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第4話 ”元”女性恐怖症であった男の子

※この話では視点が遙人から美陽に変わっています。



「遙人って女性恐怖症だったんだな?」


「つい最近までね。星稜祭があった6月ぐらいには完全に克服できていたかな」




 ――女性恐怖症を克服した。




 私は驚きを隠せずにいたが,同時に克服した彼に興味を抱いてしまった。




「でも,常盤女学園の卒業式にあった時はほとんど克服できていたんじゃない?」 


「そうよね。結衣に抱き着かれても青ざめていただけだし。最初の頃なんて私達が近付いただけで青ざめるだけじゃなくて泡まで吹いて……」




 当時の彼のことを思い出したのだろう。




 葵はその時のことが余程面白かったのか笑いを堪えていた。




「ひどいなぁ。あの時の僕は必死だったのに」




 彼も当時のことを思い出すと肩をすくめて溜息を吐き出した。




 葵達と初めて出会った時,彼は私と違って触れられることが出来ていたらしい。




 だが,女性恐怖症になったということは自分同様に相当辛い経験をしたのではないかと思ってしまった。




「――神条君,少しいいでしょうか?」




 昼食を終えて,教室に戻る途中,私は彼に尋ねた。




「常盤さん?どしたのかな?」


「神条君って,どうして女性恐怖症に?」




 私が男性恐怖症になったのは8歳の時だろうか。




 父が懇意にしている企業さんのパーティーに参加した時に起きた暴行事件が原因で男性恐怖症になってしまったのだ。




 まさか,父も自分と懇意である企業のパーティーで暴行事件が起こるとは思ってもみなかったのだろう。




 ――だが,実際のその話は暴行事件ではないのだ。




「女性恐怖症になった理由か……。う~ん……」


「……話せない内容なんでしょうか?」




 無理もない話だ。




 私も当時のことを思い出すと未だに身体の震えが止まらないのだ。




 そう簡単に事情を話してはくれないだろう――と思ったが,意外にも彼は問題なさそうにそのことを語り出してくれた。




「僕が女性恐怖症になったのは10歳の時かな」


「10歳……私と似たような時期だったんですね」




 自分よりも後だが,それでもその年齢だとまだ小学校高学年ぐらいの歳のはずだ。




 一体,彼は何で女性恐怖症に……。




「美陽,その話はあんまり聞かない方がいいわよ?」


「葵?」




 私の肩に手を置くと何故か葵は言い難そうにしていた。




 葵は事情を知っているのだろうか?




