、
ジェラがレッドオークに拘束され、魔物使いにりょ辱されていた場所には、
全身に雷を纏い黄金に輝く美しい獣人が佇んでいるだけだった。
その光景は、アストが乗る馬車を襲っていた魔法使い達にも確認する事が出来た。
出来たと言うよりも、間近で物凄い落雷があったのだ、気付くのが当然なのだが・・・
五人の魔法使いの内、二人の魔法使いは落雷のショックで失神していたが、残り三人の魔法使い達は耐性魔法や障壁魔法が掛かった上等なローブを羽織っていたのだろう?
ジェラが『獣人・雷虎』として覚醒した際の衝撃波として放たれた雷には、耐える事が出来た様子だった三人の魔法使い達だったが、ジェラの指先が魔法使い達を指差し、指先をクイっと下に向けた瞬間、先程の雷とは比べる事が出来ない程の雷撃が魔法使い達を襲い、三人の魔法使い達は声を上げる間もなくその場に崩れ落ちたのだった。
その美しき獣人は、アストの方へと振り返ると、優しく、儚く、嬉しそうに微笑むと、その場に崩れ倒れてしまった。
ジェラが雷に包まれる瞬間を目の当たりにしていたアストは、目の前美しい獣人がジェラだと知っていた。
だからジェラがその場に崩れ倒れた瞬間、アストはもう一度馬車のドアを力一杯に叩いたが、予想外に馬車のドアは簡単に開いた。
そのままジェラに飛び付いて助け起こそうとしたが、やはり五歳児の身体、ジェラを助け起こす事も出来ず、ジェラの側に座り込み名前を呼ぶ事しか出来ない。
「やっと出て来たな小僧・・・
とんでもない獣人が出て来た時には、一瞬、どうしたものかと考えだが、子供のお前を捕まるだけなら、俺でも出来るぞ!
これでお前をお館様の御前に・・・ 」
全身を雷に打たれて、焼け爛れた姿をした一人の魔術師は、最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「退がれ下郎! それ以上坊ちゃんと家の可愛い娘に近寄るなっ!」との大きな怒声と一緒に、何処からか降って来た長槍に、胸を貫かれてその場に縫い付けられたからだ、
アストが『えっ?』と驚いていると、
「アスト〜怖い思いをさせて済まない! 全てはこのパパが悪いんだ! パパを嫌いにならんでくれ〜〜〜!」
「旦那様、アスト坊ちゃんをお救いに来るのが遅れたのは、全て私の責任、坊ちゃん、悪いのは全てこのマーカスです。」
「ジェラ〜〜〜! 大丈夫か?ジェラ〜〜〜!」
「何をやっているのあなた! ジェラは裸のままなのよ! いつまでジェラの裸を団員達の前に晒すつもりなの?!!」
「そうだった! 全員ジェラを見るな〜!」と、
一瞬で中々カオスな状況になってしまった・・・
アストの父ハンザ、ハンザの執事マーカス、ジェラの両親、そしてラスターテ家私兵団の30人余りが飛龍に乗って駆け付けていたのだ、しかもそれだけでは無い。
ハンザの盟友であり、ラスターテ家の守護龍でもある『龍神アニアプレス』の姿も確認出来る。
このアニアプレス、とにかく大きいのだ、どのくらい大きいかと言うと、アスト達が住んで居る大都市ラスタの20m近い高さのある外壁から、ひょこりと頭が出せる程に大きい。
「何をやっておるハンザ、早くあ奴らを『プチ』っとやりに行くぞ!」と大きな声で龍神アニアプレスが父ハンザを急かす。
「まあ待とうかアニア、ただ『あ奴ら』を『プチ』っと潰すだけでは私の腹の虫が治らないよ! 『あ奴ら』には、これから地獄を味わって貰わないと!」とハンザ、
ハンザ以外の全員が、これからアスト誘拐を企てた主犯、財務大臣バクレ伯爵の居る王都に乗り込む気満々だったが、ハンザの『悪い事を考える時の顔』をみて、マーカスと私兵団全員が、
『こりゃ〜 血の雨が降るだけでは済みそうに無いな!』と背筋に冷たい物が走ったが、
「何だ? 『あ奴ら』を本当に『プチ』っとしには行かんのか? つまらんの〜 まあ坊ちゃんは無事だった様子じゃし、何やらジェラの嬢ちゃんは『魂の格』が数段上がった様子じゃし、儂は次の出番まで、別の『庭』で惰眠でも貪るかの? 眷属達よ、今後もハンザに尽くせ! 」と言って龍神アニアプレスは何処かに飛んで行く、その姿を飛龍達は首を下げて見送っていた。
まあその後のハンザの行動は迅速だった。
先ずハンザは、その足でマーカスと一緒に私兵団20名余りを引き連れて、飛龍に乗って王宮に乗り込むと、王に対して財務大臣バクレ伯爵の身柄の要求を突き付けた。
この財務大臣バクレ・フラッシュバイト伯爵は、王の甥、王の弟であるバカス・フラッシュバイト公爵の息子であった。
無能でも無く有能でも無い、凡庸な国王バルサン・フラッシュバイトは判断を躊躇して、
「後日、判断を伝える。」と、その日はハンザを下がらせたが、
