6
優香と、由紀は、杏を無事受付まで送り届け、アリスの元に戻った。
「ただいま帰りました」
『おかえりざます』
「つかれたぁ」
『情けないざますね。まだ1日目ざますよ』
「そうなんだけどね」
「アリスさん。無事皆さん入れました?」
『はいざます。ちゃんと入られたざますよ。今日は、これで部屋に帰っていいざます』
「わーい!って、部屋って?」
『受付から、預かってるざます。これが、部屋の鍵ざます。115階の23号室ざますよ』
「これが、鍵?」
アリスに渡された鍵は綺麗な虹色の花の形をしていた。
「どうみても……花だよね?」
「うん。それも、何故かカスミソウみたい?」
『それを、鍵穴に翳したらドアがひらくから安心してざますね』
とりあえず、二人はアリスに別れを告げ、早速部屋へと向かった。
エレベーターで着いた115階は……
「ここが115階?」
「そうみたいだね」
「マンションみたいだけど……」
そこは、廊下は普通だが、それぞれのドアは見当たらない。
つぼみの形をした人食い花みたいなドア。
「入るの怖いんだけど」
「とっとにかく。カスミソウをあててみるね」
由紀は、恐る恐るドアにカスミソウをあてた。白いキラキラした粉がドアに降りかかると、蕾だった花が咲き、中に部屋が見えた。
「すごい」
「うん。なんかさ、おとぎ話みたいだよね」
「はいろっか」
「うん!」
中に入ると、そこは本当にスウィートルームみたいな広い部屋だった。
「すごい!」
「さすが天国よね」
「まだ、天国じゃないけどね」
「そうだけど。ねぇねぇ由紀」
「ん?」
「杏ちゃんは、もう天国なんだよね?」
「うん。三歳だから、コースが違うからね」
「私たちもさ、頑張って早く行けたら、杏ちゃんに会えるかな?」
「会えるよ」
「頑張ろうね」
「うん。優香ちゃんと一緒に天国にいきたいもん」
「私も、由紀と一緒がいい」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
「さてと、ご飯食べに行こうか」
二人は、下の広場に来ていた。
「虎ちゃんたち、どこかな?」
「あ! 虎ちゃんたちの存在を忘れてた」
「レストラン行って見ようか」
「そうだね。いるかもしれないし、死神公証人って知りたいし」
「うんうん。いこう」
「よっしゃ!」
二人は。110階のレストラン「ゴワァン」にたどり着いた。
「なに?この名前」
「よくテレビで犬が人間語話すときとか聞く響きだね」
「そだね……。」
「気を取り直して、虎ちゃん達はどこだろう?」
周りを見ると、虎ちゃんは侍とあり、隅っこで健太と談話している二人を見つけた。
「虎ちゃん!健太!」
「おぉ!優香、由紀」
「おつかれぇ」
「おつかれでござる」
席に座ると、ウエイトレスの女性がスマイルできた。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「えっと……何にしよう」
「お客様たちは、本日からの方々ですか?」
「はい。」
「本来は、御代を頂くのですが、初日なので、サービスです」
「ありがとうございます」
「私、ウエイトレスの、佐藤由加里です。よろしくね」
「よろしく」
「お勧めあります?」
「そうねぇ。お釈迦様たべちゃうぞ定食が流行かな?」
「お釈迦様食べたら罰が当たるんじゃ?」
「やだなぁ。本当に食べるんじゃないんだから」
「そうだけど」
「お釈迦様の形をした、オムライスだよ」
「そうなんだぁ。んじゃ、それ下さい」
「後は、えん魔様はバイバイスパゲッティもあるよ」
「変わった名前ね。誰が考えるんだろう(汗)」
「料理長、変わってるのよねぇ」
「んじゃ、私はそれにしてみようかな」
「では。待っててね」
五分ほどすると、両手に大きな皿を持ったウエイトレスの人が来た。
「おまたせいたしましたぁ」
「これが、お釈迦様食べたちゃうぞ定食なんだぁ」
綺麗な卵に、お釈迦様が書いてあって、周りに、様々な色の野菜でできていた。
「豪華に見えるね」
「こちらが、閻魔さまバイバイスパゲティね」
閻魔さまバイバイの方は……説明すらできない物だった。
「グロイ……」
「この色合いが……食欲をなくすような」
