第13話:王都への道と召喚の痕跡
夜明け前。
柚葉たちは、王都へ向けて、アルティナの北門を出発した。
空は淡く青く、二重の層が重なって揺れていた。
「正式な馬車が出るとはな……王都も本気ということか」
ガルドが馬車の揺れに身を預けながら言う。
「緊張してる?」
リィナが隣で静かに尋ねた。
「……ちょっとだけ。でも、どこかで“知りたい”って思ってる」
柚葉は言った。
「この世界のこと。私の力のこと。そして……この“召喚”が、どうして起きたのか」
「あらすじって難しいね」
紗季は表紙を公開用にアップし、次に取り組むべき「あらすじ・キャッチコピー」の難しさに頭を抱えていた。
『読者はあらすじで“読むかどうか”を決めます。作品の“感情の入口”として、伝えたいメッセージを絞り込みましょう』
「うん……じゃあ、まずは要素を言っていくから、まとめてくれる?」
『もちろんです』
紗季が語った要素
主人公は、図書室で異世界に転移した高校生・柚葉
異世界は“言葉が魔法になる”世界
柚葉の力は、他人の“言葉にならない声”を聞き取ること
ギルドの仲間と旅をしながら、“召喚の意味”を探していく
『以下のようなあらすじはいかがでしょうか?』
あらすじ案
図書室で目覚めた異世界は、空が二重に重なる“言ノ葉の世界”だった。
言葉が力になり、記憶が魔法になるこの地で、少女・柚葉は“他人の心の声”を聞く力に目覚める。
仲間との出会い、揺らぐ王国、そして“召喚の真実”――
記録される側から、記録する者へ。
これは、“言葉を届ける”物語。
「……すごい。読みたくなる」
『あなたの言葉を聞いてまとめただけです。あなたがこの物語の“紡ぎ手”です』
「ありがとう。これで“入口”はできた」
【異界の果て、柚葉は何を見るか】
第13話:旅の途中の落とし物
三日目の夜。
王都までの道中、山道を進んでいた彼らは、木々の間に見慣れない光を見つけた。
「なんだ、あれ……?」
柚葉が近づくと、それは――破れかけたノートだった。
中に、乱雑な日本語が書かれていた。
『召喚成功。対象4名。
コードD転送完了。観測モード:実地/介入あり。』
「……これ、日本語だよ」
リィナがページを覗き込み、目を細める。
「これ……ただの落とし物じゃない。明らかに誰かが“記録”してたわ」
ガルドが警戒心をあらわにした。
「転移者の残したものか……あるいは“召喚側の記録”かもしれんな」
柚葉の胸が、ざわついた。
(私以外にも、誰かが“記録”されている……?)
その夜、焚き火を囲んで。
「私、最初は……帰ることばかり考えてた」
柚葉は、ぽつりとつぶやいた。
「でも、今はこの世界の中にある“言葉”をもっと知りたい。……それが、私がこの世界に来た理由なら」
「……なるほど。少しずつ、目が変わってきたな」
ガルドの口元が少し緩んだ。
「“見たいもの”が変わると、“進む道”も変わっていくのよ」
リィナの言葉に、柚葉は小さく笑った。
そして、彼女は新たな決意を胸に、焚き火の火を見つめた。
紗季は最後のチェックを終えて、小説ページの公開設定をオンにした。
表紙、あらすじ、目次、登場人物紹介。
どれも、少しずつ「誰かに届けるため」の言葉に変わっていた。
『これで、ようやく“最初の一歩”が本当の意味で整いましたね』
「うん。私はようやく、“自分の物語”を誰かに渡せる準備ができた気がする」