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通夜
電話口から聞こえた、委員長の静かな声色とは対比的だった美術室の賑やかさを思い出しながらベンチに座り込む。
スリープさせたスマホ画面は黒い液晶が広がるばかりだった。反射して映り込む自分の顔になんとなく後ろめたさを感じてポケットにしまい、代わりにカイロを取り出す。
無機質な温かさに少しずつ手の強張りが解れていくのを感じた。背凭れに寄り掛かればやはりまた、幾ばくかの余裕が戻ってきた。
汚れたハンカチはどうしようか。元より捨てようと思っていたものには違いないが、持って帰るのはやはり、少し躊躇いがある。いっそのこと、持って帰らずに落ち葉にでも混ぜて学校の焼却炉に任せてしまおうか。
落ち葉掃きでたんまりと出来上がった落ち葉の山が裏庭の奥、焼却炉に運ばれているのを思い出す。ハンカチ一枚程度、混ぜることは造作もないだろう。帰る前に寄っていこう。
先の算段を立てて、空を見上げる。先週の金曜日に似た快晴だった。
探せどももうあと鮮やかな黄色は何処にもない。視界を覆う霞みは、もはや感じることもできなかった。