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由紀と優香は、810階の鳩部屋へ移動した。
ドアには、「鳩部屋」とかかれていた。
「ここかなぁ?」
「多分そうだよ。鳩の絵だし」
優香は意を決してノックをした。
中からは何の音もしなかった。
もう一度、ノックをしてみるが、やっぱり音がしない。
「留守かな?」
「あけてみる?」
由紀は、ドアを開けた。
だが、中には人の姿は無かった。
「誰もいないね」
「うん」
周りを見ていると、突然目の前に何かが飛んできた。
「うわぁ! 鳩だ!」
「きゃー」
鳩は、優香の服をクイクイ引っ張ると、なにやらバッチを渡した。
「これを、つけろと?」
鳩は、優香の言葉に頷いた。
私と、由紀は、鳩から渡されたバッチをつけた。
『あーあー』
つけた途端、さっきまで「ぽっぽ」と鳴いていた鳩が話し出した。
「うわぁ! 鳩がしゃべった!」
『やかましい人間だな』
鳩は、羽根で顔を隠した。
『その、バッチは鳩と人間が話すテレパシーを発信しているのじゃ』
「この、バッチもらえるの?」
「優香ちゃん。せこい……」
『おぬしら……何しに来ておるんじゃ』
鳩は、優香のホッペを羽根で叩いた。
「いったいなぁ。鳩のくせに羽根でたたかないでくれる? まだ20歳のピチピチなお肌が台無しよ!」
「鳩さん……お顔怖いですわ。話を戻しませんか?」
『それもそうじゃな。私は、ハートンじゃ。鳩の手伝いの店長をしておる。』
「川上優香でーす」
「佐藤由紀と申します」
『では、二人はアリスくんに仕事の内容をきいてくれ』
「はーい」
『アリスくん!』
どうみても、同じ鳩にしか見えない鳩がこっちに歩いてきた。
ここで、働くには、まずどうみても、鳩の見分け方が必要だと思った。
『なんざます?』
アリスの話し方に、優香は思わず吹き出してしまった。
『これ! 何を笑っておる! 最近の若い人間はこれだから困るんじゃ。そう、アリス君。この二人が新しいバイトじゃ。頼んだぞ』
『かしこまりましたざます』
「よろしくおねがいします」
『二人とも、こっちにいらしてざます』
「アリスさん」
由紀は、アリスを突然呼び止めた。
『由紀さんなんざます?』
「これ、お近づきの印に作ってみたんですが、受け取ってくださいますか?」
由紀が渡したのは、赤いマフラー。
そう。由紀は、見分けるために、マフラーを作ってきていたのだ。
『まぁ! ありがとうざます』
アリスは、早速つけた。鳩にマフラー。少々違和感はあるが、これで見分けれる!
優香は由紀を見るとブイサインをした。それにしても、いつの間に由紀は用意していたのだろう?という小さな疑問は残るが、深く考えないのが優香の長所ともいえるのだ。
『では、二人には、仕事の内容を教えるざます。毎日リストが届くんざます。二人は、そのなかから、3名ずつ手紙を渡してほしいざます。無事扉に入るまで、見届けていただくから、よろしくざますね』
「見届けるとは?」
『中には、未練がある人がいるざます。そういう人には、未練を断ち切ってあげてほしい。鳩の私たちじゃ、なかなか開いてくれないざますからね』
「わかりました」
「やれるだけ、やってみますわね」
『では、このリストを渡します。給料についてですが、ここは時がないざます。だから、一人につきスタンプが一つ。こちらに入所が確認されたらつくシステムざます』
「スタンプってなんか面白くない?」
「うんうん。お得な感じ」
優香と由紀は、これから始まるバイトにドキドキわくわくしていた。
『では、たのんだざます』
優香と由紀は、鳩部屋を後にすると、長く大変な仕事と心から思う体験をすべく、仕事へと向かっていった。