第十九話
俺はオリンジと別れ、小雨の振る街中をウロウロしている。
街には雨にも関わらず店を出している人や、はしゃぎ回ってずぶ濡れになっている子供達の姿と、逞しく微笑ましい人々が溢れている。
俺だったら絶対に雨の中外には出ないというのに。
「……しっかし、居ねぇな」
そんなにすぐに見つかるとは思ってなかったが、結構こういう類の悪さする奴って結構分かりやすいと思ってたが。
今回のは慎重派なのだろうか?
「……雨だから上にいる、みてぇなこたぁ無いか?」
俺は思わず空を見上げてみる。
当然薄暗い雨雲が広がっているだけで、何もおかしなものがある訳でも無い。
「うーん……てなるとどこなんだか」
俺は脳みそをフル回転させて、犯人のいる場所を考える。
犯人は雨を降らせている。
しかも街全体にだ。
この街自体が結構小規模らしいとは言えど、練度は高いと見るべきだ。
だけど、この街全体を雨雲で覆い尽くすには……逆にどうすれば出来る?
俺が仮に犯人だとして、それならどこで雨を降らす?
一番最初に思いつく場所は──。
「……高い場所?」
雨を正確に街に降らせたいなら、やっぱり俺なら街が見渡せる高い場所に行く。
あくまでも俺の場合だから、それすら必要としていない玄人だった場合はお手上げだ。
俺は辺りを見渡し、高い所を探し歩いた。
この街は結構小さめの建物が多い。
だからこそ、大きくて高い建物は目立つ筈だ。
しばらく探しながら歩き続け、目星をつけた場所に辿り着く。
俺は拳をゴリゴリと鳴らして、息を吐く。
「うっし。行くか」
「おや。歩美さん」
俺が乗り込もうと踏み出した時、隣でオリンジが歩いて来ていた。
どうやら彼もここだと思ったみたいだ。
「歩美さんもここだと?」
「まぁな。オリンジも?」
「えぇ。気が合いますね」
彼は微笑みながらそう言う。
俺も彼に釣られて笑うと、建物の中に入る。
中には人の気配がまるで無かった。
手入れもそこまでされていないし、ここは廃墟だろうか。
「……さて。恐らくこの上に犯人か、その人の魔力の残留があると私は推測致しますが……歩美さんはまともに戦闘をした経験は?」
「へ? プロトスとだから……一回?」
「そうですか。鍛錬を見ていた限り、全体的な体の脆弱性が気がかりですが。刀剣の扱い方はそこまで気にはなりません」
まるで試験前の先生の様な口調で、オリンジは言った。
「あとは貴方の気持ちと覚悟次第です。戦う覚悟は、ありますか?」
彼の発言が冷たく鋭い。
だが、本来"戦い"というものは、命の削り合いだ。
それに赴くかもしれない状態に、半端な気持ちや覚悟で挑むなということだろう。
俺はゴクリと唾を飲み込みつつも答える。
「……覚悟なんて、この世界に来てからずっと出来てる」
そう打ち明けると、オリンジは頷き建物の中へと入っていく。
俺はその後に続き、廃れ風化した建物の床を歩く。
ひび割れた階段を登り、雨に打たれた屋上にたどり着く。
そこに居たのは──。
「……え?」
自分の目と記憶を疑った。
いや"疑いたかった"。
俺達の存在に気付いて振り返ってきた元凶は、童顔にも思えないが若くも見える女性。
その目には光は見えず、俺と目を合わせている筈なのにどこにも合っていないような不思議な視線。
雨に打たれても全く動じない姿勢。
だけどその姿出で立ちは……あまりにも"似ている"。
昨夜、この街の銭湯で出会った──あの人に。
「…………ティアさん?」
俺が思い当たる名前を零すと、その人の虚ろな瞳が微かに動く。
そしてそれが、悲しみの色に変わった。
「……また会ったわね、歩美」
ティアさんはにこりと微笑んだ。
続く




