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タイカンとサクヤの力の思い

【精霊舎】に轟いた雄叫びは、学徒と教員の心の叫びだった。まだやれるんだ。まだ終わらないんだ。希望は続くんだと心の叫びが溢れていた。


その夜、サクヤの寝泊まりする宿舎には、教員が入れ代わり立ち代わり涙を流しながら感謝を伝えにきた。

センジュは、眠い目を擦るサクヤなどお構い無しに、側で泣き続けていた。


やり過ぎてしまったという後悔はもう遅い。

翌日からは、学徒達から囲まれるのだから。


翌朝から、学徒達の話題はサクヤの話しで溢れていた。


『いやあ。反響が凄いですねぇ〜。』

『こんなにも騒ぎになるなんて。ごめんなさいね。』

『何を仰っているんですか?精霊様のお陰で、私達は希望を持ち直す事が出来たんです。』

『そうであれば良いのですが。少しやり過ぎてしまった気もします。』

『やり過ぎだなんて、思わないで下さいよ。いやぁあの立像の雄々しさは、まさに兄そのものでした。』


『センジュさん、今日は自由に回ってもいいかしら?』

『ええ、勿論ですよ。精霊様の気の赴くままに、学徒達と触れ合ってくださいませ。』


サクヤは、学徒達が講義や実技、訓練を受ける様子を遠目から眺めていた。サクヤに気付いた学徒達は、それぞれが持てる力を誇示しようと、いつも以上に張り切っていた。


微笑ましい光景に、ミカノとの思い出が重なっていた。


『よしっ!やりますか!』


そう自分に言い聞かせ、【初級】の子供達からゆっくりとしっかり見て回った。


一日見て回り、学徒達が休憩の時間は共に語らった。

その中で、サクヤは改めて気が付いた。学徒達は英雄に憧れ、ダイコクやムーデのように親方様の側で、力を発揮したいという思いが強い。

いざ戦が始まり戦場に出てしまえば、ムーデのような生涯残る深手を負う事もある。フクジュのように、無惨な最期を迎えるかもしれない。

助言する事で、そういう場所に送り込んでしまうという恐怖や、不安も同時に気付いてしまう。


宿舎に戻るのをやめ、学舎の外周を歩く事にした。


『私がやろうとしている事は、正しい事なのかしら、、、。』


夕焼けで染まる城壁の側を歩く。悩みは頭の中で、繰り返し自分に問いかけている。


『あっ!精霊様!やっと見つけたわぁ。』

声を掛けられ振り向くと、エビスがそこにいた。

『エビス、どうしたんです?こんな所で』

『精霊様を探してたんですよ。』

『私に?ミカノ達に何かあったの?!』

『ちゃいます。船の編成が無事に終わりましたっちゅう報告と、上手いこと先生やってるかなと思いまして。』


『そうですか、、、。心配してくれてたのね。ありがとう。』

『心配やなんて。精霊様のやる事ですから、安心してますわ。さっきも、センジュさんから聞きましたよ。えらい反響があったみたいですやんか。』

『やり過ぎてしまったのかもね。少し歩きましょう。いいですか?』

『勿論、構いませんよ。』


静かな夕焼けの中を歩く。


『精霊様、何を考えてますんや?』

『えっ?』

『勘違いやったらすんません。何や、顔が曇っとるように見えまして。』

サクヤが大陸を訪れてから、最も長く接していたのは、エビスだった。船旅でも共に過ごした事で、サクヤの微妙な表情の変化に気付く事が出来た。


『エビス、力が欲しいですか?』

『力ですか?精霊のですか?、、、貰えるもんなら、欲しいですね。』

『その力がある事で、より激戦の中にいく事になっても、欲しいのですか?』

『そやねぇ、、、欲しいですね。』

『英雄になりたいの?』

『そりゃそうなれば、格好ええでしょうけど。ちゃいますよ。俺は、守りたいんですよ。』

『守る?』

『激戦区があるんでしょ?ほな、そこには誰かが行きますから。それやったら、俺が行きますよ。力で、激戦を終わらせて、それ以上傷付く者がいなくなるように守るんですよ。その場所でも、そこからの未来も守るんです。』


『、、、。』


『怖いですか?あそこの子らが戦場に行くこと。』

エビスは、サクヤの無言の意味も感じていた。


『、、、ええ。私が助言する事で、傷付かなくてもいい子供が傷付くかもしれない、、、。』


『ミカノくんの時も、そう思ってたんですか?』

『ミカノの時、、、いやそうは思っていなかったわ。』

『ほな、どう思ってたんです?精霊様の力を教えたり、タイカンから剣術を教えて貰うミカノくんの事。』


『それは、、自分の事を守れるようにと。』


周囲に商店や家屋がなく、静かな道に二人の足音と、城壁の内側から子供達の声が聞こえている。


『あの子らが大きくなった時に、隣国同士の争いや、この間の魔族みたいな事が無くなるよう頑張るのは、俺達大人がやるべき事やと思います。そやけど、もし無くならないならと最悪の事を考えるのも大人の役目やと思います。

今やらんと、こいつらが将来困るかもしれへん。今教えんと、こいつらが簡単に殺さてしまうかもしれへん。それやったら、守る為に俺は教えますし、戦います。』


『そうする事で、あの子達が救われると?』


『救われるかどうかは、正直分かりません。せやけど、そう信じて教えたる事は大切やと思います。ミカノくんが、真っ直ぐに、ミカノくんが思う正義の為に力を使ってるんは、精霊様やタイカンが、ミカノくんを救いたいとそう思って教えたからちゃいますか?』



『ふう疲れちゃったわ。戻りましょう。』

夕焼けを背負い、元の道へと歩みを進める。


『そうでんな。戻りましょ。』

『ありがとう、エビス。整理できたわ。』

『そうでっか。そりゃええ事しましたわ。ははは。』


サクヤは、エビスと話して頭の靄が取れた。


サクヤがどういう思いを大切にし、彼等に力を教えるのか。強い力は恐怖を生む。しかし、希望を抱かせる。

表裏一体の力は、伝えた者と使う者の大切な思いでどちらにも転がっていく。

サクヤは、自身が皆に見せたように、希望の為に使う力の助言をすると心に決めた。

迷いの無い眼差しに、エビスも安心していた。

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