タイカンとガワラの出会い
『うわぁ〜。ここで、みんな勉強してるんだぁ〜。』
ミカノは初めて見る学び舎に興奮していた。友達と遊ぶ事はあったが、共に学ぶという機会が無かったからだ。
学徒達も、私達一行に興奮している。
城下町から通学する子供にとっては有名な、銀髪に蒼い顔のヴリトラがいるからだろう。知らぬ間に露店で販売されていた、ヴリトラの刺繍が入った鞄を持つ子供もいた。
ガワラは、相変わらず扇を崩さない。
【精霊舎】の責任者である、センジュの部屋へと向かう。
途中まで、教員や学徒達が案内をしてくれた。
『タイカン様、こちらですね。』
コンコンコン
『センジュさん、居られますか?』
『はいはい。開いてますんで、どうぞ。』
中に入ると整髪された白髪混じりの紳士が座っていた。
『初めまして、タイカンです。』
『おお〜。あなたが、タイカン殿ですか!お噂はかねがね伺っておったんですよ。お会いできて光栄です!ここの責任者のセンジュです。どうぞお座り下さい。という事は、そちらはミカノ殿に銀髪のヴリトラさんですな~。いやぁ有名な方ばかりだ。』
『あの、初めまして。皆様のお世話をしています侍女のヒミコです。』
『あらヒミコさん?もしかして、鍛冶屋のお嬢かい?いやぁ立派になったねぇ。私、お父上の刀を何本も持っていますよ!これはこれは、侍女まで有名人とは。』
ガワラは、私の後ろで隠れている。一旦座ってから話しをするとしよう。
『タイカン殿、こんな大勢で今日はどうしたんですか?』
『あの、こちらのガワラさんがですね。所蔵されている書物を読ませて欲しいと言ってまして。ほら、挨拶して。』
『ん。読むんよ。』
『ガワラさん、違いますよ。挨拶するんです。』
『ガワラさん?あれ?あの変人ガワラですか?』
『センジュさんもご存知ですか?ガワラさんの事。』
『ええ、ええ。知ってるも何も、ガワラも有名ですよ。最年少で文官に抜擢された、神童でしたから。』
『神童ですか、、、ガワラさんが。』
『あはははは。そういう反応にもなりますよね。当時の皆も同じようになっていましたよ。何せ賢い子だったんだけど、兎に角何を考えているのか、全く分からない子だったんでね。』
『そうでしたか、、、。』
『キミ、長い挨拶や紹介が続いている所悪いが、ガワラが書物を読みたいというのは、了承してくれるのかい?』
『ヴリトラさん、勿論ですよ。皆様のお連れ様だし、元々知った顔。好きに見て下さい。』
『安心したよ。これで、私達は開放されるんだね。』
『あはははは。銀髪のヴリトラさんも困らせるとは、流石変人ガワラだな。あはははは。』
『なんね。変人。違うんよ。』
ガワラは、私の後ろで隠れたまま文句を言っている。
大きな声で笑うセンジュが、苦手なのだろう。
『センジュさん、早速書物が保管されている所に、ガワラさんを連れて行きたいのですが。』
『そうですか、分かりました。それでは、ご案内しましょう。さっどうぞどうぞ。』
センジュに連れられ、私達は書庫へと向かった。
廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえる。
『ミカノーーー!!おかえりーーー』
その声に、ミカノが反応する。
『サク?サクの声だっ!』
振り返ると、サクヤが走って私達の方に向かって来ていた。二人共、再会を喜んでいる。
『サク、ただいま!』
『楽しかった?』
『うん!凄く楽しかったよ。』
『良かったわねぇ。』
ミカノの表情が物語っているのか、サクヤは細かな事は聞かずに、旅が良い経験となったのだと感じていた。
『あら?タイカンの後ろに隠れてる赤帽子は何かしら?』
ひょこひょこと顔を出すガワラ。