 チラッと結衣の方も見るといつもの明るい顔ではなく暗い顔をしていた。




「お前達は知っているのか?」


「知っているよ。だって,その話ってあの子が関わるもん」


「あの子?……もしかして,先程言っていた義妹さんのことでしょうか?」




 しまったという顔をした結衣に葵は呆れた顔をした。




 どうやら図星であるらしい。




 私だけでなく翔琉も同じように前髪で素顔が隠れた彼を見ると彼は肩をすくめた。




「別に隠す必要もないんだけどね。……義妹自身も学園の生徒達に告白しているぐらいだから。御蔭で女の子達と遊んでいても男子達からは何も言われないという」


「そういえば,委員長の弟が遙人って女たらしの癖に男子達から信頼されているとか言ってたな」




 ――ますます不思議で興味を抱いてしまった。




 彼のやっていることは誠央学園にいる彼等と似たようなことをしているのに彼は男子生徒だけでなく女子生徒からも信頼があるという。




 先程から出ている義妹さんが理由だと思うが,義妹さんは一体,何を……。




「僕って幼い時は要領が悪くてね。成績も運動も平均以下だったんだ。……逆に義妹は成績トップで運動神経抜群という」




 ――優秀な妹と劣等な兄。




 おまけに義妹さんは可愛くていつも男の子達からちょっかいを掛けられていた。




 そんな義妹さんを彼はいつも傷だらけになりながら男の子達と喧嘩をして守っていたらしい。




「最初は義妹を庇って力もないのに喧嘩をしていたことで男の子達から虐めを受けていたんだけどそのことで義妹が激怒しちゃってね」




 喧嘩をしていた時の動画を取ったり,自分がちょっかいを掛けられている声をボイスレコーダーに保存して先生や教育委員会の人に見せたらしい。




 まさかそんな行動を取るとは同じ小学生であった男の子達は思わなかったようで彼等は両親に怒られて泣きながら神条かみじょう君に土下座をさせられたようだ。




 ――だが,義妹さんの怒りはそれでも治まらず,常盤女学園に進学するまで彼等を下僕のように調教したという。




「調,教……?」


「美陽,そこはツッコまない方がいいわよ。私も結衣も最初に聞いた時は驚いたを通り越して困惑していたから」




 珍しく結衣が乾いた声で笑っていたのでその話は聞かないでおこうと思った。




「でも,その話って男の子同士の喧嘩ですよね?関係ないんじゃ……」


「実はその話がこの後の事件に関わってくるんだよね」




 義妹さんが事件を解決した後,調教された男の子達と和解して彼はこれから平和な生活を送れると思っていた。




 ――でも,彼を襲った本当の地獄はこれからだったのだ。




「実は同学年に市会議員の娘さんがいてね。義妹がチヤホヤされているのが気に入らなかったんだよ。」




 だけど,義妹は大半の生徒達と先生達からも気に入られていたので多勢に無勢。




 いくら市会議員の娘さんだからといって手を出したらただでは済まされない状況になるかもしれないと幼いながらに感じたのだろう。




 だからこそ,彼女は義妹への憂さ晴らしのために標的を変えたのだ。




「標的を変えた――まさか!?」


「そのまさかだよ。その子は僕を標的に変えたんだ」




 当時の彼は背も低く,女の子に近い容姿で性格も大人しかったようだ。




 脅せば何も言わなくなるだろうと思ったその子は複数の女の子達を引き連れて彼に虐めを起こしたのだ。




 しかも,彼女達の虐めは殴り合いとかではなく陰湿なものばかりだったという。




「机や下駄箱を滅茶苦茶にされるのは当たり前だけど,陰口を言われたり,遊ぶ振りをして僕だけ独りぼっちにされたこともあったかな。しかも,両親や義妹にばらさない様に服を脱がした写真をバラまくとか脅され……」


「神条君!!もういいです!!」


「えっ――」




 何も思わずに事情をペラペラと話す彼を私は静止した。




 ――葵が言っていた意味をようやく理解できた。




 いつも笑っている翔琉かけるも今は真面目な顔で彼のことを心配していた。




「ごめんなさい。そんな辛い過去を聞いてしまって」




 彼に頭を下げた。




 これは踏み込んではいけない話だ。




「……常盤さん,僕はもう気にしてないから大丈夫だよ?」


「気にしてないって,何でそんなことが言え……!?」




 ――彼は何故か笑っていた。




 あれだけ辛い過去があったのに何故か彼はにこやかに笑っていたのだ。




「実はこの話ってちゃんとオチがあってね。それに――僕は虐めていた彼女達を恨んではいないよ。あの子達もそれぞれ理由があったから」




 その事件で虐めを主導していた女の子の父親,市会議員さんは別で起きていた事件で逮捕され,事件経由で彼に今までしていた虐めが発覚し,今度は彼女が孤立。




 しばらくすると,親戚が引き取りに来て学校から転校していったという。




 そして,その子と一緒に彼を虐めていた女の子達は主導していた女の子に脅されて無理やり虐めに加担させられていたことも発覚。




 彼女が転校後,他の子達は今までのことを泣いて謝りに来て事件は無事解決した。




「で,最後に残ったのがその時の虐めが原因で僕が女性恐怖症になったことなんだけどここからが本当に大変だったからね」


「怒るじゃなくて,大変?」




 何故か葵と結衣は先程と違って笑いそうになっていた。




「責任を感じて女の子達は必死で僕の女性恐怖症を直そうと僕が毎日学校に行く度に心配されてチヤホヤされる状況で……」


「えっ?」


「義妹は男の子の時の事件でも自分の責任で僕が虐められたから大泣きしちゃってね。責任とってお兄ちゃんのお嫁さんになるとか言い出すし」


「えぇぇぇ!?」




 ――とんでもないオチだった。




 要は今まで虐められていた時とは真逆に女の子達からチヤホヤされる状況という。




 男の子達も自分達が虐めをしていたことや女の子達の虐めのことを聞いて羨ましくは思ったが仕方がないと諦めたという。




 ――で,義妹さんはその中でも特に過剰であって……。




「あの子ったら実家に戻ると神条君にべったりだったのよ。女性恐怖症を直すために一緒にお風呂は入るし,夜は一緒に添い寝までしているとか」


「お風呂!?添い寝!?」


「お恥ずかしながら……。僕が星稜学園に進学するって教えたら自分も女学園の高等部じゃなくてこっちに来るって言い出してね」




 最初の頃はこんな見た目なので優劣の関係を突かれたらしいが,義妹さんが当時の事件を赤裸々に告白。




 どれだけ自分の義兄が素晴らしい人間かと説いた結果,現在の神条遙人の周りの状況が出来上がってしまって本人は困惑していると教えてくれた。




「まあ,義妹の過剰なスキンシップの御蔭で女性恐怖症が克服できたのは事実だからね。本当に義妹様様だよ。おっと,そろそろお昼休み終るから急ごうか?」




 何食わぬ顔で教室に戻ろうとした彼に開いた口が塞がらなくなりそうだった。




「美陽,あなたの気持ちはよく分かるわ。でも,受け入れるって大事よ?」




 葵と結衣は最早考えるのを止めて受け入れたらしい。




 私は先に歩いて行った彼を見て未だに驚きを隠せなかった。




 ――だが,それと同時に彼をそこまで大事にしている義妹さんがどういった人物か目の前の彼と同様に気になって仕方がなかった。

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