表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/28

第2話 常盤美陽の幼馴染

「常盤さん,誠央学園では生徒会副会長を務めていたんですか!?」


「ええ。若輩者で先輩達を困らせてはいましたけど」


「でも,誠央学園では首席だったんでしょう?頭が良いだけでなく見た目もこんな可愛い子だったなんて――羨ましい限りだわ!」




 星稜学園の女子生徒達は彼女,常盤美陽のことが気になるのか休み時間になると質問攻めを繰り返していた。




 ――そんな女子生徒達を他所に男子生徒達は指を加えて眺めるだけであった。




「女子達はいいよなぁ~。常盤さんに色々聞けて」


「仕方ないだろう?彼女って男性恐怖症って言ってたんだから」




 1限目に行った定番の自己紹介。




 本日は誠央学園の生徒達の編入があるということで授業はなく,女子生徒達に質問攻めをされている彼女は星稜学園のクラスメイト達の前で自分の体質を告白。




 聞けば,幼い時に参加したとあるパーティーで付き合いのあった企業の御曹司に暴行を加えられて男性恐怖症が現れたらしく未だに克服していないそうだ。




 だが,中学時代に女学園から共学に変わったことで一定の体勢を持つことができ,話すだけなら大丈夫であるらしい。




「まあ,だからといって近付き過ぎるとそこの馬鹿()と同じ末路を辿るがな」




 誠央学園の制服を着た眼鏡の男子生徒は真っ白に燃え尽き,机にもたれ掛かって魂が抜け落ちていたトミーを見て呆れた顔をした。


 


 トミーは彼女の自己紹介を聞いてなかったのだろうか?




 休み時間になった途端,彼女に近付いて挨拶しようとするとこの世の終わりのような叫び声をされて怖がられてしまい,今に至る。




 有難いことに彼の尊い犠牲で他の男子生徒達は生き長らえることができたのだ。




「あはは……。え~っと,トミーの双子のお兄さんでいいのかな?」


「ああ。先程も自己紹介したが,冨塚洸輔(とみつかこうすけ)だ。弟がいつも世話になっているな」




 厳しそうな表情とは裏腹に意外にも話しやすい男子生徒。




 伊澄本部長に似ているなと思いつつ,僕は彼と握手を交わした。




 ――それにしても,双子かぁ……。




「しかし,陽輔から聞いていた話とまるで別人だな」


「どういうこと?」




 若さゆえの過ちを認めたくないが,これは聞いておかないと駄目だと思った。




「今まで数多くの女子生徒に手を掛けて更に超絶美少女の義妹に手を出している鬼畜のシスコン。なのに,女子生徒達からも評判はよく,まるで夜の魔……」


「ストォォォップ!!トミー!!変なことを吹き込まないでよ!!」




 真っ白く燃え尽きたトミーに抗議したが,未だに反応がない。




 流石におかしいと思ったのか,洸輔こうすけは首を傾げた。




「やはり違ったか。すまんな。弟が変なことを言っていたようで」


「――冨塚兄。残念ながらその話はトミーが正しい」




 他の誠央学園の男子生徒達がこちらの話を聞いていたのか,横やりを入れてきた。




「遙人の見た目から信じられないかもしれないけど,星稜学園の3分の1の女子生徒はそいつと懇意の関係だぞ。おまけに,夜にも遊んで……」


「そうなのか?」




 訝しい目で尋ねられると僕は首を全力で横に振り,彼等の言葉を否定した。




「何回も言うけど彼女達とはただの友達だよ!あと,元々は義妹の友達だからね!それに,遊んでいるのは義妹が僕の恋人候補を探しているからであって……」


「でも,女子達と懇意にしていることは同じだろう?」


「うっ……」


「夜に一緒に遊んでいることも事実だろう?」


「うぐっ……おっしゃる通りです……」




 事実なので言い返せなかった。




 目の前にいた眼鏡を掛けた男子生徒だけでなく横やりを入れて来た男子生徒達と話し込んでいた誠央学園の男子生徒達も信じられないという顔で僕のことを見ていた。




 だが,そんな僕を見て一人の誠央学園の生徒が大笑いをしていた。




「……桐原?」




「悪い悪い!変わった奴が多いって聞いていたけど,面白いなこの学園」




 金髪長身の男子生徒に珍妙な生き物を見るような目で見られてしまった。




 生憎と僕は未確認生物UMAでもなければお化けの類でもない。




「……やっぱり,伊澄のおっさんの言ってた通りだわ」


「!?」




 ――今,彼は何て言った?




 桐原と呼ばれた男子生徒は僕の肩を急に叩いた。




「神条だっけ?あとで学食を案内してもらってもいいか?ここの学食って安くて美味いって評判なんだろう?」




 親し気に言われた彼の顔を見ると急に片目を瞑って何かしら合図を送っていた。




 さっきの言葉,もしかして僕の任務のことを知っているのだろうか?