その日の夜に、何処からともなく『龍神アニアプレス』が飛来して来たかと思うと、そのまま王宮の王のプライベート空間である後宮の『庭』に舞い降り、大きなイビキを掻きなが眠り始め、しかも時折り長い尻尾で、後宮を囲む内城壁の壁や、後宮の建物の壁を叩き壊すのだ、王にしてみれば堪った物ではない。
安心して落ち落ちとは眠れない日々が続いた三日後、結果的にハンザの要求を飲んで、バクレを王宮に召喚する事にしたのだった。
その後の事は先にも述べた通り、財務大臣バクレ・フラッシュバイト伯爵と、その父親であるバカス・フラッシュバイト公爵は、王宮内にある『王族専用の牢獄』と言う名の塔の個室の中で、地下牢に投獄された家臣達同様に、謎の変死を遂げる事となる。
この事件が元でハンザは名誉伯爵から、名誉侯爵へと叙される事となり、財務大臣顧問と言う立場から、財務大臣へと叙される事となった。
このフラッシュバイト王国では、初の平民出身であり商人で有る人物の大臣職への就任だった。
この件に関しては、同じくフラッシュバイト王国の財政を牛耳っている他の二人からは不満は出なかったし、逆にハンザは他の二人に『財務大臣』の座を押し付けようとしたが、
「何故、私が大切な金儲けの時間を削ってまで、国の懐事情に悩まされなければならんのだ? ハンザよ、そろそろ息子のハルクくんに家督を渡したらどうだ? で! ハルクくんを家の娘の婿になんてどうだ? ついでに俺がハルクくんの義父としてお前の商会も面倒を観てやるよ!」
「待て待て! ハンザ、家の産まれたばかりの娘の婿なんてどうだ? きっと妻に似て絶対に美人な娘に育つと思うぞ〜♪」
「待て待て!何だお前達!俺が財務大臣に就任すると、このフラッシュバイト王国の財政を、俺の独自の判断で自由にする事が出来る様になるんだぞ!お前達はそれが怖くないのか?」
「だってハンザがする事だろ? どうせ俺達商人を一番に考えた事をするんだろ?」
「そうそう! お前、昔から居酒屋で酔うといつも言ってたもんな♪
『何で俺達が汗水流して、時には血反吐を吐きながも頑張って稼いだ金を、何もして無い貴族達に取り上げられんといけないんだ〜!!』ってな♪
だから俺達はお前を信じるよ! だからお前の息子を、俺の娘の婿に寄越せよな♪」
「いや! 俺の商会に入婿させろ〜!」
「お前達・・・ 」と話しは付いたが、その後のフラッシュバイト王国は『自由経済国家』として変貌して行く事となり、その姿も大きく変わる事になる。
最初は平民出身のハンザに反発していた貴族達も、自分達が治める土地の経済が徐々に活性化する事で税収が増えその分収入も増えたと喜ぶ貴族達もいたが、
領地の税収が増えると、それ相応に国に納める上納金も増える事になり、その事に関して頭を抱える事も多い地方貴族達の中で、長年、貧乏男爵家の当主として少ない収入で何とか遣り繰りして頑張っていた年老いた一人の当主が、ハンザに対してアドバイスを求めた結果、その地方貴族が統治する領地の税金を今の半分にする様にとアドバイスを受けたのだが、その老いた貧乏男爵家当主も、
『どうせ国に莫大な上納金を納めるぐらいなら・・・ 』と領地の税金を半分にした所、不思議な事に国へ納める上納金の金額は大幅に下がったにも関わらず、その地方貴族の収入は大幅に増え、経済的にもかなりの余裕が出来る事になり、その後もハンザに対してアドバイスを求めた結果、ハンザは特別に長男のハルクを『マチスニア男爵家の経済的立て直し』の為に派遣して、僅か数年でマチスニア男爵家が納めていた『農業』と『酪農』しか産業が無かった地方領地から、多くの商人や冒険者達が行き交う領地へと変貌した。
元々、マチスニア男爵の領地に有ったDランクだと判定を受けていたダンジョンを、ハルクの提案で再調査した結果、実はBランクのダンジョンだった事が判明、しかも魔物を討伐した際に取れる良質な魔石もそうだが、その他ダンジョンで採取される資源にも期待出来るとあり、急遽新しい冒険者ギルドの支店が設立され、それに伴って多くの冒険者達が訪れてる事になり、その冒険者達が落とす『金』を目的にした様々な商売人達が集まった結果、元々マチスニアの主な産業でもあった『農業』や『酪農』を営んでいた領民達も忙しくなり、これ迄は仕事が無くて大きな都市へと出稼ぎに出るしか無かった農家の三男や四男も、自分で土地を開拓すれば自分が『主人』に成れると言う事もあり、一気にマチスニア領が活性化する事となった。
中には土地を開拓するのに人手が足りず、奴隷商人達から奴隷達を買い漁る農家も居たと聞く、
まあ奴隷と言うと冒険者の従者と言う見方が多いが、この世界では『経済的な理由』から、奴隷と成らざるを得ない人達が多いのも事実で有る。
また大きく話が脱線してしまったので、話しを本題に戻そう。




