タイカンと調べ物の事
【精霊舎】の書庫には、精霊に関する書物だけではなく、国の歴史や文化などを研究しまとめた書物も、大切に保管されている。城の中にも書物を収納している部屋があるが、ここの比ではない。
所蔵された中には、いつ頃書かれた物なのか、誰により記されたものなのか、出所不明の書物まである。
教員達も書物を探しに来るが、精霊の力について書かれたものを持ち出すばかりで、ほとんどの書物は、開かれず手付かずのまま陳列されていた。
ガワラが求める書物もこの中にあるのだろうが、ガワラが夢中になっているのは、もはやサクヤのみだった。
『精霊様。なんよ。精霊様』
『そうですよ、ガワラさん。先程からそればかりですが。』
『ガワラ。いいんよ。ガワラ。なんよ。』
『え?なんですか?』
『ヴリトラ。話すんよ。ガワラ。なんよ。』
『私は、キミの言葉を伝える役目は、担っていないのだがね。仕方ないね。』
『あら、ヴリトラも分かるの?』
『そうさ。キミ達よりも思慮深く生きているからね。』
『御託はいいから、早く教えなさいよ。』
『はぁ、、、キミに、ガワラと呼んで欲しいみたいだよ。』
『あら、そうなの?ガワラね。分かったわ。』
『ガワラ。精霊様。好きなんよ。精霊様。いるんよ。』
そんな調子で、長椅子から離れないガワラだった。
『も〜。ガワラ〜、石板読むんでしょ〜。』
『ん。読むんよ。待つんよ。精霊様。なんよ。』
『ガワラ、石板って何の事なの?』
『ん。伝説なんよ。石板。見つかるんよ。』
サクヤは、ガワラの単語になかなか付いていけない。
『ちょっと、ヴリトラ!』
『はぁ、、、私達が探している至宝の在り処が、石板に記してあるのだよ。それをガワラが読み解く為に、ここに来たのだよ。』
『あなた達が、探している?至宝?』
『ん。伝説なんよ。【深淵】なんよ。探すんよ。』
サクヤは【深淵】という単語を聞き、私にゆっくりと視線を合わせた。
『タイカン、そんな話し初めて聞いたんだけど。』
サクヤの厳しい視線が、私を突き刺している。
隠していた訳ではないが、ついつい言いそびれていた。
『いや、あの黙っているつもりは無かったんだよ。』
『じゃあ何?私を抜きにして、何を探してるの?』
私は、ベンテンが話した【光のキミ】の伝説と、四種の至宝、私の【深淵】の剣について話しをした。偶然にも【トリト】の依頼と、ガワラの行方が重なった事で今に至る事を説明した。
『もう。ちゃんと話してよね。』
『ごめんよ。本当に、言いそびれただけなんだよ。』
『まあ、いいわ。それで、見つけてどうするの?』
『え、、、』
『だから、見つけてどうするのって聞いてるんだけど?』
私は、ミカノやヴリトラ、ヒミコを見た。
皆、口を真一文字にし、『?』が顔に浮かんでいる。
『嘘でしょ?そんなお伽話しのような物を探すのに、見つけてどうするのか決まってないの?ヒミコさんも、おんなじなの?』
初めて見たのかもしれない。ヒミコが、目を泳がせておどおどしている。
『その、、、何と言いますか。集めると、、その、、いい事あるのかなって、、、』
ヒミコが絞り出した答えに、援護射撃。
『そ、そうだよ。伝説だし。何かいい事ありそうだろ?』
『サク、きっと、いい事あるんだよ!』
『はぁ、、、ヴリトラもそんな感じなの?』
『、、、、、マスターの仰せの通りに。』
『はぁ、、、もういいわ。それで、ガワラはここで調べるのね?』
『ん。調べるんよ。読むんよ。』
『それ、時間掛かるんじゃないの?』
『ん。読むんよ。全部。読むんよ。』
『それじゃ、私の部屋で一緒に寝泊まりすればいいわ。』
『な、な、な、なんね?精霊様。一緒?』
『そうよ。読み解くまで、そうしましょう。他に行くところがあるなら、それでもいいわよ。』
『無いんよ。一緒。寝るんよ。』
『じゃあ、決まりね。ミカノ達はどうするの?』
『ぼくも、ここで勉強したい!』
『あ、そうね。そんな話ししていたわね。センジュさんが良いと言うなら、それも良いわね。じゃあ、ヴリトラも一緒って事かしら?』
『無論だよ。私は、マスターのお側を離れるつもりはないからね。私の敬愛する、、、』
『あーはいはい。分かったから。ヴリトラの事もセンジュさんに聞いておくわ。』
『それじゃ、タイカンとヒミコさんは戻って、この事親方様に伝えておいてね。』
『はい。分かりました。』
この場を取り仕切るサクヤに、私達は頷くしかなかった。
『今日は、折角揃ったんだし、全員で宴会よ!ガワラも本を読むのは明日からにしなさい。』
『ん。宴会。行くんよ。』
ガワラが、素直にサクヤの言う事を聞いていた。精霊様の威光の凄さをここでも痛感する。
センジュは、全てを快諾した。それだけではなく、今の宿舎に専属の侍女を付けてはという事で、ヒミコまで【精霊舎】に滞在する事になった。どうしてだろうか、誰も私を誘ってはくれない。落ち込んでいても仕方ないので、センジュが用意してくれる宴会を楽しもうと思う。
『タイカン様、親方様への言伝を押し付けたような形になってしまい、申し訳ございません。』
『ははは、、はは。全然、大丈夫ですよ。お気になさらず。でも、荷物とかは取りに戻らないんですか?』
『その辺りも、センジュ様がご手配頂くという事でしたので、タイカン様のお荷物以外は、こちらに移動されるそうです。』
『そ、そうですかぁ。私以外の、、そうですよね。それは、良かった。何よりですね。はは、、。』
既に、荷物の段取りまで組まれている。確かに、私がここにいたとしてもやれる事はない。精霊の力も具現化できる訳ではない。しかし、力仕事など雑用はあるのではないだろうか。いや、やめておこう。断われた時が一番辛い。
(親方様に伝えて、、、何をしようか、、、。)
私が考えを巡らせている間にも、着々と宴会の準備は進み、気付けば楽しそうに旅の話しをしている。
私だって、沢山の思い出があるのだが、、、。
ガワラも打ち解けている様子で、サクヤに対する緊張は、大分取れていた。今は、サクヤの膝の上に座りご飯を食べている。失神していた、数時間前が嘘のようだった。