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タイカンとガワラの分かること

【トリト】の特産品である蜂蜜は、自然の蜂の巣から採蜜しているのではなく、養蜂家が育てる蜂の蜜を集めている。毎年木々が紅葉する頃が、採蜜に適しているという。

年に一度という採蜜の希少性と、その濃厚な味わいから蜂蜜は高値で取引きが行われている。


【トリト】に滞在し、3日が経った。国の人達も、ブーンやヴリトラに驚く事も無くなった。

滞在中に、ミカノは同世代の子供達と仲良くなったようで、養蜂場の見学をしたり、川遊びをしたりと楽しくやっていた。この国には、【ケーハン】のような迎え火や送り火のような文化が無いようで、そこは残念に思う。


遠くない隣国とはいえ、その土地ごとに根付く文化は違うのだろう。時にそれが争いの火種になる事もある。

幸いにも、友好的な【トリト】の人達は、私達をすんなりと受け入れてくれていた。


木陰から、ブーンと遊ぶミカノとヴリトラを眺めている。


『ヒミコさん、穏やかな所ですね。』

『本当ですね。のんびりとこうしているのも、良いですね。坊っちゃんも楽しそうで、良かったです。』

『ふあ〜、、、ついつい、寝てしまいそうになりますが。』

『ふふふ。紅茶でも、お淹れしましょうか?』

『それは良いですね。お願いします。』


さささっ

『タイカン。分かったんよ。』

『うわぁっ!』

いつの間にか後ろにいたガワラに驚いた。

『な、な、なんね!お、大きい声。ダメなんよ!』

ガワラが急に背後に回ったからだと言いたいが、ぐっと我慢した。小柄な背格好なので、ついつい許してしまう。

『すまない。突然だったんでね。何か用かい?』

『言ったんよ。分かったんよ。』

『え?分かったって何がですか?』

『タイカン様、もしかして石板が読めたのでは?』

『え!ガワラさん、そうなんですか!?』

『分かったんよ。調べるんよ。読めるんよ。』

私はヒミコと手を合わせ喜んだ。

『ミカノーーー!ガワラさん、分かったんだって!』

遊ぶミカノ達に声を掛けた。

『お、お、大きい声。ダメなんよ!なんね!』


『ヴリトラ、聞こえた?』

『マスター、どうやらガワラとやらが、石板を読めたようですよ。行ってみましょう。』

『本当に!!』

ブーンを連れて、走って戻って来た。

『ガワラ、分かったんだ!早かったね!凄いよ!!』

『ん。分かるんよ。調べるんよ。読めるんよ。』

ミカノも私とヒミコが喜ぶ輪に入る。ブーンもつぶらな瞳をぱちぱちして、喜んでいる。


『マスター、歓天喜地のご様子の所、申し訳ございませんが宜しいでしょうか?』

ヴリトラが喜びの輪から、ミカノを離した。

『なに?どうしたの?』

『おそらく、タイカンとヒミコの早とちりかと思います。』

『何よ!あんたも聞いたでしょ!ガワラさん、分かったって言ってるじゃない!』

大きい声でヴリトラを責めるヒミコに、ガワラは驚いて失神しそうになっていた。

『そ、そうだよ。ねえガワラさん?』


『、、、ん。そ、そうなんよ。は、早いんよ。』


『、、、やはりそうでしたか。キミは、もう少し言葉を増やした方がいいね。そうしないと、愚かな者達が早とちりをした結果、マスターが悲しむ事になるんだから。』

『あんた愚かな者達って私達の事言ってるの!』

ガワラは、ヒミコとヴリトラを交互に目で追っていた。


『はぁ、、、キミ達以外にいるのかい?私の目には、間抜けな二人しか見えていないんだけれどね。』


『ねえ?じゃあ、まだ分かってないって事?』

『マスター、残念ですが。しかし、何処かで調べないと読めないという意味で話しているようですね。そうだろう?ガワラとやら。』

『ん。言ったんよ。調べるんよ。』

『そっか。でも、何処で調べるんだろう?もっと遠い所なのかな?それだと、一緒には行けないかも、、、』

『ん。学舎なんよ。行くんよ。』

『キミの言う、学舎は何処にあるんだい?』

『精霊なんよ。ケーハンなんよ。』


『えっ!ガ、ガワラさん、【ケーハン】って言いました?』

『ん。言ったんよ。なんね!』

ガワラはむすっとするが、ちゃんと聞かなければ、またヴリトラの皮肉を貰う事になる。


『タイカン様、精霊と学舎とケーハンという事は、サクヤさんの言っていた【精霊舎】ではないでしょうか?』

(そうかもしれないが、ここは慎重にしっかりと聞かなければ。)

『ガワラさん。それ。精霊舎。違いますか。精霊舎。』

『なんね?変なんよ。ちゃんと話すんよ。』

もう項垂れるしかなかった。

『すいません。それは、ケーハンにある精霊舎でしょうか?それで、あればご一緒に戻りますが?』

『ん。精霊舎。調べるんよ。行くんよ。』

『ヴリトラ、合っていたぞ!分かったぞ!!』


『はあ、、、タイカン、それが分かって、何が嬉しいんだい?あの精霊の所に行くだけじゃないか。』


ガワラが話す事を、ヴリトラに繋いでもらう。


ガワラが所蔵する書物だけでは、分からない事が多くあったが、私達がここへ来た事で【精霊舎】の事を思い出したようだ。【精霊舎】には、より古くから所蔵されている書物もあり、そこに行けば詳しく調べる事ができるらしい。

だから、私達と共に【ケーハン】に戻り、書物を読みたいそうだ。


『これで合っているかな?』

『ん。ヴリトラ優しいんよ。合っとるんよ。』

『あはははは。私が優しいのかい?タイカンとヒミコのお陰で、私の評価が上がったようだ。役に立つ事もあるんだね。あはははは。』

『ちょっとぉ!あんた、調子に乗らないでよぉ!』

『もう、ヴリトラやめなってぇ。仲良くしようよぉ。』


程なくして、首長の家に戻りガワラの同行を伝えた。

ガワラが家を空ける事は、珍しくなく。行き先が分かるだけ、心配はないと言う。早速、明日の朝に発つ事になった。とはいえ、道のりは長い。また7日掛けて戻るのだ。


サクヤ先生は驚くだろうか。また、一人増えてしまった。

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