「麺は、赤だけど、具が何ともいえないね」
具材は……想像にまかせます
「いただきます」
「優香ちゃん、味は美味しいよ」
「よかったねぇ。でも、私は食べないけどね」
「所で、虎ちゃんたちの、死神公証人ってどんな仕事なの?」
「仕事は……内緒でござる」
「え~? ケチ! 教えてよ」
「そうそう。口外しないからさ」
「そう二人に言われたら……本当は拙者いいたくて」
「あはは! 虎ちゃん言いたかったのね」
「いいのかよぉ。まぁ。俺も言いたかったけどね」
「やっぱ凄いの? 仕事の内容」
「死神ってさ、みんなイメージだと、鎌をもって黒い服のイメージじゃん? でもね、違うんだよな」
「ふむ。拙者も、そう思っておったんだが……実は……」
「実は?」
虎太郎は、ゆっくりと思い出しながら話し出した。
《今から、十時間ほど前にさかのぼる。
「健太どの。この部屋ではないだろうか?」
「お? 本当だ。ここだな」
死神公証人の部屋は地下二階だった。
真っ暗な廊下を進むと葉っぱで囲まれた部屋が見えた。
「健太どの、合言葉はなんだろうか?」
「虎、ノックして入ればいいんだよ……」
「そうなのか。てっきり、拙者の時代と同じで、合言葉を言わねば、開けて貰えぬと思っておった」
「時代違いすぎるんだな」
「すまぬ……」
「いいって。んじゃ、俺開けるよ」
健太は、黒いドアを開けた。
「すみませーん。どなたかいますか?」
部屋の中を、健太の声だけが響いた。中はうす暗く、そして湿気なのかジメジメとしていた。
「誰もいないのかな?」
「敵のにおいはしないのだが……」
「敵じゃないから」
『おい。ここに居るだろうが』
「え? 虎しゃべったか?」
何やら聞こえてきた声に二人は周りを見た。
しかし、誰の姿も無いことに気付くと二人は、もう一度、暫く待ってみた。
『下をみろ!』
「下? え? これ、ゴミ?」
言われた通り下を見ると……小さな何かがあった。
『失礼な奴だな! 死神様に向かって』
「いや。うけるぅ! これが死神?」
健太は、お腹を抱えて爆笑した。
「どうなっておるんだ?」
虎太郎は、死神をつまんだ。
『おろせ! こら! やめろ』
死神は、手足をバタバタさせて抵抗した。
「イメージと違いすぎて、やる気うしなったわ」
『こうなったら……』
死神は、なにやら呪文を唱えだした。
「え!」
健太の体がドンドン小さくなったのだ。
「健太どの!」
虎太郎の体も同じく小さくなった。
『どうじゃ! これで、大きさが同じになった』
死神は嬉しそうな顔をして喜んだ。
「意外にオッサンなんだな」
『やかましいわい』
「で、死神ってあんた?」
『我が、死神様のジーゴクじゃ』
「おれが健太」
「拙者が虎太郎でござる」
『この仕事を引き受けるとは、きっと死神との交渉などと言われたんじゃろうな』
「あぁ。違うのか?」
『交渉は、あっとるかもな。だが、それは現世で言う、裁判なんじゃよ。地獄に落とすか、天国にいけるかのな。われわれは、地獄のえん魔様より依頼を受けて居るから、現世でいう警察みたいなもんだな』
「それって、地獄に落ちるようにもってくのか?」
『もちろん。皆が天国じゃ、満員になるじゃろ』
「それは、おかしいだろう? てことは、我らは人を不幸にするための仕事を選んだのか」
『よーく考えてみろ。皆が天国っておかしいじゃろ。犯罪者に殺されてしまった人の気持ちになれ。裁判では、有罪や無罪があるように、この世界でも、地獄と天国があるのだから。』
「そういわれたら、そうかもな。よし、一度決めた事をやめたら男がすたる! やってやるぜ!」
こうして、二人は地獄に送るための死神公証人の仕事を始めた。
今日の、交渉は、桜井楓 二十二歳。
十九歳のとき、万引き常習犯だった。先日付き合っていた彼氏とケンカをし、やけになり、自殺をしたのだ。
この、桜井楓の地獄と天国の裁判式交渉が始まった。
「万引きというのは、なんだ?」
「虎の世界では、万引きといわないかぁ。窃盗だな」
「それは、いかん。打ち首獄門だ」
「虎、今の時代、打ち首はないって」
「そうなのか?」
「警察に捕まって、少年院に入る場合もあるな。回数によっては。」
