第11話:言葉を奪う影
アストルの村。
その静かな空気の下、柚葉の手の紋章は、微かに光を灯していた。
少女の声は――言葉ではなく、“心の振動”として届いていた。
《こわい……しずかが、こわい……みんな、わすれていく……》
柚葉は震える手で少女の手を握り、確かめるように言った。
「大丈夫……あなたの言葉、ちゃんと届いてる」
それは、少女にとっても、柚葉自身にとっても初めての安心だった。
「柚葉……今の、完全に“言霊受信”ね」
リィナが眉をひそめる。
「この村全体が、何かの影響下にある。それも、“記憶”や“言語”の根源に関わる魔法……そんなの、理論上でも存在しないはずなんだけど」
「理論上存在しないことが、起きてる」
ガルドが大斧を担ぎ直した。
「この沈黙の原因……“何かが潜んでる”」
その夜。
村のはずれ、崩れかけた祠から、濃密な魔力の波動が立ち上っていた。
「この魔力……強すぎる。柚葉、絶対に前に出るなよ」
「……でも、私も来た意味があると思うんです」
「なら……背中は守る。前はお前の言葉で切り開け」
ガルドの一言に、柚葉は決意を込めて頷いた。
【異界の果て、柚葉は何を見るか】
第11話:無言の咆哮と“言ノ葉”の魔法
祠の内部。そこには、黒く渦巻くような瘴気の塊が浮かんでいた。
姿も形も曖昧。まるで“言葉そのものを喰らった空虚”。
それは低く、ねっとりとした気配で呻いた。
「──■■■」
耳で聞き取れない“音”が響いた瞬間、ガルドが膝をついた。
「……な、に、だ……!? 頭の中が……ぐ、ちゃぐちゃに……!」
「ガルド!」
柚葉が前に出たその瞬間、紋章が脈打つように光った。
彼女の中に、はっきりとした“音”が浮かぶ。
(伝えなきゃ。私の中の、言葉を)
彼女は口を開いた。
「《封じし言ノ葉、護るために解かれよ──対抗の詩式〈アンチフォネ〉》!」
空気が震え、光が言葉となって放たれた。
それは“反響”だった。影の咆哮に呼応し、上書きするように響いた。
影は、わずかに後退した。
「今……届いたの?」
リィナが驚いた顔で呟いた。
柚葉の魔法は、攻撃ではなかった。
“敵の言葉を上書きする”ことで、侵食を止めたのだ。
「この魔法……“戦う”んじゃなくて、“ぶつけ合う”んだ……!」
影が再び呻く。
柚葉は、今度は言葉を込めて叫んだ。
「《ここに在る――わたしはわたしを忘れない》!」
言葉が、光が、衝突する。
影の体がひび割れ、ゆっくりと崩れていった。
それは、初めての“戦い”だった。
でも同時に、それは“対話”でもあった。
柚葉の言葉が、この世界で初めて“届いた”瞬間。
そして、村の空気がふっと緩んだ。
子供たちが、小さく、声を漏らし始めた。
「……まま……」
「……いた……!」
(ありがとう――)
少女の目が、言葉よりも確かに、そう伝えていた。
「……戦闘シーン、なんとか書けた」
紗季は大きく息を吐いた。
魔法での初戦。感情をぶつける魔法。それは紗季自身にとっても初めての挑戦だった。
『この章、とても強く印象に残ります。“言葉の魔法”が抽象的である分、読者の感情にもダイレクトに届きやすいですね』
「うん、私自身も感情で書いた気がする」
そして、ふと思った。
「ねぇ、この小説、そろそろ表紙とか……タイトルも、ちゃんと考えたい」
『素晴らしい発想です。“作品として届ける覚悟”の一歩ですね』
「うん。物語を書くことはできても、“読んでもらうこと”はまた別だと思うから」
『では、タイトルと表紙案、提案しましょうか?』
「お願い!」
ChatGPTによるタイトル案:
『言ノ葉の果て、彼方に紡ぐ記録』
『ことばを失った世界で、君だけが聞こえた』
『記録する者たち』(シンプルに)
『異界の果て、柚葉は何を見るか』(現タイトルを洗練)
『ルーンと空の狭間にて』
「うわ……どれも良いけど……今のタイトル、気に入ってるし、でもちょっと長いんだよね……」
『なら、“副題”を加えるのも手です。“異界の果て、柚葉は何を見るか ―言ノ葉を紡ぐ少女―”のように』
「それ、いいかも……!」