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第三話


カズチ達に出会ってから、何事も無く森を抜けて開けた場所に出る。


「……おぉ」


俺は思わず感嘆の声を漏らす。

森を抜けた先にあったのは、広大な緑色の大地である。

遠くに大きな街が見えること以外は、何も無く果てしない緑が広がっていた。

日本でもあまり見られなそうな景色に、俺は胸を打たれる。

隣を歩いていたカズチがニコニコ笑う。


「初めて見ましたか?」


「は、はい。自分のいたところじゃあんまりこういう場所無くて……」


「それはそれは。気に入って貰えたのなら何よりです」


カズチは嬉しそうに微笑む。

そのまま彼女は向こうに見える大きな街を指差す。


「あれが私達の暮らす街──リスタリアです。もう少し歩きますけど、頑張りましょう」


彼女の励ましに俺は「はい」とだけ返答する。

何も無い緑の大地を歩きながら、俺は状況を改めて整頓する。

まず、俺と歩美さんは現実世界で事故に遭って死んでいる……で良いんだよな?

改めて考えても思い出したくないし考えたくない現実だった。

異世界転生自体をとても簡素に受け取ってしまったが、そんなに楽しくなれるようなことでは無い。

そして転生前に聞こえたあの言葉。

友の意志を継ぐ気はあるか。

これは恐らく、歩美さんの体に転生した理由だろう。

……にしても歩美さんの体に転生することが意志を継ぐこと……。

あまりにも物理的過ぎて笑えてきてしまう。

あと確認することと言ったら……。

ちょっと謎なことがある。

何で歩美さんはこの世界に来れなかったんだろう。

こんなに回りくどいことをしなくても、俺達二人を異世界に送れば良かったのでは無いのだろうか?

それが出来なかった理由でもあるのだろうか。

願うならば、歩美さんは実は死んでなくて今でも地球あのせかいで生きているって可能性を願いたい。

……それにしても。


「……喋りずれぇ……」


俺は小声で言う。

やはり女性の喋り方は慣れていないから敬語にならないといけないのがとても面倒くさい。

だからと言って、女の子の喋り方をするのは……。

なんかキモくないか?

別に俺口調だったり僕口調だったりする女の子は沢山いるし、逆に一人称が私のような女の子みたいな喋り方の男子もいる。

そしてそれを別に気持ち悪いとは思わない。

だけどそれは……その人の意志があるから良いのであって、俺の場合のこのケースだと、歩美さんが俺や僕を許容出来ない性格の場合意に反してるからダメだし……。


「うぐぎぎぁ……」


「ど、どうなさいましたか? 何か悩み事ですか?」


「あ、いや……自分のことなので、お気になさらず……」


俺が適当に流すと、ナズマが口を開く。


「それほど悩むことなら。自分達に話してくれても良いですよ! 口に出すだけでもかなり楽になれるらしいからな!」


それを聞いたカズチは一瞬目が点になるが、すぐに「ぷっ」と吹き出す。


「ナズマの言う通りですよ。まぁ、私達は貴方にとって見ず知らずの存在ですし、無理にとは言いませんよ」


微笑みかけてくるカズチとナズマを見て、俺はとても心が温まる。

現実世界にもここまで心の広い人はそうそういないぞ。

同時に心が痛くもなる。

なんと説明すれば良いのか分からないし、ここまで親切にされると、本当に申し訳なさが凄い。


「……ありがとうございます……だけど大丈夫です」


「そうですか。無理はなさらないでくださいね」


二人は俺に優しく微笑みかける。

異世界人の心の温かみを感じつつ、俺は二人に笑顔を返した。



しばらくすると。

俺はとても日本では拝謁することが出来ないであろう、大きな門の前に立っている。

本当におとぎ話やアニメでしか見たことが無いような、巨大で重厚な門。

両端に武装した守衛が立っている。


「すんげぇ……」


思わず素の声が出てしまう。

なんだろう、別に元のアニメがある訳では無いが、聖地巡礼をしているような雰囲気にもさせられる。


「……歩美さんにも見せてぇな」


まともなデートを数回しかしていないし、名所という名所にも行ったことが無い。

だからせっかくなら見せて上げたいと思ってしまう。

すると、カズチとナズマが二人で話している。


「姉上。アユミさんはどうなさいますか?」


「そうですね……宿屋に連れて行くというのも有りですが、恐らくお金も持ち合わせていないでしょうし……」


二人が揃って「うーん」と唸る。

確かに俺はこの世界の金銭は持っていない。

なんなら地球あちらの金銭も持っていない。

カズチがこちらを振り向いて笑顔になる。


「アユミさん。宜しければ、我々の家に参りますか?」


「……え?」


唐突の申し出に、俺は頭の中がハテナになっていた。



程なくして、彼女らの家に連れてって貰い、なんと部屋まで貸して貰えた。


「使ってないので好きに使ってください。埃っぽいのは諦めてください」


とのことだ。

本当にこれほどまでに心の広い人達がいたであろうか。

カズチとナズマで二人暮らしらしく、親は随分と昔に居なくなっているらしい。

俺は最低限の部屋の埃を払い、ベッドへとダイブする。

久しぶりの柔らかな感触に、心が休まる。


「……」


俺はベッドから立ち上がり部屋に備え付けられた鏡の前に立つ。

目の前に見えるのは、変わらず美人な歩美さんの顔だ。

思わずその顔に触れてみたくなり、手のひらを伸ばすが……触れられたのは冷たい鏡の面だけだった。

良く考えれば、もう俺は歩美さんに触れることは出来ないのだろうか。

もう彼女のことは、鏡越しでしか見ることが出来ないのだろうか。

俺は鏡の向こうに写る少女を見つめる。


「……思い出すな」


俺はあることを思い出していた。

──それは俺が、初めて彼女に出会った時の話。


続く

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