『あぁ。エビスと同期でね。【トリト】で、出会ったんだ。ここの書物を読みたいと言って、一緒に帰ってきたんだよ。ほら、ガワラさん。怖くないですから。』
ひょこひょこ顔を出すガワラ。
『エビスと同期?へえ。こんな小さいのに?こんにちは、ガワラさん。サクヤです、宜しくね。』
『ん。』
『可愛いわねぇ。』
『あはははは。変人ガワラも、精霊様に緊張しているのか?あはははは。』
私は、精霊と言ってしまったセンジュの腕を取る。
『センジュさん、精霊だという事は秘密ですよ!』
『あ、、、しまった、、、。聞こえてましたかね?』
『ん。ん?』
『あら、どうしたの?ガワラさん、私の顔に何か付いてるかしら?』
ガワラは、サクヤの顔をじっと見ている。
『ん?精霊様。ん?サクヤ。ん?』
サクヤは、聞こえてしまったものは仕方ないと、正体を告げる。
『そうよ。精霊のサクヤです、宜しくね。』
『んーーーーー。』
『ど、どうしたの!ガ、ガワラさん?』
ガワラは、サクヤが精霊だと聞いた途端に混乱し、目の前の出来事が処理しきれずに、立ったまま失神した。
『、、、、ガワラ?大丈夫かい?私のせいかな??』
失神するガワラを抱えて、とりあえず書庫に行った。
センジュは、気まずいのか仕事を思い出したと、慌てて部屋へと戻っていった。
とりあえず書庫に入った。至る所に本が並べられている。天井迄届く棚、狭い通路にも本が積まれていた。
私達は、その物量に圧倒されていた。
『ん。うーん。』
『あ、ガワラさん気が付きましたか?』
『ん。タイカン。夢。見たんよ。』
『夢ですか?』
『ん。精霊様。いたんよ。』
『呼んだ?ガワラさん?』
サクヤが、私の腕の中にいるガワラに声を掛けた。
『ん?んーーーーー!』
『待って、ガワラさん!待って失神しないで!』
私は必死にガワラを揺らして、現実に引き戻す。
『な、な、な、なんね!夢。違うんよ。タイカン。』
『そ、そうですよ、ガワラさん。現実ですよ。』
『そんなに、驚かれるなんて思ってなくて、ごめんなさいね。大丈夫ですか?ガワラさん。』
『せ、精霊様。話すんよ。ガ、ガワラ。話すんよ。』
『そうですよ。サクヤが話してますよ。』
『せ、精霊様。ガワラ。なんよ。』
『そうですね。ガワラさんの名前も覚えて貰いましょう。既に覚えて貰ってますがね。』
『ん。』
『タイカン、凄いわね。』
『え?何が?』
『その何ていうか、会話できてるから。』
『あ〜。慣れだね、、、。ははは。』
『ガワラさん、そろそろ降りてくれませんか?』
『ん。まだなんよ。』
『え?まだですか。もうサクヤにも慣れたでしょう?』
『慣れないんよ。精霊様なんよ。ガワラ。好きなんよ。』
『サクヤの事が好きなら、尚更降りて話しをしてはどうですか?』
『違うんよ。失礼なんよ。ガワラ。』
『ふふふ。ガワラさん、気にしないで下さい。そんな風に思ってませんよ。こちらで、お話しましょう。』
サクヤは、部屋にある長椅子にガワラを誘った。
『光栄なんよ。ガワラ。座るんよ。』
『良かったですね、ガワラさん。』
『ん。タイカン。座るんよ。早く。早く。座るんよ。』
『はいはい。分かりましたよ。降りて歩けばいいじゃないですか。』
『震えよるんよ。歩けないんよ。早く。座るんよ。』
ガワラは、サクヤの横にちょこんと座り身体を密着させている。何を話す訳でもなく、赤帽子を目深に被り直して、恥ずかしそうにしながら、もの凄く密着している。
『精霊様って、やっぱり凄いんだな。』
『そうですねぇ。サクヤさんの凄さを改めて感じています。あのガワラさんが、あんなに大人しいなんて。』
『私もヒミコさんも、振り回されましたもんね。』
『そうですねぇ。振り回されましたねぇ。』