第5話 星稜学園の異端児
「は~い,それじゃお昼からはさっき言った通り部活動の見学ね~」
お昼休みが終わり,午後から誠央学園の生徒達は星稜学園の各部活動の自由見学となっていた。
逆に星稜学園の生徒達は部活動の紹介に回る人と誠央学園の生徒達を案内する人に分かれることになったのだが……。
「――チクショウ!!何で遙人ばかり……」
「そんなこと言われてもね」
トミーを筆頭に教室の男子生徒達に羨ましそうに睨まれてしまったが,こればかりはどうしようもない状況なのだ。
「申し訳ありません,神条君。無理を言ってしまって」
「気にしないで。これは会長が悪いから」
申し訳なさそうにする常盤さんの後ろでは僕が案内するはずだった青葉さんと結衣ちゃんが苦笑していた。
「みはるんも連れて一緒に来てくれって急だね」
「会長も常盤さんと接点ができたと思ってなかったんだと思うよ?それに,トミーは部活紹介の方に回るからどちらにせよ案内はできないんじゃなかった?」
「そうだけどよ!!美少女3人に囲まれるってズル過ぎるだろう!!」
「「うんうん」」
男子生徒達は同じように頷いた。
君達って本当にこういう時は団結力あるよね?
「なあ,遙人。呼ばれているなら急いだほうがよくないか?」
「そうだね。それじゃ,僕達はそろそろ行くね」
「皆さん,申し訳ありません。また,お時間がある時にでも別の場所の案内をよろしくお願いしますね」
申し訳なさそうに頭を下げる常盤さん達を連れて教室から出ると教室の中からは『リア充爆破しろ!』と盛大に男子達から罵倒されてしまった。
「遙人君って人気者だね」
「結衣ちゃん,あれが人気者に見える?……あと,翔琉は笑いすぎだよ?」
「いや,やっぱりお前って見てて面白いわ」
バシバシっと肩を思いっきり叩かれてしまった。
翔琉って本当に何でも愉快に笑うなと思いつつ,彼の御蔭で憂鬱な気持ちはあまりならなくて済みそうだった。
「そういえば,星稜学園こっちの生徒会メンバーには会ったことがないんだよね?」
「今日が顔合わせと聞いていたので。どういった方がいらっしゃるのですか?」
「う~ん,正直に言うとパッとしないっていうのが本音かな」
――僕が生徒会に勧誘され続けている理由が実はこれであったりする。
先代会長,現会長は有能を通り過ぎて最早異端児であったのだ。
先代会長も現会長の時も同期の3人だけで生徒会を回していたという。
「でも,一般的な生徒会メンバーならそれで十分じゃない?」
「私もそう思う。誠央学園の生徒会は事情があったから多かったけどね」
「う~ん,本来はそうでもないんだよね」
先代と現在の時は人数が少ないが,実際は全学園が揃う1学期に20名前後は生徒会メンバーが居たと説明すると驚かれた。
まあ、これには深い理由があった。
「星稜学園の生徒会ってね,学生に対しての行事を全て学園から委託されているんだよ。修学旅行先の取り決めも毎年決めているから。だから,毎年は人数が多いんだけど今は1年生が大半で10名を切っていたね」
そして,そんな少ない状況であっても先代会長と現会長は今まで以上に生徒会の運営を問題なく行っていたのだ。
そんな有能な二人の後に自分が生徒会の会長を務めることが出来るのかと今の生徒会の1年生達は悩んでいたのだ。
――おまけに,それを更に助長させる原因になっているのが風紀委員会という。
「今期の1年生の優秀な生徒の大半は風紀委員会に行ってしまってね。おまけに僕達の代の風紀委員長は義妹で決まっているからそれに対等になれるのは僕ぐらいって言われていて……」
「だから,生徒会に誘われていると?」
常盤さんの言葉に僕は頷いた。
首席でもなくこんな見た目である僕が生徒会の会長候補に選ばれる理由。
自らが会長を降りた将来的なことを考えても聖人会長は是が非でも僕を生徒会に入れようと必死であったのだ。
――2学期までは……。
「誠央学園の学生達が編入してきたから生徒会メンバーの人数が増えて大丈夫かなと思われてきたんだよね。あと,僕じゃなくても会長候補も来てくれたようだし」
隣にいた常盤さんを見ると苦笑されてしまった。
誠央学園でも次期生徒会長と噂されていた彼女。
首席でもなく目立ってとりえもない僕がなるよりも十分にいいと思う。
だが,誠央学園の生徒だけで生徒会を任せるのも問題と言われているのでどちらにせよ自分の勧誘は諦められていない状況ではあった。
「少し気になったのですが,神条君って本当に優秀じゃないんでしょうか?話し方も落ち着いていますし,生徒の皆さんからも人望はあると思いますけど」
「人望があるのは義妹の御蔭だよ。あと,成績に関しては少し特殊だから」
「「特殊?」」
僕の成績に関しては先生達の間でも有名な話だ。
ある時の小テストでは学年1位を取ったと思ったら,別の授業でのテストは赤点ギリギリであったりと点数の差が激し過ぎるのだ。
「何でそんな点数に……」
「理由がある――っとここが生徒会室だよ」
話していると目的地に着いたようだ。
扉の上には星稜学園生徒会室と書かれており,扉も他の部屋に比べて豪勢というよりも厳重な作りにされていた。
――コンコン。
「は~い,どちら様~」
「神条遙人です。常盤美陽さんとそのご友人達を連れて来ました」
僕が扉の前でそう言うと扉が開き,薄い黒髪の男の子が出て来た。
「お疲れ様,遙人。皆はもう中にいるぞ。……彼女が常盤さんか?」
「そうだよ。皆に紹介するね。生徒会庶務の織斑智樹君。僕の友達で1年生の生徒会メンバーのまとめ役だよ」
「織斑だ,よろしく!まあ,立ち話もなんだから入ってくれ。そっち側の生徒会メンバーも全員じゃないが中にいるぞ。……ちょっと,荒れているけどな」
――荒れている?
