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第五話


目が覚めた時、俺の目の前は真っ黒に染まっていた。

果てしない暗黒の地が広がっている。


「……ん?」


何故だろう──妙に既視感がある。

なんならつい数時間前に同じ景色を見た気がする。

そう、転生前のあの場所にそっくりだった。

俺は辺りを見渡して、息を深く吸い込む。


「……スゥ…………え、俺また死んだ?」


必死に俺はここまでの記憶を脳内から掘り起こす。

俺はまず、カズチ達の家に泊めてもらえることになり、その部屋のベッドに横になっていた。

その後ここに来ていた……なるほどとなると。

俺が納得した時。


「よぉ。激重野郎」


不意に背後から、荒々しい声が聞こえた。

俺は振り向く。

そこに居たのは、黒い服を着た男が立っていた。

以前はメイド服の女の子がいた気がしたが。

毎度毎度同じわけが無いか。


「……お前なんだ?」


「さぁ?俺に固有名詞はねぇよ。神とも悪魔とも好きに呼べよ」


黒い男は「ケヒヒ」と不気味に笑う。

パッと見悪魔にしか見えない。

よって俺の中でこいつは"悪魔"とする。


「んで、なんだよその"激重野郎"って」


「あ? んなもんお前に決まってんだろ」


「はぁ? 俺そこまで体重重くねぇぞ?」


「いや違ぇよお前じゃなくて"その女"だよ」


俺はこちらを指さしてくる男を見ながら首を傾げる。

そこの女……?

あ、あゆみさんか。

歩美さんの身体に慣れてしまったのか、全然違和感が無かった。

……歩美さんが激重だと?


「…………てめぇ歩美さんが激重だと?」


「おうそうだぜ。何てったってそいつぁ──」


「──女の子に対して重いは失礼だろぉが!」


「だからそこじゃねぇわ! その女の体重なんざ知るか!」


俺は黒い男と二人でよく分からないことでブチ切れあっている。

我ながら何に切れてるんだと呆れてしまったところで、本題に戻すために話題を変える。


「じゃあ。歩美さんが激重なのは何でなんだよ」


「あん? 逆になんでお前はあの女が激重じゃねぇって思うんだ?」


「……つうかお前どっかで聞いたことある声してんなって思ったら」


『汝──大いなる悔いを遺して消え去った友の意志──継ぐ気はあるか』


「……お前、あん時の……?」


「……ケヒッ。気づいたか」


黒い悪魔は嬉しそうに笑う。

転生時あのとき、俺の脳内に語りかけてきた声とほとんど同じだ。

だけど、こんな明らさまに悪い見た目のやつがあんなに改まった言葉遣いが出来るのか。

まぁそれはさておき。


「あ、ていうかお前さ! 歩美さんの体に転生させたのは何でだ! 歩美さんを何処にやりやがった!? まさか俺の体にぶち込んでる訳じゃねえだろうな!」


「あー。うるせぇうるせぇ。説明してやるから待て」


男はやれやれと言わんばかりにニヤニヤする。


「そもそも。お前のその体はなんだと思うよ?」


男が尋ねる。

俺は「はぁ?」と首を傾げる。


「そりゃあ。歩美さんの体だろ?」


「……ケヒッ。まぁ間違っちゃいねぇな……まぁでも正確に言うんなら……」


意味ありげな悪い笑みを浮かべる。

そしてその悪魔の口から放たれたのは。


「魂が消え去って、体だけになった……いわゆる抜け殻だな」


俺の脳内に、まるで心肺停止を伝える電子音の様なものが走った。

魂の……消え去った……体……?

言葉の意味を理解出来ない。

いや──"理解したくない"。

だってそれは……つまり。


「……歩美さんはもう……死んでる……?」


当たり前の出来事の筈なのに、膨大な絶望感が俺の精神を支配した。

俺はニタニタ笑う黒い男を睨んだ。


「……なんで俺みたいにしなかったんだ? どうして歩美さんだけ魂を抜き取りやがった!? もう体の在庫が無かったのか!? なんで、なんでっ……」


俺は泣きそうなのを堪えながら、震えた声で怒鳴る。

男はそれを見てクスクス笑う。


「まぁ、あの女は元々魂がぶっ壊れかけてたからな」


「……は?」


「理由は知らねぇが、あの女は。この場に送られた時から魂が不安定な状態だったからな。そのまま異世界に送り出しても、開始数分くらいでモンスターにぶち殺されてもおかしくねぇ」

男は欠伸を挟んで続ける。

「だから魂は天に送ってやったんだ。お前が入ってるそれはそいつの魂の入ってた抜け殻……良くいえば、あれだ。着ぐるみみてぇなもんだ」


ニヤケながらも、真面目に説明する黒い男。

俺はそれを聞くと、心臓が焼けるような感覚になり、思わず跪く。

魂──すなわち精神が不安定な状態。

確かに歩美さんは、生前、精神状態は良くなかった。

だけど、俺と付き合い始めてからは、素直な笑顔を見せてくれていてくれた。

それで少しでも、彼女は心に安らぎを取り戻したのかと思っていた。

だけど、そんな訳無かったか。

何故だか無性に悔しくなってしまう。

そんな人の気も知らないで、黒い男はケタケタと笑い続ける。


「だけどその女。結構未練あるみてぇなこと話しててな。同じタイミングで死んだ男に対して未練があるっつててな。で、探してたらお前に行き着いたって訳だ」


俺はそれを聞いて、無性に頭に血が登りそうになる。


「俺が許せねぇか?」


「……あぁ。許せねぇよ。第二の生をくれたことにはお礼を言わねぇといけねぇよ……だけど、お前のその態度と歩美さんへの態度は許せねぇ」


「……ケヒッ。そう来ねぇとな──んじゃ、来いよ」


男は妙に好戦的な態度を取ってくる。

俺は男の意図がよく分からなかった。


「許せねぇなら。俺を殺しに来いよ。お前の持つ能力ちからでな」


男は両手を広げながら挑発する。


続く。

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