「常習犯ということは、少年院に入っていたのか?」
「どうだろう。」
二人は話していると、裁判官がトントンとテーブルを叩いた。
『それでは、第一回死神公証式裁判を行います。桜井楓さん前へ』
「はい。」
桜井楓は、黒髪の清楚な感じがする女性だった。
「大人しそうなオナゴではないか」
「とても、そんな感じには見えないな」
『おぬしら、見た目に騙されると間違ったことになるぞ』
「ふむ。確かにそうだな」
「あぁ。」
『では、死神班。尋問を。』
裁判官に呼ばれ、ジーゴクは桜井の前にたった。
『はい。桜井さんにお尋ねします。十九の時の万引き常習犯は間違いないですか?』
「……はい。間違いありません。」
『どうして、万引きをしたのか、教えてください』
「それは……。」
『それは?』
桜井は俯くと、ポツリ。ポツリと話し出した。
「当時、私は悪いグループに入ってました。本当は、入るつもりは無かったのですが、当時私はいじめられてて、リーダーに逆らえなかったんです」
「かわいそうだな」
「あぁ。気の毒に」
『本当にですか?』
「信じてください」
桜井は涙目でジーゴクを見た。
『それは、おかしいですね。あなたがリーダーなのに?』
「嘘です! 私がリーダーなわけないじゃないですか!」
『失礼。裏のリーダーと言った方がいいですかね』
さっきとは違い、桜井の目が動揺に変わった。
「なに?」
「裏のリーダー?」
「健太殿。リーダーとは?」
「あぁ。虎の時代で言えば……悪代官だな」
「なんと!」
ジーゴクの言葉に、観客たちはザワザワしだした。
『えー。静粛に! 静粛に。いったん休憩に入ります』
控室に戻ると、健太がジーゴクに笑顔で声をかけた。
「ジーさんすげぇな」
『こら! 死神様をアダナで呼ぶな!』
「何で裏のリーダーって分かったんだ?」
『おぬしら頭悪いな。そもそも。私がただたんにここにいると思うか? この交渉が決まってから、今日まで調べたに決まってるだろうが』
「どうやって調べるのだ?」
『捜査は足だよ。足』
「その短い足で?」
『短いは余分じゃ』
「わりぃ」
『そんなに不思議なら、彼女をみたらいい。テーゴクの前では本当の、桜井楓がみれるぞ』
二人は、天国派のテーゴクの部屋の前に来た。
中から聞こえてきた声に二人は耳を疑った。
「信じられないっつーの。何なの? あんた私の弁護士でしょ? 言い返してよ」
『そ……それは。この世界では現世のように事実を曲げれないんでおますんや』
「はぁ? 事実じゃないわよ。嘘に決まってるでしょ!」
『そない申されましても……』
「やくたたず!」
さっきとは有り得ない変わりようの斉藤楓の声だった。
「女って……こわいな」
「ふむ……拙者身震いしてきた」
「なぁ。桜井楓と話していけないのかな?」
「んー。拙者も同じこと考えてたでござる」
「いってみっか!」
トントン
『はい?』
「ども。」
中に入ると、さっきとは想像できない、再び笑顔で桜井が迎えてくれた。
『あなたたち、死神さんの所の?』
「健太と虎太郎っす」
「イケメーン」
「あざっす」
「少し、話させてはくれないか?」
「死神のパシリっしょ? 嫌よ。」
「裁判とは別に話したいんだ」
「なになに! ナンパ? ありえねー」
顔は笑顔なのに、口調はさっきドアの前で聞いた話し方と同じだった。
「このものは、何語を話してるんだ?」
「虎って、何時代?」
桜井は、虎太郎に興味を持ち出した。
「江戸だが……」
「うける! 江戸だって」
手をパンパン叩きながら笑い転げる桜井に虎太郎は怒りを覚えた。
「こやつ……」
「虎太郎、気にするな。あのさ、聞きたいことあるけど聞いていい?」
「いいけど?」
「んじゃ。聞くけどさ。なんで万引きしたん?」
「これ、記録に残らない?」
「残らないって」
「ん~? 何か楽しいから!」
「楽しい?」
「そう! 人が困ってるのって楽しくない?」
「人とは?」
「親だよ。親。警察に呼ばれるたびにさ、ペコペコしちゃって? マジうけるんだもん」
「こやつ、人ではないな」
「なんですって!」
虎太郎の言葉に、桜井は怒りをあらわにした。
