タイカンとミカノとウル
【特級】はミカノを加えて、再び5人になった。
内気なヨハネも、ミカノの明るさが功を奏したのか、一人で日陰の長椅子に行く事はなくなっていた。
やいのやいのと言うルカに先導され、ミカノの教えが彼等を変えていく。
『ウル?あれ?みんな、ウルを見なかったかい?』
『えー。しらないよ。』『みてない。』
『さっき迄いたのにな、、何処か一人で遊んでいるのかな?本当、不思議な子だよ。』
『せんせー。みてー。』
『はーい。ちょっと待っててねぇ。』
人気の無い稽古場の裏。手入れもされず、雑草が伸びていた。稽古場からは、【特級】の5人の声がする。
ウルは、一人でこの場所を訪れていた。【初級】にいると、何故か無性に苛立ってしまう。宛もなく、ただ歩いていたら辿り着いただけの場所。
『ぼくは、、ウル。ぼくは、何処からきたの?』
夕方になると、【初級】に通う子供達は、迎えに来た親と一緒に帰っていく。今日は、こんな事をした。誰と遊んだ。そんな話しを楽しそうにしている。
宿舎で寝泊まりしているのは、【初級】ではウルだけだった。宿舎に戻っても、話す相手はいない。
稽古場の裏手で、何をする訳でもなく雑草を眺めていた。
『ここは、、なんだか、、、騒がしいな。』
バタン。バタン。
稽古場では、マタマルの二人が交互に飛び跳ねている。恒例行事だ。
『もう!煩いわね!埃が舞うからやめてよ!』
『あははは!やめないよぉ』『やめないよぉ』
バタン。バタン。
『もう!ミカノ、そこの扉開けてよ!埃が凄いんだから!言わなくても、分かるでしょ!』
『なんだよぉ。なんで、ぼくが怒られるんだよ。』
稽古場には、普段は全く使用していない裏口がある。
ぎ、ぎぃ、ぎぎぎぃ。
『か、かたいなぁ、、、えいっ!』
ばんっと勢いよく開いた。
『うわあっ。』
『え?』
扉が開く音に驚いて、ウルが転んでいた。
『あ、ごめんなさい。当たっちゃった?』
『、、、ううん。驚いただけ。』
『そっかぁ。良かったよぉ。でも、驚かしてごめんね。』
ミカノは、ウルの手を取り起こした。
『ぼくは、ミカノ。きみの名前は?』
『、、、ウル。』
『ウルか。うん!おぼえたよ。よろしくね、ウル。』
『、、、。』
『ミカノ!何やってんのよ!こっち来て、マタマルを止めなさいよ!』
『もう、、、ルカは、凄くうるさいんだよ。』
『、、、。』
『そうだ!ウル、一緒に遊ぼう!』
『え?、、、なんで。』
『なんで?、、、分かんない。でも、遊ぼう!行くよ!』
ミカノは、ウルの手を取ったまま走った。
『ちょ、、、待って、、危ない、、ミカノくん。』
『えー?なにぃ?』
『ミカノくん、、待って。』
『ミカノでいいよ!ウル!』
『ちが、、そうじゃなく、、て。』
ミカノは、ルカから逃げようと全力で走っている。ウルは、腕が千切れてしまうのかと不安になる程、引っ張られていた。
『ここまで、来たら大丈夫だろう!』
ミカノとウルは、書庫がある部屋の外まで来ていた。ここは、ガワラとヒミコが通っている書庫だ。
『はあ、はあ、はあ。ミカノ、、くん、、危ない。』
『だからあ。ミカノでいいって。』
『はあ、はあ。ミカノ、、、』
『うん!なに?ウル。』
『う、う、、』
『え?なに?う?なに?』
『、、、う、う、腕が千切れるかと思ったよ!』
ウルは、大きな声で怒った。
『腕?あははははは。ウルは、大げさだなぁ。』
ミカノが、余りにも大笑いする為釣られて笑う。
『ぷっ、ふふふ。わ、笑うなよ、、ふふふ。』
『だって、ウルが大げさに言うからぁ。』
特別な宿舎にある書庫。
『あら?子供の笑い声が、、あっ見つけた。ガワラさ〜ん。ここにも在りましたぁ。』
『ん。』
ヒミコが【伝説】【光のキミ】【至宝】【石板】などの言葉を探していく。まずは、背表紙に載っているものから。成果が無ければ、今度は本の中身にそれらの言葉を見つけていく。途方もない作業だった。
『ふう、、、重い。先が見えない。』
『ヒミコ。大丈夫。休むんよ。いいんよ。』
『ガワラさん。ありがとうございます。大丈夫ですよ。』
『ヒミコ。無理。ダメなんよ。寝るんよ。』
『ガワラさん、優しいんですね。』
『ん。優しいんよ。ヒミコ。優しいんよ。』
『ふふふ。紅茶でも淹れましょうか?』
『ん。飲むんよ。嬉しいんよ。』
『はい。飲んだら、どんどん運びますね!』
書庫の外では、走って笑って疲れた二人が並んで座っていた。
『へえ。ウルは【初級】っていう所にいるんだねぇ。』
『うん、、、。』
『楽しい?』
『、、、ううん。』
『そうなんだね。楽しくない所か。いなきゃダメなの?』
『え?』
『楽しくないのに、いなきゃダメなの?』
『、、、行くとこないし。』
『じゃあ、ここに来ればいいよ。』
『え?何処?』
『ぼくの所だよ。また、遊ぼうよ!』
『遊ぶって、走っただけじゃん。』
『あははは。でも、楽しかったよ!ウルは?嫌?』
『い、嫌じゃないけど。』
『じゃあ、とりあえずサクヤに話してみるよ!それ迄は、そっちでガマンできるでしょ?』
『え?何のこと?』
『だからあ、ぼくのとこに来ること!』
『え?なんで?決まってるの?ぼく、何もお願いしてないよ。』
『あはははは。ウルは、面白いね。』
『え?何??』
ミカノは、誰の影響なのか、それとも天性のものなのか兎に角、思ったらそのまま行動する。煌めくものを見つけたら、ずっとそればかり考える。ミカノは、ウルに煌めくものを感じたのかも知れない。
ゆらりゆらり
『雲の上は、涼しいねぇ。』
ゆらりゆらり
『あら?何か懐かしい匂いがしたような、、、。気のせい、、かな?まあ、マスターの事以外は些末ですねぇ。