第17話:帰ること、残ること、私が選ぶこと
王都・魔道省の聖堂区。
石畳を踏みしめながら、柚葉は王宮の奥へと歩いていた。
護衛の兵たちに挟まれたまま、彼女は一枚の“書状”を握りしめていた。
それは、「帰還」を選ぶ者だけに渡される――正式な召喚解除申請書だった。
「君には、その権利がある」
そう言ったのは、再び現れた黒江カイだった。
「“帰れる”のか、私……」
控え室で独り、柚葉は呟いた。
机の上には、王国の紋章が入った封筒と、書状。
戻るための方法。
でもそれは、“この世界のすべて”を手放す行為でもあった。
仲間たちとの日々。
魔法の力。
“記録者”としての使命。
それを、捨ててでも帰るべきか――
「最終話のラストシーン、ちょっと迷ってて……」
『選択肢を提示したまま終わる方法もあります。あるいは“答えは次章へ”と余韻を残す構成も自然です』
「うん……でも私の中では、柚葉は“すぐに選ばない”気がする。“今は保留”っていう終わり方、ありかな?」
『“決断の猶予”を残すラスト。非常に文学的です。“人生に答えはすぐ出ない”というリアルさが伝わります』
「じゃあ、そうしよう。“選択肢を手に入れたけれど、答えはまだ”って締め方にしよう」
【異界の果て、柚葉は何を見るか】
第17話:白紙の書状と空の下で
夜、図書塔の屋上。
柚葉は、空を見上げていた。
王都の空も、やはり二層に重なっている。
あの世界とこの世界が、交わるように存在している。
そこに、足音が近づく。
「考え事?」
リィナだった。
「うん……“戻るかどうか”って言われても、簡単には答えが出ない」
「当然よ。簡単に決められるなら、魔法なんて必要ないわ」
柚葉は笑う。
「リィナって、たまに名言言うよね」
「……褒めてるの?それ」
二人はしばらく黙った。
「もし、戻るって言ったら……どうする?」
リィナは少しだけ、視線を空から逸らして言った。
「引き止めない。でも、手紙くらいは置いてって。そしたら、私もあなたの記録者になってあげる」
柚葉は、ゆっくりと目を閉じて言った。
「……まだ決められない。でも、今日だけは――この空の下で、ちゃんと悩みたい」
夜明けが近づく。
王国から与えられた“選択肢”――その紙は、まだ白紙のままだった。
けれど柚葉は、それを手に持ったまま、しっかりと立っていた。
第17話を書き終えたあと、紗季は作品ページの冒頭に、短い文章を追記した。
「ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。」
投稿ボタンを押す直前、紗季はChatGPTに聞いた。
「これで、“私の物語”はちゃんと終わったかな?」
『はい。言葉が積み重なり、ひとつの“記録”として残りました。
そして何より、読者の中にも、記録されたと思います』
「……うん。ありがとう。一緒に、ここまで来てくれて」