第七話
俺はカズチ達の部屋で目が覚め、ムクリと体を起こす。
部屋には誰もおらず、暫く静寂が流れている。
俺はベッドから体を出し、再び鏡の前に立つ。
相も変わらず、麗しい顔をした美少女がそこに居た。
それを見た瞬間、俺はここにいる意味を再確認出来た気がした。
「……歩美さん。寂しいかもだけど……もう少し待っててくれ」
俺は鏡の向こうの少女にそう言う。
その直後、部屋の扉がノックされる。
扉の奥から現れたのは、カズチとナズマだった。
「失礼しますね。歩美さん、今よろしいですか?」
カズチが微笑みながら尋ねる。
俺は彼女らの方を見て答える。
「別にいいが……どうした?」
二人は一瞬目を丸くするが、すぐに話し始める。
「歩美さん。一つお尋ねしたいのですが。何故あんな山奥に居たのですか?」
「え?」
「出会った際に聞きそびれてしまったもので。あの山に用もなくいるのはどうしてだろうと思いまして。何か理由があったのですか?」
カズチが不思議そうな顔になり尋ねる。
俺は素直にこの世界にやって来た理由を話した。
「──俺は歩美さ……大切な人の為に旅をしてるんだよ。今はもう居ねぇけど、その人に俺の楽しかった体験を話してやりてぇんだよ。だから旅をしてる。んで、あそこは迷ってたら来た」
「……そうだったんですね。もう一つお尋ねしても?」
「あぁ。なんだ?」
「……歩美さんってそんなキャラでしたか?」
「へ?──あ」
俺は言われて気がついた。
完全に一人称が"俺"になっていた。
最初は"私"にしていたから、急に変えてしまった形になる。
黒い男との死闘の末に、記憶から抜け落ちていた。
どうしよう、なんで言い訳を。
俺が考えていると、二人は唐突に笑いだした。
「なんだ。歩美さん、最初からなんだか後ろめたいと言いますか。なんだか遠慮気味だった気もしまして。まぁ、初対面だったからって言うのもあるのでしょうけど」
どうやら最初から違和感はあったらしい。
やっぱり慣れないことは出来る気はしない。
だからと言って、俺の正体を明かす訳にもいかない。
どないしたもんかと思っていると。
「我々は話し方が変わっている程度で、人を嫌いにはなりませんよ? それぞれの個性なのですから。ですよね、ナズマ」
「えぇ。俺も姉上と同じです」
二人揃って笑い合う。
俺は二人を見て、思わず泣きそうになってしまい目を逸らす。
本当に関わりも薄いはずのやつに、ここまで優しくしてくれる。
本当にこの世界の住人は聖人が揃っている。
「そ、そう? ならこれでお願い……あと、敬語じゃなくて平気。なんかむず痒い」
俺が照れ気味に言う。
二人は再び揃って笑い頷き合う。
「分かりました。ですが私はタメ口には慣れていませんのでこのままで。でも名前は親しみを込めて『歩美』と呼ばせて頂きます」
「俺は……名前には"さん"を付けるが、それ以外はタメ口で行くことにしよう!」
俺はこの二人の正反対さに少し笑ってしまう。
姉弟だなって感じる。
似るようで似ないところがとてもリアルだ。
「さて。それを踏まえて改めてお話が。歩美は見たところ、戦える見た目では無いように見えます……あくまでも私の偏見に過ぎませんのでもしかしたら強いのかもしれませんが」
まぁ別に戦えない訳では無いが、俺の能力はとにかく刃が無いと始まらないらしい。
だから俺は、今のままではただのか弱き乙女の見た目をした青年である。
「……正直、これ以上は俺だけじゃ厳しいのかもしれねぇな。覚悟はしてるけど」
「……でしたら。私達が、共に参りましょうか?」
「え? どゆこと?」
「私達も、元々親が居ないので。故郷である街で万事屋をしていたんですよ」
カズチのその発言に目を丸くする。
中々しれっととんでもないことを言うものだ。
元々親が居なかったとは。
中々ハードな生い立ちなのだろうか。
だけどそんな家庭環境が安定してないのに、ここまで聖人になれるのか。
余程の人格者と思える。
「だからよろしければ。歩美の旅にお供させてください」
「え、いやでも……俺の方が……二人にお世話になってるし。それにまだ、全然二人と関わってもないのに」
「……まぁ。その辺は単なる私の勘ですよ。歩美は悪い人では無いのだろうという勘です」
カズチは「ふふ」と笑う。
俺は彼女らの笑顔を見て、何故か頭を下げてしまう。
「……お願いします!」
それに対して、姉弟は揃って笑う。
「あぁ!こちらこそよろしく頼む!歩美さん!」
ナズマの返答を聞いて、俺は改めて決意した。
──この世界で、魂干渉で、生きていこうと。
続く