そっち側ということは誠央学園の生徒会メンバーも既に来ているということだ。
まさか,出会った瞬間に喧嘩でもしたのかと思って入ってみた。
「美陽ちゃ~ん!!」
入った瞬間,ムギュウッと知らない女性に抱き着かれてしまった。
物凄く甘い香りがして顔が柔らかい感触に包まれて……って,誰!?
「あれぇ?美陽ちゃんじゃない?」
「楓さん,何しているんですか!!早く離れてください!!」
後ろにいた常盤さんが大声で叫ぶと僕を抱きしめていた女性は抱き着くのやめた。
視界がはっきりすると目の前には茶髪のロングウェーブの髪の女子生徒がいた。
榛色の瞳が印象的でほわほわした優しそうな雰囲気をする女性に見えた。
「あらあら,ごめんなさい。てっきり,美陽ちゃんかと思っちゃって」
「いえ,大丈夫です。役得で……ゲフンゲフン。特に何もないので」
背後から冷ややかな視線を感じて慌てて言い換えた。
隣を見ると織斑君がこのラッキースケベめ!という目で僕を呆れた顔をしていた。
別に狙ってやったわけじゃないんだからそんな目で見なくても……。
「遙人君,いらっしゃい。……それから,美陽君達も」
生徒会長と書かれたプレートが置かれた立派な机に座っていた少し小太りな男性が僕達に声を掛けて来た。
茶髪に眼鏡を掛けて見た目は僕と同じ陰キャのように見える存在。
だが,それが彼の唯一の欠点と言われている三大勢力の一角,白星財閥の御曹司。
――白星聖人。
歴代星稜学園の生徒会長の中で五指に入る有能な会長でもあった。
「遅れてしまって申し訳ありません。……ところで,何かあったんでしょうか?」
「ちょっとしたトラブルが合ってね。今は蒼一郎達が対処に……」
「聖,戻ったぞ」
背後から声が聞こえて振り向くとそこには強面の男子生徒が仁王立ちしていた。
――余程,恐ろしく見えたのだろう。
男性恐怖症であった常盤さんは少し怯えたような表情をしていた。
だが,それも葵達の言葉を聞いて直ぐに治まった。
「あぁぁ!!お兄だ!!」
「蒼兄,やっほ~!」
「お前達も生徒会室に来ていたのか。てことは,そっちが……」
チラッと常盤さんの方を見ると彼女はビクッとしてしまった。
だが,その対応が余程ショックだったのだろう。
少し落ち込むと僕を含めた生徒会室にいた人達が笑い出してしまった。
「やっぱり,美陽君は蒼一郎は駄目だったね」
「う~ん,蒼ちゃんって顔は怖いから仕方ないんだけどねぇ」
「これは生れ付きだ!!何か悪いか!!」
部屋に入って来て聖人会長の前で怒鳴ると皆は彼のことをまた笑った。
流石の常盤さんも申し訳なく思ったのか,彼に謝ると青葉さんに尋ねて来た。
「……葵,もしかしてあの人が?」
「そそ。私の義兄。前々から強面だから気を付けておいてって言ったでしょう?」
「葵,お前はどんな説明をしているんだ」
「まあまあ。ところで,悠姫君達はどうしたんだい?」
「あいつなら一狩り行ってきますと言って対処が終わったらそのまま取り巻き達を連れて見回りに行ってるぞ。おそらく,他にもトラブルの……」
聖人会長が蒼一郎先輩と話し出すと常盤さん達は茶髪の先輩,楓先輩の周りに連れて来られて女子トークを始め出してしまった。
そんな光景を他所に今まで静観をしていた翔琉が耳元で呟いた。
「遙人,あの強面の先輩ってまさか……」
「翔琉は伊澄本部長と面識があるなら知っているのかな?――僕の同業者だよ」
表立っては秘密だから内緒にしてねと付け加えると納得はしてくれた。
「ところで,織斑君。荒れているって言ってたけど,何かあったの?生徒会室で喧嘩したような跡はなさそうだけど」
「荒れているぞ。正確に言えば,荒れていただな」
「荒れていた?」
蒼一郎先輩と話し込んでいた聖人会長を見ると肩をすくめ,常盤さん達と談笑していた楓先輩も困った顔をしていた。
「実はね,誠央学園の生徒達の一部がトラブルを起こしちゃってね」
「トラブル,ですか?」
僕は不思議そうに首を傾げた――が,その話を聞いていた常盤さん達は理由が分かったのか,大きな溜息を吐くと何故か皆憂鬱そうな表情をしたのだった。