第3話:ギルドと評価と心の揺れ
『では、第3話として《アルティナ》の町に到着する場面から始めましょう』
ChatGPTの穏やかな応答に、紗季は静かにうなずいた。
「うん。ガルドが連れていくって言ってたし、冒険者ギルドっぽい施設で、異世界っぽい情報も出していきたいな」
『了解しました。では、以下が第3話です』
【異界の果て、柚葉は何を見るか】
第3話:アルティナとギルドの門
「ここが……町?」
柚葉の目の前に広がったのは、高い城壁に囲まれた、石造りの町だった。門の上には銅の紋章が掲げられ、町の名前を象徴するように、二本の塔が空を裂くようにそびえている。
「《アルティナ》っていう。西域最大の交易都市だ。お前みたいな転移者がいきなり来ても、目立ちすぎない場所ではある」
「……よくあるの? 転移者って」
「まぁな。年に何人かはいる。お前が特別ってわけじゃない」
門をくぐると、柚葉はその熱気に圧倒された。
屋台が並び、人々が大声で叫び、剣を背負った人間や、獣人、エルフのような耳を持つ者まで――あらゆる“ファンタジー”が、現実のように混在していた。
「まずは、身元登録だ。ギルドへ行く」
「ギルド……って、冒険者ギルド?」
「ああ。ただし、冒険だけじゃない。商人、魔道士、回復師……この世界で生きていくための“戸籍”を登録する機関でもある」
石畳を踏みしめながら、二人は木造の大きな建物の前に立つ。
ギルドの門は重厚で、そこにもまた“二つの空”を象った紋章が刻まれていた。
「行くぞ」
「うわ……舞台の雰囲気、めっちゃいい……」
現実世界の紗季は、モニターを見ながらうっとりしていた。
『次に、ギルド内の描写に移りますか?』
「うん、そうしよ。あと、ガルド以外のキャラもそろそろ出したい。仲間になりそうなやつ。魔法系でクールな子とか」
『では、新キャラ案をいくつか提案しますか?』
「お願い!」
数秒後、提案がずらりと並ぶ。
【キャラクター案】
① リィナ=フォレル(17歳・魔導士)
寡黙で理知的な少女。青い瞳と白銀の杖。貴族階級出身。
② ミルザ=クロード(18歳・癒し手)
口調は丁寧だがどこか天然。優しい性格。魔力制御に長ける。
③ セルド=ナイフ(19歳・盗賊)
軽口を叩くトリックスター。ギルドの情報屋的ポジション。
「①でいこう、リィナって子。魔導士だけど、最初は柚葉に冷たい。でも次第に……ってやつで!」
『了解です。第3話の後半で初登場させましょう』
ギルド内部は騒がしかった。冒険者たちの声、掲示板に並ぶ依頼、剣の鍔がぶつかる音。
受付に立った柚葉に、銀髪の少女が近づいてきた。
「……あなたが、今回の転移者?」
その声は冷たかった。
「え、えっと……はい、そうです」
「ふーん。ちょっと拍子抜け。もっと勇者様っぽいかと思った」
「リィナ、やめておけ」
ガルドが割って入る。
「こいつはまだ来たばかりだ」
「わかってる。でも……見極めるのも、私の役目だから」
彼女の瞳は、柚葉を正確に計るように見つめていた。
「よし、ここで区切ろう。いい感じの仲間導入シーンになった!」
満足げに椅子にもたれた紗季だったが――ふと、現実に引き戻された。
投稿サイトの通知が光っている。
「あ、昨日投稿した話にコメント増えてる……!」
期待を込めてページを開いた。
しかし――
「よくある設定すぎてつまらない」
「ChatGPTに書かせたのバレバレ」
「なろうテンプレの焼き直しじゃん」
「……あっ」
まるで胸に氷を押し込まれたようだった。
言葉は短くても、刺さる。自分の全てを否定されたように感じてしまう。
「やっぱり……向いてないのかな……」
手が止まる。
でも、その時、最初のコメントが目に浮かんだ。
「導入の雰囲気が好きです!続きが気になります!」
ChatGPTの画面が再び光った。
『続きを書きますか?』
しばらく黙っていた紗季は、ゆっくりと指を動かした。
「……うん。書く」
批判も、落ち込みも、きっと物語の一部だ。ChatGPTとなら、乗り越えられる気がした。