3
一人目は。相川奈保さん。三十歳だ。死因は、事故死
優香と由紀は、まず相川さんの事故現場に行った。
そこは、山の中。本当に無残な姿の車、救急車、救急隊員の慌しく動く姿に二人は呆然とした。
「ここに相川さん、いるのかな?」
「いると書いてあるから、探さなきゃ。由紀、あっち探してきて」
「うん。分かりました」
由紀と離れて、探すこと五分。ポツンと事故現場から大分離れた所に、ボーっとした女の人がいた。
見た目は、生きている人と変わらないけど、空気が違ってた。
「あの、相川奈保さんですか?」
優香の問いかけに全く表情変えず一点を見つめる相川さん。
「相川さん?」
「え? あっはい!」
振り返った相川さんは、清楚な感じの女性だった。
「初めまして、天国の使いの優香といいます」
「天国の使い? あぁ……私、いかなきゃダメですか?」
意外な返答に、優香は驚いてしまった。
「え? そりゃ、このままってわけにもいきませんし……」
「そうですよね……。」
相川さんは、行くという事を理解はしているけど、何かソワソワと落ち着かない様子だった。
「何か心残りあるのですか?」
「子供が……。」
もう一度、見ると、相川さんの亡骸の近くで、泣き喚く五歳くらいの女の子がいた。
「相川さんの子供さんですか?」
「えぇ。あの子喘息で病院に行った、帰りなんです」
「喘息ですか。」
「母子家庭で……夫は昨年亡くなりました。私が死んだ今、あの子はどうなるのでしょうか?」
「そうですね……。一般的には、施設とかじゃないですか?」
優香と、相川さんが話していると、向こうから、由紀が飛んできた
「優香ちゃーん」
「由紀! こっちこっち」
「はぁはぁ……。あ! 相川さんですか?天国の使いの由紀といいます。で、優香ちゃん、行かないの?」
「うん。あの子。相川さんの子供さん。母子家庭なんだって。だから、一人ぼっちだから、心配でいけないみたい」
「え? 相川さん。弟さんいらっしゃいますよね?」
由紀の問いかけに、相川さんは下をむいた。
「いますけど。弟は子供嫌いなんです」
「そりゃ。心配だね」
「だったら! 見守ってから帰ります?」
由紀は、相川さんの手を握りながら優香を見た。
「いいんですか?」
「いいですよ! ね? 優香ちゃん」
「そだね! 心配だし」
「ありがとうございます」
相川さんは、涙を流しながら二人にお礼を言った。
三人は、相川さんの子。愛ちゃんのそばに移動した。
「誰かきた」
少々怖そうな男の人。二十七歳くらいだろうか?
「弟の、隆司です。先月結婚したばかりなんです。」
相川さんは、隆司さんの方へと視線を向けた。
隆司さんは、愛ちゃんに、近づきなにやら話し始めた。
「聞こえないね。近づいてみる?」
「あの……近づいて大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫。大丈夫。私たち幽霊ですから!!」
昭和のお笑いのような、腰に手を当てて威張りながら優香は言った。
「由紀、そこ威張るところかな?」
優香は苦笑いをした。
三人は、愛と隆司に近づいた
(愛!)
(隆司おいちゃん……)
(大丈夫か?)
(ママ……真っ青で、白い布かぶせられたの)
(愛、ママはな、天国に行ったんだ)
(うそ!ここにいるよ?)
(心が天国にいったんだよ)
(愛もいく!)
(愛は、いけない遠い所なんだよ)
(ママァー)
(なくな!)
愛の泣く姿を見て、隆司は声を荒げた。本当に子供が苦手だと思える姿だった。
遠くから、綺麗な女の人が歩いてきた。
「うわぁ。綺麗な人」
「隆司の奥さんで加奈子さんです。」
「へー。美男美女ってやつですね」
「生きてたら、私も、美男美女な夫婦になれてたかなぁ。相手がいないけど……。」
優香の妄想に、相川と由紀は顔を見合わせた。
隆司さんと加奈子さんが、愛ちゃんから離れて話していた。
(隆司さん)
(加奈子)
(義姉さんは?)
(死んだよ……。)
(そんな……。)
加奈子さんは、崩れるように泣いた。
(加奈子、愛についててくれ。俺、刑事に聞いてくるから)
隆司さんは、刑事の所へいった。
(刑事さん)
(相川さんのご家族の方ですか?)
(弟です。姉は、どうして……。)
(相手の方がケータイを使用してたみたいで、わき見運転でした)
(そうでしたか……。)
(お宅様が、娘さんを引き取っていただけるのですよね?)
(そうしたいのですが……俺、子供が大の苦手なんです)
(でも、娘さんには、貴方しかいないんですよ? 施設にいれるなんて可愛そうです!)
