第6話 茶髪と亜麻髪の美少女
「――うへ,何その状況……」
常盤さんと生徒会室で別れて僕は翔琉と青葉さん,結衣ちゃんの3人を連れて校内と部活動の案内をしながら先程の話を聞いていた。
「信じられないかもしれないけどこれが誠央学園の今の真実よ。――誠央学園というよりも1年生の状況だけど」
青葉さんも呆れながら言った。
前々から誠央学園には黒い噂があるとLICENSE協会内でも囁かれていたが,本当に魔境であったようだ。
そして,今回入学した1年生達がその爆弾に火を点けてしまったらしい。
「元々は美陽が備品倉庫で裏口入学の資料を見付けたことが発端なんだけどな。楓さんに相談して色々と探したら他にも出てくるわ出てくるわ」
理事会や後援会,学園の卒業生達で作られた星央会や教職員達への賄賂,それに伴う成績の改竄や学生達が起こした事件の隠蔽,学園に関わりのある企業の法外な値段による悪質な取引,まさに魔境と呼ぶのに相応しい状況であった。
「でも,そんなこと僕に話してよかったの?」
「だって,神条君なら私達が教えなくても勝手に調べちゃうでしょう?」
「そうだよねぇ。お兄ちゃん達とも知り合いなら直ぐに分かっちゃうだろうし」
――僕の立場と事情を中学の時から知っている二人。
義妹だけでなく彼女達にも受け入れられたことで何度救われたことだろうか。
「しかし,二人がLICENSEのことを知っているとは思わなかったぞ」
翔琉に言われて二人は肩をすくめた。
この二人は義妹から僕の事情を色々と聞いているだけでなく大切な人がLICENSEに関わっているのだ。
――特に青葉さんは……。
「でも,今回のトラブルは男の子達の方だったからよかったね」
「よくないわよ!あんなの女の敵でしょう!!――まあ,あいつ等よりもあの子達が何もしないだけマシと思った方がいいわね」
二人とのやり取りを聞いて僕と翔琉は肩をすくめた。
話を聞いた時はトラブルの対応に向かった義妹が心配になったが,大丈夫だろう。
それに――あの子に何かあると親衛隊だけじゃなくて社交部も黙っていない。
「ところで,色々と案内したけど次は何処へ行こう……あれ?」
「どうしたの,神条君?」
話していると目の前に人だかりが出来ていることに気付いた。
あの教室は確か……。
「何か誠央学園の学生達が固まっていないか?」
「そうだねぇ。何の部活なんだろう?」
気になったのか,翔琉と結衣は集まっている学生達が外から教室を眺めている光景を同じように見た。
「……ゲームか?」
「そうみたい――って,この学園ってゲーム機持ってきていいの!?」
「持ってきても大丈夫だよ。あと,法律でバイクや車の免許を取れる年齢が引き下げられたでしょう?遠くから来る人はバイクや車で通学しているよ」
「この学園って本当に何でもありだよな」
「そうだね。それにしても,何でこんなに男子生徒だけ集まって――あ!?」
理由が分かってしまった。
集まっていた生徒達,男子生徒達はゲームに夢中になっているのではなくゲームで遊んでいる女の子に釘付けになっていたのだ。
誠央学園の制服を着た薄い茶髪の髪をポニーテールにした女の子。
カーディガンを腰に巻き,部活の学生達と楽しそうに遊んでいた。
「よっし!これで全勝!!」
「また,負けたぁぁぁ!それにしても,君本当に強いねぇ」
「にひひ,まあねぇ」
屈託のない笑みに明るそうな性格は人懐っこさが伺える。
教室の外で見ていた誠央学園の男子生徒達もだが,教室の中で彼女と一緒にゲームをしていた星稜学園の男子生徒達も彼女から目が離せずにいた。
「あれって,新井じゃないか?」
「翔琉って彼女の知り合いなの?」
「いや,ちょっとした有名人――というか,悪い意味で何だが……」
彼女の顔を見ると何故か哀れんだ顔をしていた。
「さっき説明したトラブルを起こしていた子達がいるでしょう?あの子ってその子達と何かしらの繋がりがあるのよね」
「そうなの?」
「あくまで噂だよ。ただ,仲が良さそうな雰囲気ではなかったかな」
本人は特に問題はないが,トラブルを起こす子達に関わると碌でもないことに巻き込まれるのは目に見えているので皆は関わるのを控えているそうだ。
可哀そうに見えるが,本人も特に気にしておらず,一定数彼女と仲良くする子達もいるので先生達もそれほど問題視にはしてないらしい。
「ただ,物凄く可愛いだろう?誠央学園の女子では珍しく男子達と普通に接してくれるから……って,遙人?」
「お邪魔しまーす!」
「んん?おお,神条君じゃないか!いらっしゃい!」
2年生の先輩が僕の姿を見ると近付いて来た。
「部活見学に誠央学園のクラスメイト達を連れて来たんですが――あの子は?」
