第十三話
「──貴方は何者ですか?」
なんて平凡な質問を投げ……え?
誰って……え?
「……ど、どういう?」
「いえ失礼。私の癖と言いますか。特異性がありまして」
オリンジはクスリと短く笑う。
「私は、突然変異なのかなんなのか分かりませんが。通常の人間の数十倍程の超五感を持っているのですよ」
「ご、五感? 視覚とか触覚みたいな?」
オリンジは頷く。
「だから。昔から、良くか悪くか人の嘘が分かるんですよ。だから趣味で探偵の真似事をしているんです」
「……なんで分かるんだ? 目線の違いとか?」
「それもありますが。一番は"音"です」
「音?」
俺は復唱する。
するとオリンジはメガネをクイッと動かしながら、自身の胸に手を当てる。
「人間は生きている内は、必ず鳴っている音がありますよね?」
「え?…………あ、まさか」
「そうです──心音です」
オリンジは当然のようにそう言う。
するとフフッと笑う。
「信じ難いのも無理はありませんよ……ではそうですね。簡単なゲームを致しましょうか」
彼はそう言うと、着ていた黒いコートの内ポケットから何かを取り出す。
それは複数枚重ねられたトランプみたいだ。
「な、何を?」
「今から貴方は、ジョーカーを一枚だけ入れて、何枚かのトランプの束を作ってください。そしてそれを私に見えないようにシャッフルしてください」
「……なるほど? それで、ジョーカーを当てるってことか?」
「そうです。ではどうぞ」
そう言ってオリンジはトランプを渡してきた。
俺は彼に背を向けてトランプを何枚か見てみる。
ジョーカーを一枚だけ取り出し、それ以外のカードを適当に混ぜてシャッフルする。
なんだろう? 何のつもりなのだろう。
いくらなんでも分かるわけないと思うが。
俺はシャッフルしたトランプを、オリンジに見えないように翳す。
オリンジは「ふむ」と口にする。
「なるほど。では……」
するとオリンジは俺の持つカードに、一つずつに手を添える。
ジョーカーのカードを指が通過していく。
「……さて。決めました──こちらですね?」
そう言ってオリンジが取ったカードは──。
「…………えぇっ!?」
たった一枚のジョーカーのカードだった。
相手の態度的に、当てずっぽうな訳でもない。
たまたまにしても……。
「……今のって、もしかして俺の心音?」
「そうですよ。ジョーカーの場所を通過した際に、微かに心音が変化した為、ここでは無いのかと思いました」
マジかあんた。
マジで言ってんの?
本当に俺の心音を読み取ってるってことなのか?
「さて。私の力の証明は出来たことでしょうし、本題に戻りましょうか」
「あ、あぁ。うん」
「貴方は先程名前を尋ねた際、少し心音に違和感を覚えましてね。だけど、今までとは違った心音の感じでしたから気になりましてね」
「違った心音? 心音になんか個人差とかあるんか?」
心臓の鼓動なんて全員対して変わらない気がするんだけど。
「いえ。そうでは無く。普通に嘘をついている人間の心音では無く、かと言って正直なことを言っている反応でも無かった……といったところでしょうか」
もう駄目だ、何を言っているのかさっぱり分からない。
オリンジはクスクスと笑う。
「理解出来ませんよね。私も同じく今理解が難しいです……質問を変えましょうか。貴方は、本当に『歩美さん』ですか?」
改めてオリンジが尋ねてくる。
本当にこの男に嘘が通じないんだとすると、ここで俺がYESと答えると、疑われてしまう。
それだと話が進まない。
……仕方ない。
「……あぁ。俺は歩美さんじゃねぇよ」
「……そうなのですね。では貴方は何者なんですか?」
「んーと……なんて言えば良いんだろうな。歩美さんなんだけど……歩美さんでは無いというか」
歩美さんの体に転生した男の子なんです。
なんて言えない。
だけど実際、それ以外になんと説明すればいいんだろう。
「……すみません。困らせてしまったようですね」
「あ、いや。わりぃ。ちょっとなんて言えば良いか迷ってただけだ」
「そうですか。まぁ、人にはそれぞれ秘密はあります。それならば深くは探りません」
オリンジはメガネをかけ直す。
こいつの超五感は本当なのかもしれない。
異世界には本当に頭のネジがどこか飛んでるやつしかいないのか?
趣味で探偵と言っているだけはあるのかもしれない。
「ところで、貴方達は"棺"を知っていますか?」
オリンジの問いかけに、俺はピクリと反応してしまう。
続く




