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タイカンとガワラなんよ

大きな窪地の中にあった建物と思っていたものは、読めない文字が書かれた、石板だった。

そこには、小柄な赤帽子のガワラがいた。私達は、目的の一つであるガワラを発見できたのだ。


ガワラは、何度も失神を繰り返した。やっと慣れたのは、私達が夕食を食べ終えた、夜になってからだった。


『魔族なんよ。あんた。初めて見たんよ。』


『慣れてくれて良かったよ。キミの硬直する姿は、少し怖いからね。』

『悪くないんよ。あんたなんよ。悪いんよ。』

ミカノがガワラの側に寄り添っている。

『ガワラ、ごめんね。』

『ミカノはいいんよ。可愛いんよ。』


『あのぅ。ガワラさん、何か召し上がりますか?』

ヒミコは、ガワラにと残しておいた夕食の肉を見せた。

『いいのん?お腹空いとるんよ。』

『はい。ガワラさんに残しておいたものなので。』

さささっと、ヒミコの側に行きちょこんと座った。

『ヒミコ優しいんよ。』

ガワラはにっこりと笑ってヒミコを見ていた。

よっぽどお腹が空いていたのか、残しておいた肉を一気に掻き込んで食べ、満足そうな顔をしている。


『ガワラさん、いいかな?』

『げふっ、、いいんよ。なんね?お金ないんよ。』

『いえいえ、取りませんよ。聞きたい事がありまして。』

『げふっ、、なんね?』

『これ、何か分かりますか?』


私は【深淵】の証の付いた剣を目の前に置いた。

目深に被った赤帽子を、ぐいっと上げて凝視している。


『、、、なんね?』

『私の故郷で、見つけまして。その時、町の長から授けられたつるぎなんです。』

『、、、、【深淵】なんよ。』

『ご存知ですか?【深淵】の証。』

『ぷぴぴぴ。ぷぴぴぴ。』


奇妙な声を出している。


『ガワラさん?大丈夫ですか?』

『ぷぴぴぴ。なんね?大丈夫なんよ。あったんよ。やっぱりあったんよ。ぷぴぴぴ。』


『キミ、もしかして笑っているのかい?』

『え?』

ヴリトラの質問に驚いた私達はガワラを見る。そんな訳ないだろうと、皆の顔が言っている。

『なんね?笑ったんよ。』

皆、口には出さない。あの奇妙な声が笑い声だなんて。心の中はこうなっている。

(えええーーー!!!ぷぴってぇ!!!)


『いいんだよ。少し気になってしまってね。お話の続きを聞かせてくれるかな?』

『ないんよ。終わりなんよ。』


まさかの返答だった。

『ガワラさん、でも知っているんですよね?』

『知ってるんよ。【深淵】なんよ。』

『やっぱりあったと言いませんでしたか?』

『ん。なんね?』

『やっぱりと言ったのは、探していたからという訳ではないのですか?』

『違うんよ。あったんよ。やっぱりなんよ。』


難解だった。単純な言葉が並んでいるが、察しなければならないような、行間を読むような。誰か分かる者がいないだろうか。

ミカノもヒミコも、目が点になっている。もしかした、まだぷぴぴぴの笑い方で止まっているのかもしれない。


『キミは、伝説について調べていたんだね?手掛かりがなくて、困っている所に【深淵】が現れたんだね?』

『ん。』

『キミは、他の3つに関しても調べているんだね?』

『ん。石板なんよ。』

『そうか、ここに書いてあるんだね?キミは、これが読めるのかい?』

『あるんよ。ダメなんよ。』

『それは困ったね。全くかい?』

『読めるんよ。でもダメなんよ。でも読めるんよ。』


『マスター、途中までしか解読は出来ていないみたいですね。でも、時間が解決するかもしれませんよ。』


全員の拍手が、ヴリトラに向けられた。

『一体、どうしたんだい?急に拍手をするなんて、何かの儀式なのかい?』

『素晴らしい!ヴリトラ。お前がいて良かった。』

『タイカン、気持ち悪い事を言わないでくれるかな。』

『タイカン。変なんよ。』


何はともあれ、会話に成功した。ヴリトラの言うように、時間が解決するのなら、待つしかない。

元々の目的もある。まずは【トリト】を目指さなければ。依然として、書状の解決は全く進んでいない。

その夜は、ガワラも交えて野営をした。

相変わらず、ヴリトラが会話を繋いでくれているが、少し理解できるようになっていった。


泉の側で迎えた朝。

ヒミコが、澄んだ水で紅茶を淹れてくれている。

ガワラは、興味深く覗き込んでいる。ヒミコの真横で、身体を押し付けながら覗き込むものだから、ヒミコは困った様子だった。

『ガ、ガワラさん。熱いですから危ないので、少し離れてくれませんか?』

『見るんよ。いいんよ。匂いなんよ。』

『キミも虜になったんだね。良い感性を持っているよ。ヒミコの紅茶は、多幸感を与えてくれるのだよ。』

『ヒミコ優しいんよ。』

『あ、ありがとうございます。でも、離れて欲しいです。』


何とか紅茶を飲み終えた私達は、【トリト】へ向かう事をガワラに伝えた。石板を読み終えるには、かなりの時間を要するのだろうと思ったので、ここでお別れをした。

『ガワラさん、また近い内に来ますね。その時に石板を少しでも読み進める事が出来ていれば、嬉しいですが。』

『ん。』

『ガワラ、またね!』

『ん。』


ブーンの手綱を引き、改めて【トリト】を目指す事になった。ブーンも軽やかな足取りで進んでいる。


『ミカノ、多分だが、ガワラさんは年上じゃないかな?』

『え?なに?』

『いや、お前「ガワラ」って呼び捨てにしていたが、エビスの同期なんだから、年上だと思うぞ。』

『えー?本当に?ぼくと背変わらないよ。』

『背の低い大人もいるんだから、次に会ったらちゃんと「さん」を付けなさい。』

『えー、でも何も言われなかったし、、』


『いいんよ。ミカノ。可愛いんよ。ガワラ。いいんよ。』

『ほらぁ〜。ガワラも良いって言ってるよぉ』

『いやいや、ガワラさんが良いって、、、えっ!!』


ガワラは、ブーンの瘤の隙間にちょこんと座っている。

『な、何してるんですか?ガワラさん?』

『ん。【トリト】戻るんよ。』

『え?戻る?』

『ん。なんね?【トリト】行くんよ。』

『いや、あの、、石板の解読は?』

『ん。読めないんよ。【トリト】戻るんよ。読めるんよ。』


『そうなのかい?【トリト】に戻ってからなら、読めるようになる可能性が高くなるんだね。』

『ヴリトラ、そう言っているのか?』

『タイカン、それ以外の事を言っているなら、私に教えてくれないかい?馬鹿な事を言ってないで早く進もうか。』


ヴリトラが会話を繋いでくれるが、ヴリトラはヴリトラで、この皮肉がある。言葉足らずのガワラと、一言多いヴリトラの相性が良いのは、正直しんどいんよ。

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