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第11話 誠央学園の勢力図

「(一気に憂鬱だ……)」




 商業施設へ向かう電車に乗りながら僕は溜息を吐きそうになった。




 誠央学園で起きた学園を崩壊させた事件――その原因は本柳幹事長の御子息が常盤さんに自分の力を認めてもらいたいだけに起こしたとんでもない事件だった。




 そして,この事件は色々な事情が絡み合って複雑な状況だと言う。




「――それで,私を呼んだってこと~?」




 座席の隣で立っている僕だけに聞こえる声で座っていたポニーテールの女の子が声を掛けて来た。




「休みの日までごめん。君だったら何か知っていると思ったんだ――アンちゃん」




 先日,星稜学園で出会った新井杏子――僕と同じLICENSEの訓練校に通い,共に切磋琢磨した親友を頼ることにした。




「別に私は構わないよん。でも,はるるんがそこまで追い詰められているって珍しいね?私等って今事件に介入できないはずなんだけど何かあった?」


「何かあった……」




 常盤さんに頼まれた依頼任務を教えるとアンちゃんは何とも言えない顔をした。




「マジかい!?伊澄のおっちゃんもとんでもない任務を持って来たねぇ~」


「そんなにヤバい?」


「ヤバいヤバい。正直,首を突っ込んじゃいけないレベル。……おっちゃんには何処まで話を聞いているの?」




 軽そうな口で言っているが,彼女が首を突っ込んじゃいけないレベルというのは相当問題が大きいということだ。




「本柳幹事長の御子息が常盤さんに認めてもらいたいために起こした事件ってのは聞いている。あと,僕が知っている範囲だと――」




 ニュースで上がっている理事会や星央会の重役,後援会や教職員達の逮捕,それに関わった学生達の退学処分のことを話した。




 あと,詳細は表立って公表されていないが,青葉さんから聞いた賄賂による成績の改竄や学生達が起こした事件の隠蔽,学園に関わりのある企業の法外な値段による悪質な取引など上げると切りがないが色々と教えた。




「ふむふむ。要するに誠央学園に関する事件のことは大体把握しているんだね」


「うん。伊澄本部長もそのことは把握しているよ」


「おけまる~。んじゃ,人間関係については?」




 ――人間関係?




 首を傾げるとやっぱりかぁという顔をされてしまった。




「実を言うと誠央学園の状況って事件の内容よりもそっち方が問題よん。特に常盤さんの周りの状況は……」


「詳しく聞いても?」




 僕がそう言うと目的地の駅に着いたのか,降りて歩きながら話すことにした。




「まず,本柳君の起こした事件で誠央学園が廃校になることは知ってる?で,それによって誠央学園の学生達の未来が閉ざされたってことも」




 頭の後ろで手を組みながら淡々と話す彼女に僕は頷くと続けて話し出した。




「この閉ざされたってのが相当問題でね。誠央学園の問題に学生も関わっているって表に出っちゃてるでしょう?詳細を上げると切りがないから言ってないだけなんだけど学生が全体的に問題があるんじゃないかって捉えられているの」


「要するに,転校しようにも受け入れてもらえる所が少なく今まで卒業したら受け入れて貰えていた企業から拒否されている状況だと」


「そそ」




 今回の事件で卒業生――現役で働いている人達は他の社員達から誠央学園の卒業生ということで訝しい目で見られているとか。




 酷い場合だと子会社に左遷させられたり,無理難題を押し付けて自らの手で辞職するように追い込まれたりもしているという。




 そして,その被害は現在の在学生も同様に出ているらしい。




「――そんな状況に助け船を出したのが常盤さん,正確には彼女の実家の常盤コーポレーションなんだけどねぇ」


「そういえば,あそこの会社って総合人材サービス企業だったね」




 ――常盤コーポレーション。




 白星財閥や京都六家に連なる第3の勢力に上り詰めた理由,それは商業や工業で発展したのではなく人材によって急成長を遂げたからだ。




「今は落ち着いているけど一昔前は優秀な人材の海外流出で国内ってマジヤバな状況だったでしょ?そこに目を付けて人材の派遣や逆に海外からの人材の引き抜き,転職や就職に関わる事業をほぼ独占した結果,あんな大企業に」


「今の時代,人が欲しければ常盤コーポレーションを頼れって言われているからね。


それに,僕達の親会社でもあるから」




 親会社――表立って活動をすることが出来ないLICENSE協会の隠れ蓑になっているのが常盤コーポレーションである。




 そして,常盤コーポレーションに何故有能な人材が集まっているかというと協会に所属しているLICENSE取得者が常盤コーポレーションで働いているからだ。




 ――所謂,LICENSE協会と常盤コーポレーションは密接な関係があり,協会やLICENSEの訓練校の運営費も常盤コーポレーションが全額賄っていたりもする。




「話がそれたけど,その人材派遣で多くの企業と繋がりを持っていたから会社の人脈をフル活用してね。退学処分になった学生達は無理だったけど,在学している3年生や2年生は何とか将来の働き先は確保できたわけ」


