第八話
俺は今日、ナズマと一緒に街に出ていた。
俺の能力である"魂干渉"は刃を媒体にしないとならない。
だから早い段階で、ナイフでも大剣とかでも良いから、何か"斬る武器"が必要となる。
それをナズマに相談したところ、この街には武器屋があるらしく、多種多様な武具が揃っているとのこと。
「歩美さんって、見た目とは裏腹にパワー系なんだな!」
「……まぁ。そうだね」
ナズマが何故か目を輝かせる。
彼は見た感じや筋肉質なことを踏まえると、インファイターだったりするのだろうか。
まぁ一緒に戦うことになった際に分かるだろう。
しばらく歩き続けると、武器が沢山並んだ店の前に着いた。
大柄な傷だらけのおじさんが商品の宣伝をせんとばかりに近寄ってくる。
「いらっしゃい! お? 綺麗なお嬢ちゃんだねぇ。こんな物騒な店になんの用だい?」
とても優しい笑顔で俺に問いかけてくる。
そう言えばさっきから思っていたが、街中での視線が痛い。
やっぱり歩美さんは美人だから、視線が集中してしまうのは最早運命であろう。
男からの複数の色目に嫌悪感を覚える。
歩美さんも大変だったのだろうと思うと切ない。
俺はそれすら分かって居なかったのかと思ってしまう。
「さて歩美さん! 何にする?」
ワクワクしたような様子でナズマが言う。
俺は特に剣の売り場をよく見た。
短刀に中世剣、仕込み刀や日本刀まで揃っている。
──ん?待て日本刀だと!?
顔をギュインと動かし、好奇心のままに日本刀を手に取る。
軽そうに見えてそこそこ重量のある長い鞘入りの刀。
手に握った瞬間、心臓が高鳴った。
「わぉ! ジャパニーズカターナ!?」
俺は興奮の余り叫んでしまう。
周りから先程とは違う視線を向けられているが、今はそれどころでは無い。
日本刀がこの世界にも実在しているとは思わなかったし、この手で持つのも初めてだ。
それにしてもカッコよすぎる。
鞘の中にまだ刀身が納められてるにしても、やはり男心がくすぐられる。
店員のおじさんが大きく笑う。
「お嬢ちゃん。そんなに気に入ってくれたかい?」
「おうおっちゃん! これにするぜ!」
「お、おう。そうかい。えーっとじゃあ……」
若干おじさんに引かれていたが、まぁ良しとしよう。
おじさんは刀をじっと見つめながら言う。
「お嬢ちゃん。その曲刀は十万だよ」
「ありがとうござい──ま?」
十万?待てまさかそれって──。
「だから。曲刀ぁ十万だって一番安いヤツだよ」
まるで魚屋さんのような軽いノリで言ってくる。
十万円(仮)ってことなの?
しかも最安値で!?
勿論刀がそう安い分けないとは思ったが、二桁とは恐れ入った。
普通にバイトしてる高校生とかでも簡単には買えない値段をしている。
ていうかそもそもRPGのチュートリアルのノリでやって来たが、それとは違って俺は一文無しだ。
どうしようか悩んでいると、後ろからナズマが不思議そうに尋ねる。
「歩美さん。どうした?」
「あーいや……俺、そいや金持ってなくて」
「あぁ、そうだったのか……よしならばここは俺が払おう」
「いやぁ参った参った。この辺りに短期バイトとか今なんて?」
突然のナズマの発言に、俺は思わず尋ね返す。
彼はとても良い笑顔で答える。
「なぁに。俺はそこまでお金には困っていないんだ。だから俺が払おう」
「いやいや払おうじゃなくてだな。その……俺なんかに……いいの?」
「あぁ勿論だ! だって武器を持っている方が、歩美さんも都合が良いんだろう? ならばその方が心強い!」
「お、おう……あざす」
信頼なのか買い被りなのか。
どちらにせよお人好しとかの次元じゃ無さすぎて逆に怖い。
まぁだけど、実際こうしないと俺は戦えすらしないか弱い乙女になりかねないし、ここはご厚意に甘えさせてもらおう。
会計を済ませて刀を受け取ったナズマは、そのままそれを俺に手渡す。
俺は「ありがとう」と会釈しながら、刀を受け取る。
そしてそれを、腰に掛けてみる。
「……ふわぁぁあ」
感嘆の余り、我ながら意味不明な声を漏らす。
男のロマンたる異世界に加えて、日本人のロマンである刀の所持。
やばい。
興奮と嬉しさが俺の脳内で化学反応を起こす。
それを見たナズマは嬉しそうに微笑む。
「気に入ったのなら、買った甲斐があったというものだ!」
「本当にありがとうナズマ。このご恩はいつか必ず百倍にしてお返し致します」
「……そうか。まぁとにかく喜んでくれるなら嬉しい限りだ!」
ナズマは満足気に笑った。
しばらくして俺達が家へと戻ると、家の前にカズチが立っていた。
物悲しげな表情で、彼女は家を見つめている。
「姉上? どうなさいました?」
「おや。お二人共おかえりなさい。歩美と共に行くのであれば、この家とはしばしの別れとなりますからね」
それを聞いて俺は「あぁ」と心の中で呟く。
「過酷で辛いことが沢山ありましたけど──ここは我が家と言っても過言では無い場所でしたからね。名残惜しいものです」
「……そうなんだね」
「えぇ。ですが歩美との旅路も楽しそうですし、新鮮な経験だと思うので構いませんよ」
カズチは穏やかに微笑んだ。
俺にもその微笑みが作り笑いなのは分かる。
だけど、楽しくなりそうなのは俺も同じだ。
「では──参りましょうか」
カズチとナズマは揃って歩き始めた。
俺も手に入れたばかりの刀を腰に携えて、二人の後に続いた。
──これが俺達の旅の始まりだ。
続く