「そなたは、分かってない! 両親とは、たとえどんなときでも、子供を第一に考えてるんだ。そなたがウケル? とやらを思ってるかもしれないが、親にとって、子とは馬鹿でも守るべき宝物なんだ」
「あんた馬鹿? 私はね、親に愛なんて貰ったことないわよ。小さい頃からずっと一人で生きてきたの。どんなに寂しくても、いつもお金だけ置いて一人にするような親に愛なんてないわよ」
「どうして、愛がないと言い切れる?」
「そんなの分かるわよ。いつも疲れた顔して私の話すら聞いてくれないのよ? 愛があるなら、私の話を、疲れてても聞いてくれるでしょ?」
「おまえ、寂しかったんだな」
健太が、桜井の頭をなでた。
「さ……さみしくなんて……」
「俺もさ、親に愛されてないって思ってた。鍵っ子ってやつで。でもさ、ある日、親父が言ったんだ『ごめんな。いつも側にいてやれなくて。寂しい思いをさせて。でもな、お前に不自由させたくなくて働くことに必死だったんだな。今思えば、もっとお前と話せば良かった。お前との時間をもっと作れば良かったな。ごめん』そういって抱きしめられたんだよ。そんとき、俺、馬鹿だったなって思った。子供を愛さない親なんてないのに。あんたの親もそうだったんじゃないの?」
桜井の目から、一粒の涙が流れた。
「道は外れたけどさ、もう、あんたの両親には会えないけどさ。次生まれ変わったら今度は真っ当に生きてみたら?」
「……私、間違ったのかな?」
「間違ったかは、おまえが決めることだよ」
「あはは。そうだね。地獄で、頑張るよ!」
『ちょっと。まちなはれ。地獄に行くと決まってませんのに』
テーゴクは慌てて、健太と桜井の間に入った。
「テーゴクさん。ありがとう。次の交渉式裁判で、私、ちゃんと判定を受けるから」
『そない言われましても。こまるわぁ。おたくら出てってくれはる?』
二人はテーゴクに追い出されるように、桜井楓の部屋を出た。
そして第二回公証人式裁判が始まった。
『桜井楓さんの意見を聞かせて下さい』
「はい。私は、ずっと一人だと思ってました。親の愛を信じてませんでした。ある人に言われたんです。子供を愛さない親は居ないと。その人のお陰で私は、遅いけど両親に何て酷いことをしたんだろうと後悔してます。だから、地獄に行き、もう一度一から始める為の勉強を望みます」
急に、認めた桜井の言動に再び、観客たちは動揺した。
『静粛に! では、桜井楓さん。あなたは地獄を望まれるのですね?』
「はい。お願いします」
『わかりました。』
裁判官は、テーブルを叩いた。
『では、桜井楓さん。あなたを地獄コースにお送りします』
こうして、桜井楓は地獄行きが決定した。
「健太殿。これで良かったのか?」
「いいんだよ。偽りの結果よりな」
こうして、死神公証人のバイトは一日目を終えた。》
「……こんな感じかな?」
健太と虎ちゃんの話を聞いてた由紀が暗い表情になった。
「どうしたの? 由紀」
「ん? お母さんも、私を愛してくれてたのかな? なら、どうして私を殺したんだろうって考えちゃった」
「そうだね……。」
優香は、由紀の手を握った。
「由紀どのの母君は、由紀殿を殺められたのか?」
「うん。樹海に置いてかれたの」
「そうだったのか……。」
「きっとだけど、愛してなかったのではないと思うけどな……多分」
「あいまいだな……健太」
「拙者は、好いてたと思うぞ。だが、なんらかの陰謀で母君の心が病になったんではないか? 悪の病にかかられたんだな」
「そうかな? 嫌いじゃなかったかな?」
「当然でござるよ! いつか母君もここにこられるであろうから。そのときは聞いてみたらどうでござるか?」
「うん」
「一ついい? 虎ちゃん」
「なんでござるか?」
「何年後か分からないけどさ、それまで、由紀ここにいるってことは留年? だって、いつか聞くには留年しないといけないでしょ?」
「いやいや! 今日は暑いでござるなぁ」
「虎ちゃん……はぁ……」
私が呆れていると、健太が突然手をパンと叩いた。
「なぁなぁ。ここって温泉あるって知ってる?」
「あるはずないでしょ? 源泉ないんだから」
「私も、聞いたよ。温泉あるんだって。優香ちゃん行って見ようよ」
「温泉もどきじゃない? ん~。でも、気になるしいってみよっか」
「おー!」