「それを全部,常盤さんが?」


「そだよん。あと,今回の事件で潰れそうになった企業には白星財閥と共同で資金援助とかもしているらしいよ。あの子,あの年で会社の№3だから」


「常盤さんって本当に凄い子なんだね」




 幼い時から色々な習い事をしており,どれも優秀な才覚を発揮していた彼女――それは実家の仕事も同様であり,中学の時から始めた実家の仕事の手伝いの功績で会社の№3まで実力でのし上がったらしい。




「だけど,今回の支援で相当無理をしたらしいよん。今までの功績と地位を引き換えに父親であった会長さんに支援の約束を取り付けたみたいだから。だから,先輩達に取っては常盤さんって女神なのよねぇ」


「なるほどねぇ。でも,話だけで聞くと問題ないような……」




 そう言おうとするとアンちゃんは急に立ち止まった。




「はるるん,言ったよね?2年生と3年生はって」


「……1年生は?」




 僕の言葉にアンちゃんは首を横に振るとまた歩き出して話し出した。




「今回の誠央学園の1年生って超が付くほど問題児が多いの!本柳君もそうだけど女子のグループが!あの子達に関しては本柳君の行動はファインプレー過ぎる!」




 本柳幹事長の御子息が起こした事件――実は彼の行った行動は1つだけ学園の学生達を救った出来事があるらしい。




 それが,教師達の悩みの種となっていたある女子グループ達の中枢部をまとめて退学処分に出来たことである。




「大まかに説明するとその女子達って家の権力でやりたい放題でね。先輩達にも気に入らなければ,陰湿な虐めや脅しみたいなこともしていたし,先生達も気に入らなければ首を切ったりと日常茶飯事に問題を起こしていたから」


「よくそんなことができたね?」


「中枢部の子達が逮捕された星央会の重役達の娘さんとか理事会メンバーのお孫さんだったの。今回の事件で大人しくなったけど,この子達のリーダーが特に最悪。常盤さんとも親同士が犬猿の仲だから嫌がらせばかりしていたから」




 本当にとんでもない子が誠央学園にいた者だと感じてしまった。




「まあ,今その子よりも本柳君達ともう1つの子達が問題なんだけどね」


「もう1つ?」


「常盤さんが1年生だけ支援しないことに反論している子達。1年生の大半がこの派閥みたいな子達になってる」


「――それっておかしくない?」




 事件を起こしたのは本柳幹事長の御子息であって彼女ではない。




 彼女が恨まれる理由がまったく意味が分からないのだ。




「理由は単純。2年生と3年生だけ助けているのに何で常盤さんは自分達は助けてくれないんだってこと」


「何か理由あり?」


「あるよん。ただ,常盤さんの主張じゃなくて常盤コーポレーションの主張」




 表立っては事件を起こした1年生を助ける義理はないと主張している――が,実際は今の1年生に在学している子達に問題があるという。




「何の偶然か,今の1年生の中に会社が小さかった時に色々と苦渋を舐めさせられていた関係者が多くのいたのよねぇ。さっき言った女子のグループにもいるけど1年生を助けるということはその子達も助けるってことになるじゃん?」




 要するに他の子達も助けるならその子達も助けないといけない――自分達に牙を向けていた者達を助けてまた牙を向けられたら本末転倒だろう?と言うのが常盤コーポレーション上層部の見解であるらしい。




「難しい話だね……」


「でしょう?しかも,その子達をまとめているのが橘家の御令嬢……常盤さんと同じ生徒会のメンバーの子だから余計にややこしくてね。それに,あの子達は後がないから常盤さんが悪くなくてもその判断ができなくなっているってこと」




 彼女がしたことは横領の書類を見付けてしまったこと――それだけなのに1年生の大半はそのことが悪いと主張して常盤さんのことを恨んでいるという。




 話を聞くだけで彼女が可哀そうになって来た。




「んで,はるるんが常盤さんの恋人になって欲しいって理由はそれに本柳君達が関わるからだと思うよ?彼って常盤さんにゾッコンだから」


「彼が関わると更に話がややこしくなるから既に恋人がいるんでこれ以上は関わらないでくれってこと?」


「そゆこと。あと,本人は男性恐怖症だし,相手が大物政治家の息子さんだから依頼してきたんじゃない?今日会うんだったらそこも詳しく聞けば?」




 アンちゃんにそう言われて僕は苦笑しながらもそうするしかないと思った。




 どうやら,僕が思っている以上に誠央学園の事情だけでなく依頼をしてきた常盤さんの周りも色々と問題が多いと改めて思い知らされてしまった。

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