タイカンと二人旅の終わり
断崖絶壁の無人島。
一箇所だけ、何かを呼び込むように砂浜が広がっている。
草木が生い茂り、獣も多く住む。
少年は、獣を喰らい欲望を埋めていく。
『こいつも、、、ぼくじゃない、、、』
少年の傍らには、食い散らかされた獣が、何体も山となり積まれていた。
ざぷん。ざぷん。
月明かりと星だけを頼りに、船は進んでいく。
『元気!モンゴ!元気!モンゴ!』
『モンゴさん、その掛け声はなんだい?』
『タイカン!これは元気の印!モンゴの印!』
『おおー。いいですね。元気の印ですか!私も一緒に言っても?』
『タイカン!いいぞ!それは元気だ!凄く元気だ!』
『元気!モンゴ!元気!モンゴ!』
『さあ!ベンテンも!一緒に元気!一緒元気!』
『は、はあ、、、ゲンキ、、モンゴ、、』
(あかん、、、発狂しそうやわ、、、阿呆の割合高すぎる。)
その後と夜通し、「ゲンキモンゴ」が続いていく、
翌日の夕刻に、【ナーラン】に帰港した。予定を上回る早さで到着できたので、馬車が来ていなかった。
『タイカン殿、今日はここで泊まりましょ。』
『そうですね。流石に疲れましたね。』
『おう!二人とも元気に無事に到着した!到着元気!』
『モンゴさん、ありがとうございました。お陰で、かなり早く着く事ができましたよ。』
『気にするな!海に行くならまた声を掛けろ!海元気!』
『はい!海元気!』
『元気!モンゴ!』
『元気!モンゴ!』
『はあ、、もうええっちゅうねん。』
『ベンテンさん?』
『いや、宿に行きますよぉ〜。』
【ナーラン】には、商人達が使う宿が数箇所ある。
海を越えてきた者や、戻る船を待つ者などが利用していた。今日は、そこで泊まる事になる。宿には、食事を取れる場所も併設されている。
『すんません。二人いけます?』
『いらっしゃいませ。お二人ですね、、、ご一緒の部屋なら空いてますが、宜しいですか?』
『ええ、構いません。頼みますわ。』
『それでは、8000シンカです。』
『あ、ベンテンさん。私、出しますよ。』
『あー、気にせんで下さい。大丈夫ですから。』
(経費でどんどん落としたんねん!食事代も、ばんばん使ったる!どんだけ、しんどい思いしたか。こんぐらい、ばちも当たらんわ。)
(ベンテンさんには、世話になりっぱなしだな。気前も良いし、同世代とは思えない。大人だなあ)
『では、お言葉に甘えて。ありがとうございます。』
『ほな、荷物置いたら、ご飯にしましょか。』
『ええ。お腹空きましたね。』
その後は、たらふく食事と酒を楽しんだ。
食事代を払おうとしたが、頑として譲らずベンテンが支払いを済ませてくれた。万を超える支払いだったが、気前よく支払ってくれた。
(格好いい人だな。ベンテンさんを見習わなければ。)
(飯で5万て、、、、どないしよ。調子に乗って、呑みすぎた。ナガラさんに、しばかられるかもしれへん、、、。)
『格好いいなあ。』
『、、、何か言いました?』
『いえ、何でもないです。ごちそうさまでした。』
『は、はは。気にせんで下さい、、はは。』
ほとんど不眠不休で戻り、満腹になった事も重なって、私達はすぐに熟睡できた。
ベンテンは、夢の中でナガラに滅茶苦茶怒られていた。
『う〜、、、すんまへん、、、う〜、、、すまん元気、、、』
翌朝、馬車が迎えに来ている。屋形の上に、チノワを括り付けゆっくりと、慎重に城へと戻る。
『疾風怒濤の3日間でしたなぁ。』
『確かにそうですね。自然を楽しむ余裕もありませんでした。』
『タイカン殿は、島に戻りませんの?』
『え?帰るということですか?』
『あ、いやそうやなくて、偶に戻ったりせんのかなと。』
『戻りたくない訳ではないですが、ここで新しい体験が出来る事が楽しいんでしょうね。あまり考えてませんでした。』
『そうですかぁ。』
『ベンテンさんは、この辺りの出身なんですよね?』
『ええ。そうですよ。エビスもおんなじで、幼馴染ですわ。』
『そうだったんですか?それで、仲も良いんですね。』
『腐れ縁ですよ。』
『本当に、まだまだ知らない事ばかりです。』
『こんな話しやったら、なんぼでもありますよ。いつでも、聞いて下さい。喜んで話しますわ。』
『ははは。ありがとうございます。』
『そうだ、気になっていたんですが、良いですか?』
『なんです?エビスの弱点ですか?』
『ははは。弱点まで知ってるんですか?いや、それでは無いのですが、親方様の御父上の事で。』
『先代ですか?何です?』
『いや、どちらに居られるのかなと。まだご挨拶出来て無かったもので。』
『あ〜、、、』
『もしかして、ご顕在では無いのですか?』
『え?いや、生きてますよ。御存命ですよ。』
『良かった。10年程前は御父上が、国王だったとヒミコの話しで聞いてはいたのですが、それからの事は聞く機会も無かったもので。』
『そうやね。親方様が継がれて、もう5年ぐらいですかね。そう思うと早いですわぁ。』
『それで、御父上は?』
『城に居りますよ。と言っても、ほとんど自室に閉じこもっておられますが。』
『ご病気とか?』
『いやいや、元気に生きてます。侍女達が面倒くさがる程、元気ですわ。』
『まあ、お元気であれば、折を見てご挨拶したいですね。』
『そうですな。また、そういう機会もあるんちゃいますか。先代も珍しいもん好きですし。』
知りたい事、会いたい人が多くなればなる程に、望郷の念は薄れていく。好奇心に満ちている証拠なのだろうか。
それでも、いつかはこの旅路の事を、長と語らいたいなと思っている。
豊穣の祭りを目前に控え、城下町は賑やかだ。