「……うん,構わないよ」




 他の生徒達に気取れない様に僕も微笑んで頷いた。




 返事を確認すると彼は他のクラスメイト達に挨拶に行き,僕は彼の後姿がお昼休みになるまで気になって仕方がなかった。




「ここが学食だよ」


「ここが学食!?まじかぁ……」




 お昼休みになり,案内をした学食を見て桐原きりはらは驚いていたが,それと同時に子供のように目を輝かせて喜んでいた。




――星稜学園三大学食。




 食堂,カフェテリア,レストランの3つに分けられており,手ごろな値段から軽食,コース料理まで楽しめるこの学園の名物の1つである。




 そして,今いる食堂の特徴は安くて美味いということである。




「定食が全て500円。しかも,和・洋・中の選び放題って何だこりゃ!?」




 桐原きりはらだけでなく誠央学園の学生達は皆驚き喜んでいた。




 まあ,驚くのは無理もないだろう。




 この学園というよりも,学園を運営している白星財閥,その財閥総帥が無駄な金を使うなら学生達に還元しろという方針を取っているからだ。


 


 その方針は,食堂だけでなく冬でも部活動・遊技用に揃えた屋内プール,誰でも気軽に使用できるトレーニングジムなど至れり尽くせりな状況なのだ。




 ――でも,あの喜び方は少し異常過ぎないかな?




「誠央学園とまるで違うな……」


「そうなの?」




 話を聞くと,金持ちの連中が使うサロンやダンス会場はあったが,一般生徒が気軽に使える施設はまったくなかったらしい。




 おまけに学食や購買はあったが,学食は値段が異常に高く購買もこの学園には必要ないということで搬入されてくるのも微々たるものであったようだ。




「だからなのかな。誠央学園の学生達が嬉しそうにしているのは」


「そうだな。おっと,それよりも早く食券を買おうぜ」




 既に食券売り場の前には人だかりが溢れ返っていた。




 正直,食券を買うだけでお昼休みが終わってしまうんじゃないかと思えるほどだ。




 ――仕方がない,裏技を使おう。




「桐原君って,何食べたい?何でもいいのかな?」


「構わないぞ……って,食券買ってないのに何処行くんだ?」




 食券も構わずに定食と書かれた看板の所にいる年配の女性の前まで歩いて行った僕を不思議に思いつつ,追いかけて来た。




「あらぁ,ハルちゃんじゃない!?珍しく今日は定食にするの?」


「たまにはいいかなと。ところで……」




 キョロキョロと誰もいないことを確認すると小声である言葉を投げかけた。




「裏定食を2人前お願いします,マダム」


「裏定食を2人前ね!出来たら呼ぶから待っていてね~」




 マダムと呼ばれた年配の女性はそう言うと料理場の奥に消えて行った。




「神条,裏定食って何だ?それに今の呼び方って……」


「ごく少数の生徒達に受け継がれている合言葉だよ。裏定食といって珍しい食材が入荷していたら作ってくれるんだよ。たまに伊勢海老とかも出てくるから」




 マジか……という顔で奥に消えて行った女性を未だに見つめていた。




「それじゃ改めて――桐原翔琉(きりはらかける)だ,よろしく!」


「神条遙人です。改めてよろしくね,桐原君」


「翔琉でいいぞ。友人達からそう呼ばれているから」




 空いていた席に座り,話してみると気さくな好青年のようだ。




 特に何か問題がありそうな学生とは思えないが,事情が事情だ。




 少し警戒をしながら尋ねて見た。




「伊澄本部長のことを知っているような言い方をしていたけど……。」


「知っているぞ?あの依頼は俺も関わっているからな」




 ガタッと机を叩いて立ち上がりそうになったが,今は食堂だ。




 他の学生達に気付かれては困るので出来上がった定食を取りに行く振りをした。




「まあ,驚かれても当然だな」




 同じように出来上がった裏定食を置くとテーブルに座り直した。


 


 ミスジのステーキ定食だろうか?




 未だにジュージューと鉄板で音を立てて焼ける肉の香りは食欲を刺激した。




 唯一の救いは他にも頼んでいた学生達がいたので羨ましそうに又は珍しそうに眺めていた学生達に不思議がられずに済んだことだろうか。




「――翔琉って,何者なの?」




 ステーキをナイフで切り分けながら気になっていたことを尋ねた。




 ――LICENSEライセンス協会に依頼を出せる存在。 




 僕達LICENSEライセンスは治安維持と情報収集を極秘裏に行う者達であり,依頼をするのはLICENSEライセンスの存在を知るごく少数の存在と政府関係者だけのはずなのだ。




 翔琉はおそらく前者だろう。




 だが,その前者であっても只者ではないのは確かだ。




「実は,お前の護衛する美陽なんだが――俺の幼馴染でな」


「幼馴染?」




 彼女,常盤美陽は両親が懇意の中で小さい時からの幼馴染であるらしい。




 彼女が男性恐怖症になった具体的な理由は知っており,今回の任務で護衛に当たるのが学園に在学する男子生徒だと聞き,会ってみようと思ったらしい。




「あいつに害があるなら依頼を取り下げてもらおうと思ったが,危惧だったな」


「なるほどね」


「怒らないんだな?」


「職業柄,そう言ったことを言われるのは慣れているから。――ところで,依頼の件で聞きたいことがあるんだけど……」




 実はこの依頼『彼女を護衛せよ』という内容以外は何も聞かされていないのだ。




 詳しくは現地で本人から直接聞くようにとのことらしい。




 尋ねて見ると彼は意外に口籠って言い難そうにしていた。




「もしかして,ここでは言えないほどかなりまずい話だとか?」


「いや,まずくはないんだが……」


「あれぇ?翔琉君,その男の子は?」




 ――ん?今の声って……。


 


 振り向くとそこには教室で見掛けていた誠央学園の制服を着た金髪碧眼とショートカットの美少女がいた。


 


 そして,その後ろには――先程まで自分達が話していた今回の護衛対象,常盤美陽が立っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