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タイカンとサクヤと特級の子

サクヤは【特級】の5人と過ごす事が多くなっていた。

変温という特殊な体質は、力を具現化する最初の一歩になるという研究は、正しいようだ。

サクヤが彼等に内側で力を練る事を伝えてから、双子のマタイとマルコ、おませなルカは、具現化迄はいかないものの、身体能力は飛躍的に伸びていた。


この日サクヤが稽古場に姿を現す前から、稽古場は盛り上がっていた。


ばんっ!ばんっ!

跳ね髪のマルコが屋内稽古場で、飛び跳ねている。

とは言っても、建物の中腹ぐらいまで飛び上がっている。

『わははは〜。高〜い!』

『おれだって、出来るぞぉ~』

マタイも負けじと、同じ高さ迄飛び上がる。

『わははは〜』『どうだぁ〜』


ぶんっぶんっ。

『もうバカな二人ね。飛んでばっかり。』

ルカは、大人用に作られた大槌を片手で振り回しながら、マタイとマルコが飛び跳ねているのを、呆れて見ていた。


『凄いな、、、』3人を稽古場の隅で見つめるロゴスがいた。


教員がロゴスの様子を見ていた。

『ロゴス、大丈夫さ。きっと出来るようになる。サクヤさんも言ってたじゃないか。力の出し方に癖が付いている方が、練る事は難しいんだよ。ロゴスは、ここへ来て8年経つんだ。あの子達より、少し癖付いているだけだよ。』

『、、、はい。ありがとうございます。』

ロゴスは、慰めを嫌うように稽古場の隅に座り、内側に流れる力と向き合い始めた。


『ロゴス、、、』

教員は、不安に思っていた。長く在席が出来るとはいえ、【精霊舎】に在席できるのは10年。ロゴスは、8年間具現化に成功していない事になる。しかし、ムーデが卒業して以来具現化出来た者がいないのも事実であった。


力と向き合うロゴスには、憧れる者がいる。

ロゴスが精霊舎に来た7歳の頃に、ムーデの美しく強い炎を見た事で目標にしてきたのだ。ムーデが片腕を失ったと聞いた時は、我が事のように泣いていたという。 


精霊舎の広場の隅に長椅子が何脚か置いてある。建物の屋根の影で日陰になっていて、気温が高い日などは人気のある休息の場だった。それは、もう一人の【特級】の子にとっても好きな場所である。内気なヨハネは、稽古場から抜け出しては、ここに座っている事が多い。皆と過ごしていると、緊張してしまうらしい。


サクヤが、宿舎から稽古場に向かう。

歩いていると、日陰の長椅子に座るヨハネを見つけた。ミカノと同じような背丈の男の子という事もあり、気になっていた。サクヤは稽古場に行かず、ヨハネにそっと近づいていく。

『ここ、座っていい?』

ヨハネは振り返るとサクヤを見てすぐに視線を戻した。

『ん。』

『ありがとう。はあ。涼しいわね。いい場所。』

ヨハネの隣に座り、大きな独り言を呟いた。ヨハネは、静かに下を向いている。

『そうだ。これ食べる?さっき、センジュさんから貰ったのよ。』

紙の小袋に入った砂糖菓子をヨハネに見せた。

『ん。』

『はい、どうぞ。私は太っちゃうからあげるわ。』

『やせてる。』

『なに?』

『やせてる、、と思うよ。』

『そう?ありがとね。でも、それはあげるわ。食べて。』

『あ、ありがと。』


ヨハネはサクヤに貰った砂糖菓子を頬張ると可愛らしい笑顔を浮かべていた。

サクヤは気付いている事があった。

『ヨハネ、あなた力を使えるのよね?』

『、、、』

ヨハネの顔から笑顔が消えて曇っている。

『大丈夫よ。勝手に、言ったりしないから。』

『、、、』


サクヤが力を練る事を教えた時に、ヨハネだけは疑問を持つ事もなく、すっと目を閉じていた。


『力を使うのが怖い?』

サクヤの問いかけに、首を横に振っている。

『そっか、それなら良いんだけど。でも何で使える事、誰にも言わないの?』


ヨハネは、【精霊舎】に来て、まだ一年と経っていない。

孤児だったヨハネは、育ててくれた孤児院の勧めで、【精霊舎】に通う事になったらしい。そこの院長は、ヨハネの特別な力に気付いていたのかもしれない。


入って早々、体温を変えてみろと言われ、変えたら驚かれ気付けば【特級】に入れられた。年上の子達ばかりで、緊張してしまい会話に入る事もできなかった。

【特級】を抜けては日陰の長椅子に座り、一人でいつもの遊びをしていた。

誰もいない広場に向かい、「ふっ」と息を吹く。

ヨハネの口から出た息は、小さな渦を作り広場の砂を巻き上げる。一度に何個作れるか、どれだけ長持ちできるかなどと一人遊びをしていた。


サクヤが来た日、ヨハネはその力を見て驚いたが、同時に風で巻き上げた砂でも作れるのかなと興味が湧いていた。

しかし、サクヤの作る立像を見て泣いている教員に気付くと、その考えをやめてしまった。

「また、何処かに連れて行かれるのかもしれない。」

不思議な力があるから、孤児院も追い出されたし、年上しかいない【特級】に連れて来られた。

ヨハネは、そう思っていた。周囲の大人達は、ヨハネの年齢ではなく、その能力だけに目を向けてしまっていた。


『見てヨハネ。』

サクヤがヨハネに見せたのは、小さな立像だった。

日陰の長椅子の側に、親指程の小さなヨハネを土で造って見せた。ヨハネの顔に笑顔が戻る。


『使いたくないなら、使わなくて良いのよ。』

そう言って、センジュや教員、ロゴス、マタイとマルコ、ルカを次々に造って見せた。

『どう?似てるでしょ。想像するの。どんな顔だったかなぁ?どんな服来てかなぁ?笑ったらこんな顔かなぁ?そうやって、造ってるのよ。』

ヨハネは、『ふっ』と砂に向かい息を吹きかけた。

小さな渦が砂を巻き上げる。巻き上がった砂が渦の外に広がっていく。徐々に渦の形が変わる。

『せ、先生、見て。』

『見てるわよ。うふふ。可愛いじゃない。』

ヨハネが風の渦と砂で造ったのは、笑顔のサクヤだった。


力を具現化できる者は、この国では二人だけだった。ダイコクとムーデ。しかし、ここに小さな精霊使いがいる。

サクヤは、ヨハネが自ら言わない限り、黙っている事にした。まだ幼い子供だから、周りを気にせずに、好きな事に熱中して欲しいと考えていた。


土と風と砂で造られた立像は、全て笑顔だった。

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