刑事さんは、隆司に詰め寄った。
「なんなの! 愛ちゃんには弟さんしかいないのにぃぃ!」
「優香ちゃん。落ち着いて!」
隆司さんに、掴みかかろうとした優香を、由紀が止めた。
「隆司は、愛を好きではなかったようです。昔から近寄りませんでしたし……」
「でも!」
「どうしたらいいでしょうか。このままだと、施設になっちゃいますよね? 愛が可愛そうで……」
相川さんは泣き出した。
「んー。よし! いっちょやりますか!」
「優香ちゃん、作戦ありなの?」
「え? それは、由紀が考えるんでしょ?」
「優香ちゃぁん」
優香の返答に、由紀は呆れた表情で見た。
「まぁまぁ。考えてみようよ」
「私たち幽霊って、どこまで出来るんだろうね」
「そうね。あ! 幽霊のオキテみてみる?」
由紀は、持ってきたカバンから、最初の日に貰った本を取り出した。
【幽霊に出来る事】
レベル一。ものを動かす
「音を出して、気づかせるってやつね」
「逆に怖がらせないでしょうか?」
「……そうですよね」
レベル二。話しかける
「これよくない?」
「話しかけるなら怖がらせないしね」
注意 ただし、霊感ある人間で波長があう人のみ
「隆司さん、霊感は?」
「ないです……」
「だめかぁ……」
由紀と二人、次の作戦を考えていると、加奈子さんが手を叩いた。
「あ! 加奈子ちゃんなら、あります」
「本当?」
「良かったです!」
「試してみようよ」
「ちょっとまって! 優香ちゃん。今行ったらほかの人に変な人って思われちゃうよ?」
「そっか……」
「夜の方がいいんじゃないかな?」
「夜まで、待てないよ。一人のときに行ってみよ!」
「あの……」
相川さんが、手を上げながら真剣な顔そして話しかけてきた。
「相川さん、どうしました?」
「練習って、ナシで大丈夫でしょうか?」
「練習?」
「はい。普通に簡単に出来るものでしょうか?」
「確かに……あ! 犬! 犬で練習してみよう」
「いいね」
犬は、動物の中でも霊感が優れていると聞いたことがある優香は、練習を犬ですることにした。
三人は、近くの公園にいる犬で練習することにした。
見ると、三匹の野良犬がスヤスヤと寝ていた。
「いるいる」
「うん。まだ気づいてないね」
「あの……かまれないでしょうか?」
「いや、相川さん、私たち幽霊ですから噛まれませんよ」
「そっか」
どこか天然の相川さんだが、ここは、早く天国へ来てもらわないといけない。優香は犬を前に気合を入れた。
「よし! 私から試しますね」
「お願いします」
優香は犬に近づいた。
「ふぅ……」
どんなに近づいても気づいて貰えない。
「気づかないね」
「どうしてでしょう?」
「由紀、本になにか書いてない?」
「えー? んと……」
【話しかけ方。】
相手に集中する。
息を大きく吐く。
目を閉じて、力を入れてから話しかける
「なるほど。よし! もう一度!」
犬に集中した。息を大きくはくと目を閉じ力を入れた。
すると、寝ていた犬が、こちらを見た
「あ! 反応した」
「優香ちゃん、やったね!」
「わっ私もしてみます」
相川もチャレンジしてみるが、うまくいかない。
「相川さん。もっと。こう力込めれません?」
「これでも、一生懸命がんばってるんですけどぉ」
「がんばって!」
相川は、再び犬に向かって力を入れた
「いぬさぁぁぁん! きづいてぇ」
相川は力いっぱい集中した。すると、金色の光が相川を包み込み、犬は気づいた。
「やったー!」
「相川さん、凄い。凄い!」
「えへへ。」
「よし! では、早速行きますか」
「はい! 優香さん!」
「はい? え! ちょっと!」
相川の力に沢山の犬たちが集まり、三人に寄ってきたのだ。
「あっちいって!」
一生懸命、犬たちを払いのけようとする相川。
「私、犬にがてぇ!」
逃げ回る由紀。
「由紀、泣かないの」
由紀を宥める優香。
「だってぇ」
三分後
「はぁ……はぁ……はぁ」
「もう……無理。」
「……いこう」
「……うん」
何とか、犬たちから逃げ切った三人。
三人は、再び隆司の妻、加奈子の所へいった。
「加奈子さんは……あ! いたよ」
「では、相川さん、いきますよ」
「はい。」
相川は、力を込める。
「加奈子ちゃん」
相川の声に気付いたのか、加奈子は声のする方を捜した。
相川の姿を見ると、目を丸くした。
『え? お姉さん!』
「急に、ごめんね」
『大丈夫なんですか? 怪我は……ってあれ?』
どうも、状況が分からなくなった加奈子に、優香と由紀は相川の傍に立った。
「あのぉ……」
『わ! 貴方たちは?』
「私たちは、相川さんを迎えに来た天国の使いの優香と」
「由紀です」
『天国の使い?』
「えぇ。相川さんが、天国にいけるよう、お手伝いをしているんです。で、相川さん未練がありまして、加奈子さんにお願いがあるみたいで。登場してみました」
『お願いですか?』
「娘の事なんだけど」
