やがて失われる世界
やがて失われる世界の海辺に座り、やがて失われる世界の海に映える黄金色の夕暮れを見ている。何億もの光が絶え間なく海に降り注ぎ無限に反射する様は永遠を思わせて美しく、目に映るすべてのものがまた新たに生まれ変わり等しく祝福を与えられたような、そんな心持ちにさせてくれるが、この世界がやがて失われることはやはり変わることはない。
このやがて失われる世界において、不変のものはただひとつ、変化だけだ。変わり続けること、これだけは何が起きても変わることはない。世界は変わり続ける。その有り様を、その在り方を、絶え間なく変化させ、命を紡ぎ、繋いでいく。
大いなる変遷のなかで音もなく消えていく名もなき命もまた、世界を形作り、決定づけていく、変化を構成する重要な要素のひとつである。意味なくして生まれる命などひとつもなく、意味なくして失われる命などひとつもない。誰に顧みられることもない野の花のあろうと、その生涯には大きな意味がある。
私もまた、野に咲く花のひとつである。何を為したわけでもなく、何を為そうとしているわけでもない。ただこのやがて失われる世界の海辺に座り、やがて失われる世界の海に映える黄金色の夕暮れを見ている。やがて失われる世界は、その哀しき宿命にもかかわらず、壮大であり、荘厳であり、壮麗である。終幕を前にしても微動だにしないこの世界のなんという美しさよ、畏怖すら覚えるほどに、堂々と、そして粛々と、変わらぬ日常を明日に向かって繋げようというのか。永遠を信じて脈動を続けるのか。
だがそれでも、この世界がやがて失われることに変わりはない。風は止み、山は崩れ、海は干上がり、太陽は消滅する。鳥たちは歌うことをやめ、星々は瞬くことをやめる。この目に映る景色のすべてが意味を喪失する日がやがて訪れる。
すべては無から生まれ、無へと還る。このやがて失われる世界もまた、元の場所へと還っていくだけのことだ。悲しむようなことではない。嘆くようなことではない。だがなぜだろう、私の頬を熱いものが駆け下りていく。それは命の拍動を告げる血潮のように熱く、私の心を焦がしていく。
熱くにじむ世界の壮麗さが耐えがたく私の胸に迫る。物言わぬはずの自然がなんと雄弁に語ることだろう。彼らは輝かしい命を振り絞り、瞬間を燃焼させているではないか。
限りある命を惜しみなく使ってみせるのは何のためだろう? 彼らはその生涯において私たちに何を示し、何を残したいのか。その大いなる謎はいまだ解明の糸口さえつかめていない。この世界が失われる前に、私たちはその真相の一端にでも触れることができるだろうか。
やがて失われる世界を構成する要素のひとつである私は、やがて失われる世界の海辺に座り、やがて失われる世界の海に映える黄金色の夕暮れを見ている。
世界はどこまでも雄渾であり、美しい。
有り余る黄金の輝きに包まれて、私は心の底よりそう思う。




