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童話

リンゴとオコジョ

作者: 六福亭

 彼の名前はゆきと言う。名付けたのは、その山に通い詰める写真家だ。冬、雪が高く積もるのに合わせて、ゆきの全身が真っ白になる。尻尾の先だけは黒いけれど、ひとたび雪の中に隠れてしまえば、なかなか見つけられない。だから、冬にゆきの写真を撮るのは至難の業だ。

 ゆきにはお気に入りのスポットがある。登山客から「熊岩」と呼ばれる、変わった形の岩だ(遠くから見ると、まるで本物の熊がうずくまっているかのようだ)。そこでずっと張っていれば、ゆきは時たま姿を現す。そこで写真家は、ゆきがネズミを捕まえているところや、岩の上でじっと物思いにふけっている(らしい)ところをカメラに収める。

 ある時、ほんの悪戯心から、写真家はそこにリンゴを1つ置いた。そして、いつもの通り、雪の中で寒さに震えながらゆきを待った。

 一面白い景色の中で、真っ赤なリンゴはよく映えた。リンゴのそばに真っ白なふわふわのオコジョがきょとんと立っているのを写真に撮れば、素敵だろうなと思った。

 何時間も経ってから、ゆきはようやくやってきた。けれど、リンゴに気がついた瞬間、ゆきはさっと姿を消した。そして、もうそれっきり、その日は戻ってこなかった。

 写真家はがっかりして、もう帰ることにした。


 翌朝、ゆきはまた、お気に入りの岩にきた。おそるおそる岩の上を窺うと、真っ赤なリンゴはまだそこにあった。ゆきは慌てて後ずさりする。そして、丸くて赤いものをじっくりと観察した。

 ゆきはそれを、夕暮れ時の太陽だと思った。ゆっくりと、最後の暖かさを引き連れて西へ沈んでゆくもの。けれどなぜ、自分の縄張りの中に落ちているのかなあ。

 太陽は、たいへんに温かい。そして時には、ぎらぎらと熱くゆきの毛皮を照りつける、おそろしいもの。きっとゆきが直に触ったら、大火傷をしてしまう。そう思って、どうしてもそばに寄れなかった。

 けれど、ゆきが威嚇しても。太陽はそこから動かない。雪が降ってきた。雪は太陽の上にも降り積もる。

 ゆきはとうとう、大胆にもその「太陽」を前足でつついてみた。冷たい。鼻を近づけると、木のような匂いがした。ゆきは思いきって、それを少しかじった。噛むと、シャリシャリとした食感と共に、甘みが口に広がった。とってもおいしい。ゆきは何だかおかしくなった。

 __あっはっは。太陽って、こんなにおいしいんだ。

 ゆきはもっとリンゴをかじり、残った部分をくわえて巣に戻った。そして、あの写真家が全く知らないところで、オコジョの友達にこう自慢して回っているらしい。

 __ぼくは、太陽を食べたことがあるんだぞ。太陽って、冷たくて甘いんだぞ。


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― 新着の感想 ―
太陽を食べたとなれば、凄い自慢になりますよね(笑) とってもかわいいお話をありがとうございました。
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