タイカンと知らない世界
木陰の提灯が揺れている。心地よい風が吹き抜けている。
もしや、早とちりしたご先祖様が誤って辿り着いたのかもしれない。迎え火の季節は、特別な季節。
死者の事を思い出し、生前と同じように語りかける。
声は届かないかもしれない。しかし、会話が成立するような夢のような季節なのだ。
ベンテンがガワラの行き先を聞きに行っている間、ヴリトラは、ブーンと戯れている。魔物と魔族で通じるものがあるのだろうか。すっかり意気投合している姿は微笑ましい。ミカノも、ブーンの背に乗ったり、瘤を叩いてみたりとお気に入りのようだ。
『これ、柔らかいんだね!枕みたいだよ。』
『そうだろう。私もついつい頭を付けて眠ってしまうんだ。』
『【砂の王】の背に乗る者がいるなんて、誰に言っても信じて貰えないような事をキミはしていたんだね。』
『そうなのか?ブーンは、優しいからな。』
『それは、キミだからだよ。この子は、キミが好きなんだね。だから、マスターにもこうして優しいのだろうな。』
『ヴリトラも、馴染んでいるじゃないか?』
『私達は【神徒】だからだよ。世の理とは、少し離れた存在同士、分かり合えることが多いんだね。それでも、背に乗る者は、見た事ないけれど。』
『そういうものなのか。世の中は、知らない事が溢れているな。』
『そりゃそうや。少し前までは、島の中におったんやから。遊郭やろ、寄席やろ、呑み屋やろ、あと何やろ。なんせタイカンが知ってる事の方が少ないやろな。』
『そうだな。もし四種の至宝を探すならば、色々と見て回るのもいいかもしれないな。』
『そやな。そうなれば、【馴染み】がある方がええで。』
『【狩猟組合】の加入証明書だったかな?』
『そや、よう知ってるやん。』
『エビスが島に行っている間にな。アグモ達と知り合ったんだよ。ブーンもその時からだ。』
『そうか、そしたら話しも早いかもな。タイカンやったら、すぐに発行して貰えるかもやで。』
『それなら良いが。』
『まぁ、魔物を退治せなあかんかもやけどなぁ。』
『【山案山子】の王では、駄目なのか?』
『え?何て言うた?【山案山子】言うたか?』
『ああそうだ。そうか、サクヤには昨夜話したんだが、エビスには言ってなかったな。【山案山子】王の討伐の途中で、ブーンと出会ったんだよ。』
『いや、ブーンはええねん。ほんで【山案山子】の王を倒したんかいな?』
『そうだけど、、、駄目なのか?』
『ええに決まってるやん!しかも王やろ?でかい奴やろ?完璧やないかい!そやけど、何で【馴染み】を持ってへんのかが不思議やわ。ほんまお前は、、』
『大概なんだろ。もう分かったよ。』
そうこうしている内に、ベンテンが戻ってきた。
エビスが、回答を急かした。
『どやった?分かったか?』
『お〜、、お帰りとか無いんかい。まあええわ。ナガラさんでも、今何処におるかまでは知らんかったわ。』
『そうかぁ~ナガラさんでも知らんかったか、、、』
『結論を急ぐなや。「今」何処におるかは分からんねん。せやけど、ここ辞めて行った場所なら知ってたんや。』
『何やねん!それ先に言えやアホっ!』
『何でアホやねん!俺走って行って、走って戻って来たんやぞ!お前の方が何もせえへん、アホやんけっ!』
『はあ、犬のように吠えてばかりで。キミ達は、話しを薦める気もないのかい?いつまで、その煩い演劇を見せる気なんだい?』
『はあ!!』二人の息はピッタリだ。
『まあまあ、あの落ち着いて下さい。ベンテンさん、結局ガワラという人は、辞めた後何処に行ったんですか?』
『タイカン殿、すんません。【トリト】いう小国です。そこに向かったらしいですわ。』
『【トリト】ですか?エビス、聞いた事ある国の名前なのか?』
『勿論知ってるで。砂漠の先にある小国やねん。』
『砂漠?砂漠ってあの【山案山子】を倒した場所の近くなのか?』
『タイカン殿、砂漠は合ってますけど、全然近くないんです。砂漠を超えるのに、多分5日ぐらいは掛かったと思いますが、超えて更に先ですわ。』
『5日間砂漠ですか、、、。更に先。ん~、なかなか遠いですね。行ける場所にはあるんですか?崖とか谷とかではなく?』
『それは大丈夫ですわ。城下町にも【トリト】の商人が来てますから。』
『それならば、行ってみる価値はあるのかもしれないですね。』
ベンテンの話に私が「行く価値がある」と言ったものだから、ミカノの煌めきは一層増してしまった。
『えっ!行くの?行く?行くんだね!!』
『待て待て、ミカノ。思ったより遠くに居るんだぞ。もしかしたら、ひと月以上戻れないかもしれない。まずは、サクヤと親方様に相談してみよう。』
ミカノは、今すぐにでも出発したいのだろう。頬を膨らませている。
そんな私の話に不満げな男がもう一人
『キミ達は、相談や承認が好きなんだね。なんと面倒くさい者達なのか。はぁ、全く。』
『ヴリトラ、これは必要な事なんだ。お前も、親方様と友になったんだろう?何も言わずに旅に出るなんて、失礼じゃないか。』
『何を言うのかと、思ったら。友であるからこそ、話さずとも、通じ合えるのではないかい?はぁ、全く。』
『くっ、、、駄目なものは駄目だっ!相談は絶対だっ!』
不貞腐れる二人の事は、構わずに相談する事を決めた。私とて行きたい気持ちは強い。しかし、心配掛ける訳にはいかない。
エビスは自身がけしかけてしまったと、申し訳なさそうな顔をしていた。
『タイカン、何かすまん。俺も親方様と精霊様の所に行くの付き合うわ。ほんまごめんやで。』
皆で昼食を囲んだあと、城へ向かう事にした。