『愛ちゃんですね』
加奈子は辛そうな顔で相川を見た。
「えぇ。隆司、子供嫌いでしょ? 娘のこれからが心配で……」
『ですよね。私は、愛ちゃんの親代わりになりたいと思ってます。施設なんて、嫌です。お姉さんが女で一つで育てた子ですもん』
「加奈子ちゃん」
『お姉さん。待ってて下さい。隆司さん、つれてきます!』
「あ! 加奈子ちゃん!」
加奈子は、全速力で隆司を連れに行った。
「いっちゃった」
「隆司さんって、霊感ないんですよね?」
「そうなんです」
「なら、私たち視れないよね? 優香ちゃんどうしよう?」
「うん……そうだ! いい案があるよ。三人で力を合わせたら力も倍だし。みれるかも♪」
「いいね! やってみよう。ね? 相川さん」
相川は、少し考えていたが、笑顔で優香たちを見た。
「お願いします」
相川の返事に、優香たちは笑顔で答えた。
『おねえさーん』
加奈子が、隆司を連れて走ってきた。
『加奈子、何言ってるんだよ』
『お姉さん。いるでしょ? そこに。』
加奈子が指をさす方を見るが、隆司の目に相川は見えなかった。
『姉貴は、死んだんだよ!』
『分かってる。でも、今幽霊で来てくれてるの』
『はぁ? 加奈子。幽霊なんていないって前から言ってるだろ』
「いまだよ!」
三人は、目を閉じ集中すると金色の光が三人に降りてきた。
『あねき?』
突然目の前に、さっき死体で見た相川が立っているのを見た隆司は自分の目を何度もこすった。
「隆司」
『姉貴なのか? 幽霊なのか? 足……あるよな? 事故は嘘なのか? なぁ! 姉貴!!』
『隆司さん、落ち着いて。幽霊だって。』
興奮する隆司の手を取った加奈子に、隆司は深呼吸すると落ち着きを取り戻した。
「ごめんね……隆司」
『ごめんじゃねぇよ……。何勝手に死んでんだよ! おれ……おれ……』
「ごめん……」
今にも消えてしまいそうな、隆司を見て相川は、涙を流した。
『早くに……両親死んで、俺をここまで育ててくれた姉貴に……やっと……これから恩返しをするって決めてたのに……できねーじゃねえか』
「うん……ありがと」
『隆司……お姉さん、お願いがあるから出てきてくれたの。』
『おねがい?』
加奈子の言葉に、隆司は気づいたのか少し顔が変わった。
「愛のことなの。隆司、子供嫌いでしょ? だから……〕
『嫌いだよ! 大嫌い』
「隆司……」
『でも、施設には、やらないから。俺……育てるよ』
「え?」
隆司の言葉に相川は驚いた。
『姉貴ほど、上手には、育てられねえけど、俺なりに頑張るから。美人に育ててやる』
隆司は、相川にブイサインをした。
「ありがとう……ありがとうね」
『だから……安心して……行けよ。姉貴』
隆司は崩れるようして、泣き続けた。
傍に行こうとした相川を、優香はとめた。
「相川さん時間です」
「……はい。加奈子ちゃん、隆司と愛を頼むね。〕
『任せてください。お姉さんも体には気をつけて元気で』
「加奈子ちゃん……死んでるって。」
『そうでした……あはは! お姉さん、ありがとうございました』
加奈子は、相川に頭をさげた。その肩は震えていた。
「じゃぁ。行くね」
『あ! あの!』
加奈子が相川を止めた。
「ん? 何?」
『好物、聞いていいですか?』
「塩せんべい」
『分かりました・毎日供えますから、食べてくださいね』
「ありがとう。楽しみにしてるね」
「相川さん、いきますよぉ」
『あの!』
「どうしたの?」
『えっと……あの……。』
「加奈子ちゃん?」
『行かないで下さい』
「加奈子ちゃん……」
『加奈子……』
隆司は、加奈子を抱きしめた。
『私、まだまだ、お姉さんに教えてもらいたいこと沢山あって、お姉さんみたいになりたくて……だから……だから……』
加奈子の言葉に相川は、涙を流しながら笑顔で答えた。
「ありがとう。でもね、もう教えることないよ? 加奈子ちゃんは、十分私を超えてるんだから。だから大丈夫」
『そんなこと……』
「加奈子ちゃん、ありがとうね。バイバイ」
そういうと、金色の光は強くなり、加奈子と隆司の前から、相川は消えた。
天国の入口についた相川は、振り返り優香と由紀をまっすぐ見た。
「優香さん。由紀さん。本当にありがとうございました」
「私たちは何もしてないよ」
「そうそう。相川さんの気持ちが通じたんですよ」
「これで、安心して、天国にいけます」
「では、これ案内状です」
「はい! 確かに受け取りました」
そういうと、相川の前に虹のように道が出来た。
「頑張ってくださいね」
相川は、虹とともに、天国への道を歩いていった。
「ねぇねぇ。優香ちゃん」
「なに?」
「相川さんに教えてあげたらよかったね」
「何を?」
「テ・ス・ト」
「そうだね。でも、知らないほうが夢があるよ」
「ゆめ?」
「知りたくないでしょ。死んでからのテストや、バイト」
「たしかに」
優香と由紀は二人で笑いあった。