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タイカンと砂漠の夜

夜風が冷たくひんやりとする砂漠の夜も5日目となると、慣れたものだ。足先が冷えぬよう、布をくるっと折り込んで上手く熱を滞留させる事が可能になっていた。


ガサガサ。

夜明け前のまだ深い時に、誰かが天幕から外へ出る。

(外は寒いだろうに、、、誰かな、、、)

私は気になり、眠い目を擦り外へ出る。


ゆらりゆらり

砂煙が収まり、美しい月夜にヴリトラが浮いている。


ざっざっざっ。私の足音が静かな夜に響いた。


『ん?起こしてしまったかな。』

『いや、構わないさ。ヴリトラは、眠れないのか?』

『私達【神徒】は、眠りが浅いのだよ。』

『そういうものか。いつもそうして、一人で月を見ていたのか?』

『そう。マスターが、起きるまではこうしているんだよ。でも、そんな風に聞かないでおくれよ。今日はマスターと、何を話そう、何を聞こう、何を食べよう、そんな事を考えているんだ。この時間は退屈なものではないさ。』

『ヴリトラは、本当にミカノをよく見てくれているな。』

『私の敬愛するお方だからね。』

首飾りを手にし微笑んでいる。

私は、ヴリトラに抱いていた思いをぶつけてみた。

この透き通るような星空が、そうさせたのかも知れない。

『ヴリトラ、怖くないのかい?』

『ん?何だい急に。私が何を怖く思うんだい?』

『ヴリトラと、私達は種族の違いがあるじゃないか。もしかしたら、私達がヴリトラを裏切るかもしれないと思う事はないのか?』

『ははは。タイカンは、私を裏切るのかい?』

『そんな事はしないっ!、、しないが、、、お前は、それに怯えたりはしないのかと思っていたんだ。』

『私はね、マスターと共に過ごす事に時間を使いたいんだよ。そんな時に、どうでも良い事を考えるなんて勿体無いだろう?キミは、悩み過ぎるんだよ。』

『どうでも良い事なのか?』

『私にとって、マスターとの時間以外は全て些末な事なんだよ。』

『、、、。』

『キミは、殺したオニ?だったかな、その事を未だに考えていると言っていたね。私にすれば、勿体無い事なんだよ。過去に囚われて良い事はあるのかい?』

『それは、、、過去を教訓に、今があるんじゃないか。』

『今のキミは、その事だけで形成されているのかい?その過去に、マスターもあの精霊もいないんじゃないのか?』

『それだけとは言わない、しかし一部は、、、』

『そうなんだよ。一部しか無いじゃないか。今のキミは過去のキミから、この砂粒程度しか影響は受けていない。そして、この砂粒も舞ってしまえば、どれがその粒なのか分からなくなるんだよ。過去のキミなんて、そんなものさ。』

『砂粒程度、、、。』

『それ程に今キミの目の前にある粒は大きくて、今のキミを埋め尽くしているんだ。大切なのは、目の前の事なんだよ。』


『ヴリトラは、今を大切に生きていると。』

『そうさ。マスターと共にいる今が常に至高の時なんだ。』

『全てを理解したとは言えないが、ヴリトラがミカノを大切に思う気持ちは分かったよ。変な事を言って悪かった。これからも、ミカノの事頼むよ。』

『ははは。キミに言われずともさ。う〜ん。砂漠の夜は、口がよく回ってしまうね。喋り疲れたよ。』


ゆらりゆらり

ヴリトラは、月夜の中に浮かんでいる。


(オニの話しを持ち出すなんて、やはりあの会談で起きていたんじゃないか。)


私は再び天幕に入り、眠りについた。


確かにヴリトラが来た頃は、ミカノだけに費やしていたように思う。しかし、今のヴリトラは私達の事も見ているように思える。そして、私達も魔族という種族ではなく、ヴリトラそのものを見ている。見ているからこそ、共にいたいと感じている。



朝はすぐにやってきて、いつものように身支度を整え出発する。薪が減り、ブーンの足取りは更に軽やかになる。

『見て!砂漠が終わった!不思議だね。ここで、綺麗に分かれてる。』

『坊っちゃん、よく見ていますねぇ。本当、不思議です。』


砂漠を越えたが、書状にあった小屋は見当たらない。

これだけ広い砂漠で、偶然見つかるものではなかった。

草木が揺れる木々の隙間を歩いてゆく。

足元も硬い大地に変わり、歩きやすい。周囲の植物を見ているが、目新しいものは無かった。そういえば、島に育つ【母の木】を大陸では見ていなかった。


(ミカノにもあげていた【母の木】は、島特有のものなのだろうか。そうであれば、新たな特産品にでもならないかな。戻ってサクヤとエビスに言ってみるか。)


歩く内に、木々は密集し陽の光が遮られていく。どうやら森に入っていくようだ。ブーンの道案内で、どんどんと進んで行った。ブーンの手綱は、ヒミコが持っている。

この旅路で、ブーンはヒミコ共仲良くなっていた。


『タイカン様!』

手綱を引くヒミコが呼び、私達は駆け寄った。


眼前に広がるのは、大きな窪地に出来た大きな泉。その周囲を幾つかの建物が囲んでいた。

『タイカン様、あれが【トリト】でしょうか?』

『おそらく、、、』

森を抜けるのに、何泊かするものと思っていたが、ブーンのお陰で案外早く着いたのかもしれない。


『ねぇ!早く降りようよ!』

『キミ達、置いていってしまうよ。』

煌めく二人が、私達を先導している。


『坊っちゃん、危ないですよ。足元見てください!』

手綱を私に渡したヒミコは、ミカノを追いかけ降りていった。

『行こうか、ブーン。』

『ブフンっ』つぶらな瞳をぱちぱちさせている。


ブーンはとても可愛い。

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