「あ~,ちょっと待ってね。部長~,神条君が来ましたよ~」
奥の方で作業をしていたのか,部長と呼ばれた背の低い女の子が僕の姿を見るとトコトコと可愛らしく走って来た。
「おいおい,誰だあの子!?」
「あんな子,星稜学園にいたのか!?」
教室の外にいた男子達は僕の前に走って来た女の子を見て騒ぎ出していた。
亜麻色に近いセミロングの髪に少し三つ編みを入れた可愛らしい女の子は背が低いこともあり僕を上目遣いで見ていた。
「えと……ハル君,いらっしゃい」
「ごめんね,急に呼んじゃって」
そう言って彼女の頭を撫でるとくすぐったそうにしていたが,嫌がる素振りを見せずに目を細めて嬉しそうにしていた。
「遙人君,遙人君!その可愛い子って誰ぇ!?お友達なの!?」
結衣ちゃんが目を輝かして見ている中,一緒にいた二人も僕との関係が気になっていた。
「ああ,紹介するね。義妹の友達の椎名灯里さん。1年生だけどここシステム開発部の部長を務めているんだよ」
「へぇ~,椎名灯里さんかぁ……ん?椎名?」
聞いたことのある名前に3人が顔を見合わせると僕は苦笑した。
「しおりん先生の妹さんだよ。灯里ちゃん,紹介してもいいかな?」
「う,うん」
僕が翔琉達を紹介すると彼女も3人におどおどしながら自己紹介をした。
すると,我慢の限界だったのか,結衣ちゃんが急に彼女に抱き着いた。
「遙人君!この子,お持ち帰りしていいかな!?」
「ふえっ?ふえぇぇぇ!?」
「あはは,灯里ちゃんが困っているから駄目だよ。それから,人見知りだから急なスキンシップは出来るだけ控えてね」
「は~い」
渋々,了承した結衣ちゃんであったが,やはり灯里ちゃんのことが気になるのか,青葉さんの監視の下,彼女も含めて一緒に談笑を始めてしまった。
最初は二人のことを見ておどおどしていたが,義妹の友人だと話すとそれ以降は少し遠慮しながら楽しく3人は談笑をしていた。
「しかし,あれは美陽のドストライクだな」
「えっ!?常盤さんって女の子が好きなの!?」
「いや,そっち系の意味じゃなくてだな」
僕も一時期,女性恐怖症であったから薔薇なのかと疑われたことがあり,常盤さんは男性恐怖症であるからまさか百合なのかと思ったが,どうやら違うらしい。
女の子――というよりも,可愛い物が全般的に好きであるようだ。
可愛いものかぁ……僕の昔の写真を見せたらどういう反応をするか少し気になってしまったが,まだ親しい仲でもないのでこちらから教えなくてもいいだろう。
「あれ,桐原君じゃん。ちゃお~」
部活の人達とゲームで遊んでいた女の子がこちらに気付いたようだ。
「おっす,新井。お前一人で歩いていて大丈夫なのか?」
「にゃはは,あの子達もこっち来て早々に何かしてこないでしょう?……男子達は早速何かしたみたいだけど。ところで,そっちの男の子は?」
興味津々に僕のことを見られた。
「星稜学園1年生の神条遙人です。はじめまして,新井さん」
お互いに握手を交わすと僕達は可笑しかったのか笑みを浮かべたのだった。
「新井杏子だよ~。あと,その呼び方はあんまり好きじゃないかなぁ。普通に杏子でもいいし,好きに呼んでくれていいから~」
「じゃあ,杏子だからアンちゃんで」
「おけまる~。んじゃよろしく~,はるるん!」
自己紹介を終えると彼女はゲーム機を置いて立ち上がった。
「ところで,何で新井はこんな所にいるんだ?」
「桐原君,その言い方は失礼じゃない~?まあ,外をウロウロしていてあの子達と鉢合わせしたら碌なことならないじゃん?」
「まあ,言いたいことは分かるが……。ところで,この部活って何部なんだ?」
「さっきも言ったけどシステム開発部だよ」
僕の言った言葉に目が点になっていた。
まあ,初めて聞いた人は何処の企業の部署?と思うだろう。
「この学園って変わった名前の部活が多いからね。エジソン部とか探偵同好会とか変な名前の部活や同好会が結構あるよ?」
「驚きはするが,何か面白そうだな。遙人は何処かの部活に入ってるのか?」
「まあ,滅多に顔を出さないけど一応入ってはいるよ?」
言い難そうにしている僕を見て二人は興味津々な目をしていた。
「そういえば,神条君も風紀委員会じゃないの?」
「私もあの子がいるなら一緒だと思ったなぁ。違う部活なの?」
灯里ちゃんとの話が終わったのか,青葉さん達もこちらの話に入って来た。
「えと,ハル君は料理部に所属しているよ?」
「「料理部!?」」
灯里ちゃんがボソッと言ったことにクラスメイトの3人に驚かれてしまった。
まあ,これには深い理由があるんだよね。
そう思いつつ僕は今の状況――僕の居候先になっているアルバイトのことを教えると何故か青葉さんと結衣ちゃんに興味津々な目をされるのだった。