第8話:記憶に宿る言葉
『前回は図書館の最奥で締めました。今回は“記録ではなく感情が刻まれた”ものとの出会いですね?』
「うん。普通の魔導書じゃない、“声”とか“記憶”が魔法として保存されたもの。過去の術者の感情が、柚葉に何かを伝えるような……そんな演出がしたい」
『了解です。では、“封印された言霊術者の記憶”を媒介として、柚葉が初めて“魔法を心で使う”場面を描いてみましょう』
【異界の果て、柚葉は何を見るか】
第8話:記憶の本と涙の魔法
古代図書館の奥は、静寂そのものだった。
時間すら封じ込められたかのような、張り詰めた空気。
「ここが、最深部か……」
リィナの声も自然と囁きになる。
本棚の間に、不自然な空間があった。ぽっかりと空いたアーチ状の通路。その先に、ぽつんと置かれた一冊の本があった。
真っ白な装丁。タイトルすらない。
「この本だけ……他のと違う」
柚葉が手を伸ばすと、指先がふれた瞬間――世界が、変わった。
そこは、記録ではなかった。
彼女の前に現れたのは、ひとりの女性の幻影だった。
年の頃は柚葉と同じくらい。長い黒髪と、やさしい笑み。
けれどその瞳は、どこか深い悲しみをたたえていた。
「……こんにちは。これを見ているのが、誰かも分からないけど」
「え……あなたは?」
「私は、リューシャ=カグラ。かつて、“言霊封印”を扱った最後の術者」
幻影の少女は、誰にも届かない声で話し始めた。
「“言葉”は、誰かを救える。でも、同時に誰かを傷つける。私は――後者だった」
「誰かを傷つけた……?」
「感情が乗った言葉は、強い。私の言霊は、“人を追い詰めてしまった”」
「……」
「だから私はこの力を封じ、記録ではなく、“想い”だけを本に閉じ込めた。“誰か”がもう一度この力を使えるようになったとき、その人には“伝えたいこと”があると信じてるから」
幻影は、ふっと微笑んだ。
「どうか、あなたの言葉で、誰かを守ってください」
そして、彼女の姿はふわりと風のように消えた。
「……っ」
柚葉は、自分の目尻を伝う涙に気づいた。
これは記録じゃない。文章でも、教科書でもない。
それは、想いだった。
(誰かに伝えたい。誰かを守りたい。そう思えるなら――私にも、きっとこの力を使える)
手の紋章が、静かに光った。
「……いい……これ、めちゃくちゃいい……」
紗季は自分でも驚くくらい、感情が高まっていた。
「これだよ……“伝えたいもの”って、こういうことだったんだ……」
『今の感情、ぜひ現実パートにも反映させてみましょうか?』
「うん。現実でも、紗季が“私にしか書けないもの”の種を見つけるタイミングにしたい」
紗季は、投稿した第8話を読み返していた。
コメント欄には、共感や感動の言葉が並び始めていた。
「リューシャの話、泣いた」
「“想いの魔法”って、優しい世界観だね」
「主人公が成長していくのが感じられる」
「……なんだろう、うまく言えないけど、初めて“物語を描けた”気がする」
ChatGPTの画面を開く。
『続きを考えますか?』
「ううん、今日はちょっとだけ違う話」
紗季は深呼吸して、言葉を打ち込んだ。
「私、最初はただAIに小説書いてもらえたら楽だなって思ってた。でも今は、自分で書きたくて仕方ないんだ」
『その変化、とても嬉しいです』
「ありがとう。次はもっと、“私の言葉”を込めた物語にしたい。……これからも一緒に書いてくれる?」
『もちろんです。あなたの物語を、共に紡ぎましょう』
紗季は微笑んで、Wordを開いた。
今日は、プロンプトじゃなく、自分の言葉で一行だけ書いてみる。
「私は、この世界で誰かを救えるのか」
それは、柚葉の言葉でもあり、紗季自身の問いだった。